episode 112 「援軍」
フェンリーを追い詰めた風使い、ラティック。間一髪のところで助けに現れたゼロとワルター。加護を有する相手にどう立ち向かうのか。フェンリーの仲間を取り戻すため、二人はラティックに戦いを挑む。
「風……か」
ゼロが宙に浮く異様なラティックの姿を見て呟く。
「そう。俺に与えられし加護だ。どうやらお前は拳銃わ扱うようだが、その程度なら俺の風でかきけすことができる。俺にその弾は届かない」
「では、その足の傷は何だ?」
ゼロを見下げるラティックの傷口を指差すゼロ。
「ほざけぇ!」
ラティックが風で操った弓をゼロに向かって飛ばす。銃で応戦するも、ラティックの言うとおり風によって方向を逸らされ、思うようにいかない。
「確かに撃ち落とすのは難しそうだ」
「なら叩き落とせばいいんじゃないか?」
ワルターが前に出て剣で弓矢を真っ二つに叩き割る。
「小賢しい!」
フェンリーに仕掛けたいしつぶてを二人に向かって飛ばすラティック。
「避けろ! 氷で威力を殺してもこの様だ! まともに食らえばミンチだぞ!」
フェンリーが叫ぶ。二人はフェンリーを抱えて全速力でいしつぶてから逃げる。逃げながらゼロがあることに気づく。
「奴から離れるごとにいしつぶての量が減っている。当然だが離れるほどに風の量も威力も失われているようだ。おまけに弓ほどの正確さもない」
分析するゼロの腕をいしつぶてが掠める。
「っ! だが、威力は桁違いだ」
掠めただけで服と肉は切り裂かれ、血が吹き出す。
「ワルター、俺が援護する。お前が奴を仕留めろ。ただし……」
「わかってるさ。殺すな、だろ? まったく、本当に殺し屋なのかい?」
「元だ」
ゼロは逃げるのをやめ、振りかえって銃を乱射する。ある程度の石を撃ち落とすことはできても、数が多過ぎてすべてを捌くことはできない。最小限のダメージに押さえつつ、ラティックに向かって弾を発射する。
「無駄だとわかっているだろう!」
弾は軌道を逸らされ、後方の壁へと命中する。密かに忍び寄るワルターにも気が付いているようだが、空中に居るためか特に気にはしていないようだ。
(何をしようと無駄だ。お前たちの攻撃は俺には当たらない。俺に近づくことすらできない)
余裕な表情のラティック。風を器用に扱い、二人に反撃の隙を与えない。それでも自分に意識を集中させるため弾を撃ち続けるゼロ。
無駄だとわかっていながら攻撃をし続けるゼロに苛立ちを覚えるラティック。それに比例して、操る風の精度も落ちていく。しかしそれでもラティックに近づくことができない。
「君たち人身売買をしているというのは本当かい?」
ワルターが少しでもラティックの集中を途切れさせようと質問を投げ掛ける。
「何を馬鹿なことを……そのような非人道的行為、ヒエロ様がお許しになるはずがないだろう。まさかそのような噂を鵜呑みにして俺たちを成敗しに来たのか? 何様のつもりだ!」
逆に火に油を注ぐ形となってしまった。たまらずゼロが戦線を離脱する。
「ワルター! 一度引くぞ! 下がれ!」
「いや、怒りで彼の風の制度が落ちている。今ならやれるさ!」
「ワルター!」
ゼロの忠告を聞かずにワルターは、フェンリーな残した壁の氷を足場にし、ラティックに飛びかかる。
「嘗めるな!」
ラティックはゼロに仕掛けていたいしつぶてを全弾ワルターに向けて発射する。
「今だゼロ!」
「っ!」
この好機を逃すまいとゼロがラティックに狙いを定め、渾身の一撃を放つ。
「うっ!」
弾はもう片方のラティックの足を貫通する。
「だが、こいつは終わりだ!」
風の制御を失い墜落していくラティックが叫ぶ。いしつぶても同時に風の手助けを失い威力を落とすが、それでもワルターを葬るだけの威力は残っている。
「ワルター!」
叫ぶフェンリーの横を誰かが通りすぎる。鋼の肉体を持つ男、オイゲンだ。
「っ! 頼むぞ!」
フェンリーはオイゲンの足裏を凍らせる。猛スピードで移動し、空中のワルターをキャッチする。いしつぶては全弾オイゲンの背中に命中する。しかし威力の失われたそれではオイゲンの肉体に傷をつけることすらできない。
「く、そ……」
落下の衝撃で意識を失うラティック。屋敷の中を支配していた風が、ようやく止んだ。




