episode 113 「信念」
追い付いたニコルとセシルも合流し、全員でフェンリーを取り囲む。
「何が言いたいかはお解りですわね?」
セシルが怖い顔でフェンリーを睨む。
「あ……ああ。済まねぇ」
「よろしい。相談なさい。仲間なのですから」
「ああ。そうするよ」
密閉された屋敷のなかで僅かながら風がふく。ゼロがその方向を向くとラティックが両足から血を流しながらなんとか力を使って立ち上がっていた。
「諦めろ。その怪我ではまともに力も使えんだろう。おまけにこの人数差だ。貴様に勝ち目はない」
「また数を増やしたか……何が目的だ! なぜヒエロ様を狙う!」
ボロボロになりながらも、主人を守るため抵抗を続けるラティック。ふとセシルの存在に気がつく。
「アルバートのご息女か? あそこの者は皆殺しにされたと聞いていたが……まさかそれが我々の仕業だとでも?」
セシルがうつむく。
「似たようなもんだ。俺の仲間の遺体を回収しただろ。それを返せってんだよ!」
フェンリーが声をあらげる。
「遺体の回収? 確かに領地内で死亡した者たちは我々で回収することもあるが、それはあくまでも身元不明の者たちだけだ。遺族が残されていた場合はそちらに返却している。それ以外は我々が責任をもって埋葬している」
ラティックがいたって冷静に答える。嘘ではないようだ。
「嘘つくんじゃねぇ! 仲間の遺体を売りさばいたんだろ!」
「またその話か! 何度も言わせるな、人身売買などしていない!」
フェンリーとラティックの意見が真っ向から対立する。
「ではグリフィーの失踪者、行方不明者の多さはどう説明するのかしら? どちらもヒエロが市長に就任してから爆発的に増加しているんですのよ」
「ヒエロ様は容赦ないお方だ。その分、敵も多い。だが決して非人道的な手段を用いたりはしていない! この俺が断言する!」
ラティックのまっすぐな瞳に飲み込まれそうになり、これ以上意見を言うことができないセシル。
「ならばそのヒエロとやらに会わせろ。それで判断する」
「様を付けろ。そう易々と会わせるわけがないだろう。どうしてもと言うならばこの俺の屍を乗り越えて行け」
ラティックは最後の力を振り絞り、自分のまわりに風を出現させる。それは先程まで気絶していたとは思えないほど力強く、十分驚異となり得るものだった。
「やめろ。本当に死ぬぞ」
「殺してみろ」
ゼロの言葉を殺気でかきけすラティック。信念を貫き通すと決めた者の目だ。そういった者は何があっても止まらない。その心臓が止まるまで。
「……いいだろう。お前の望み、叶えてやる」
「ゼロ、何も殺さなくてもよろしいのでは?」
怖い顔をするゼロの裾を掴むセシル。少し怯えているようだ。
「セシル。これが戦いだ。目を背けるな」
ゼロはセシルの方は振り向かず、ラティックから視線を逸らさない。相手は満身創痍、今にも死にそうだ。しかし目をそらせばやられる、そんな予感をゼロに植えつける。
「お前たちは手を出すな。俺がやる」
ゼロは銃に弾を込める。銃がかつてないほど重く感じる。
「……感謝する」
ラティックが風を纏いながらゼロに突っ込む。ゼロは引き金に手をかける。そして引き金を引いた。弾は風をものともせず突き進み、ラティックの心臓を撃ち抜く。風が止み、血が吹き出る。
目をおおいたくなる光景に、セシルはラティックの最期を見届ける。その顔は苦痛の表情などではなく、どこか誇らしげで満足そうだった。




