episode 110 「ラティック」
ハウエリスの都市グリフィー。そこの市長、ヒエロには人身売買をしているという噂があった。仲間の死体がヒエロに回収されたのではないかと危惧する一同。奪還作戦を練るため宿をとるが、いてもたってもいられなくなったフェンリーは一人でヒエロの屋敷に殴り込みをかける。
フェンリーが中に突入すると、すぐさま私設軍と思われる兵士たちがフェンリーを取り囲む。
「なんだお前は! ここはヒエロ様の屋敷だぞ!」
「ああ、じゃなきゃ困る」
フェンリーの足元が氷始める。その光景を見て震え上がる兵士たち。
「な、なんだお前は! うわぁぁぁ」
一人、また一人と悲鳴をあげながら氷に飲み込まれていく兵士たち。フェンリーは一切の容赦をせず、突き進んでいく。
「さあ、死にたい奴から前にでな」
ヒエロの書斎。中には二人の人影が。一人はこの屋敷の主、グリフィー市長ヒエロ。そしてもう一人はヒエロ私設軍リーダー、ラティック。
「なんだか騒がしいな。おいラティック、様子を見てこい」
「かしこまりました、ヒエロ様」
フェンリーの暴れる音を聞いて、ヒエロがラティックに指示を出す。
ヒエロの書斎を出た瞬間、ラティックは異様な寒さに身を震わせる。
(なんだコレは)
よく見れば屋敷の所々に氷の塊が。さらによく見るとそれは自分の部下たちだった。
(何があったんだ!)
変わり果てた部下が閉じ込められた氷に触れるラティック。
「よぉ。お前がリーダーか?」
聞き覚えのない声に驚き振り返るラティック。そこには殺気と氷を身にまとったフェンリーが立っていた。
「まさか、人の仕業なのか?」
「俺の仲間を返してもらおうか」
困惑するラティックに襲いかかるフェンリー。慌ててラティックも応戦する。
「何をする! 我々に何の用だ!」
「黙れこのろくでなしども! 俺の仲間を返せってんだよ!」
氷をまとわせた拳でラティックに殴りかかるフェンリー。持っていた盾でガードするラティック。フェンリーの拳は盾に防がれるが、盾に触れた瞬間氷が盾を包み込む。
「どうなってる!」
氷がラティックの体に到達する前に盾を投げ捨てる。
「知らなくていいぜ。あいつらの居場所もお前を倒してヒエロとやらに直接聞くからよ」
その言葉を聞いた瞬間、ラティックの表情が変わる。
「ヒエロ、様だ!」
フェンリーの腹を蹴り飛ばすラティック。腹に仕込んだ氷の鎧ではガードしきれず吹き飛ばされるフェンリー。
「ぐは!」
「なるほどな、皮膚から氷を生成する加護か。触れられれば厄介だが、服の上からの攻撃は防げまい」
ラティックは背中から弓矢を取り出す。
「そして俺の予想では飛び道具を防ぐすべもないだろう」
「チッ!」
弓を放つラティック。フェンリーは足の裏に氷を付着させ、機動力をあげてラティックを翻弄する。
「無駄だ!」
避けはずの弓がフェンリーの背中に突き刺さる。
「なっ……に!」
ラティックのまわりには風が舞っていた。弓矢は宙に浮き、フェンリーに狙いを定めている。
「加護の存在をなぜ俺が知っていると思う? 俺がそうだからだ。覚悟しろ侵入者。偉大なるハウエリスの神、十闘神第七神ホルス様より授かりし我が風の力でお前を屠る」
「たっく、どうして俺の敵はいつもこう異能力者ばかりなのかね!」
風に乗った弓矢がフェンリーに襲いかかる。




