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スティールスマイル  作者: ガブ
第三章 もう一人のゼロ
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episode 107 「友」

久しぶりにハウエリスに降り立ったセシル。懐かしい風が吹いている。と、同時にあの夜の記憶が甦る。実際に見てはいない。いないが故に恐怖と絶望が増幅していく。セシルの足は自然と屋敷の方へと動いていく。


「何処へ行く」


ゼロが呼び止める。


「お父様とお母様の元」


オイゲンもセシルについて行く。てくてくと歩いていってしまう二人。


「あら彼女らとはここでお別れのようね」

「いや、行こう。やつらはアーノルトに襲われた。何か手がかりがあるかもしれない」

「アーノルト? 何で彼が出てくるのかしら?」


疑問に思うニコルにゼロが今回の旅の目的を説明する。


「はぁ? ゼロ君、あなた冗談も言えるようになったのね」


ニコルは信じようとしない。


「はは。皆同じ反応をするね」


笑うワルター。


「とにかく行くぞ」


ゼロは二人を追いかける。他の三人も仕方なく後を追う。


行き交う人々がセシルを見て目を丸くし、噂する。


あれはセシルお嬢様?

アルバートは滅んだのではないのか?

一緒にいる男たちは誰だ?

誰だあの巨乳は!


若干1名無視できない意見もあったが、耳を貸さずに歩き続けるセシル。セシルを守ろうと、オイゲンがぴったりくっついて歩く。


歩いているといつの間にか外野が静まり返っている。まるで皆何かにとりつかれたように。


「女の子の噂をこそこそするなんて。下品な男共ね」


ニコルがセシルにウィンクする。



「あ、有難うございます」


セシルはペコリと頭を下げる。



日がくれてくる。今夜は洞窟で野宿することにした。あの夜の洞窟だ。幸いスペースはそれなりにあり、六人で入っても余裕がある。洞窟の外のスペースを整備し、火を焚く。


セシルとオイゲンは森の中に入り、木の実を探す。ニコルは動物たちを誘惑し集め、それをゼロとフェンリーで仕留める。ワルターは調理係だ。


久しぶりに夕食は豪華なものとなった。色とりどりの木の実とウサギやリスの肉。特に肉は久しぶりで皆のやる気も上がる。


「やっぱ肉はうめぇなぁ!」

「そうだね、ニコルに感謝だ」


フェンリーとワルターが肉をむさぼる。


「そうかしら? 私はこっちの方がいいわ」


ニコルは木の実を頬張る。


「なんだか、残酷ですわね」


まだ面影の残るウサギの足を持つセシル。


ゼロはもくもくと食事を進める。


交代制で見張りながら眠りにつく一同。薪のお陰で動物たちは近づいてこないが、煙を見て物取りや盗賊が現れないとも限らない。もちろん組織の殺し屋も。


ゼロ、ワルター、フェンリー、オイゲンが順番に見張り、ニコルとセシルは眠りにつく。フェンリーはニコルも見張りに参加すべきだと最後まで主張したが、ワルターの説得によりしぶしぶ引き下がる。



「交代だよ。君は休みたまえ」

「……お前に言いたいことがある」

「なんだい改まって」


見張りをしていたゼロに交代を告げに来たワルター。そのワルターに神妙な顔つきでゼロが話しかける。


「済まなかった」

「え?」


膝をつき、頭を下げるゼロ。


「ここ数日お前を見ていてわかった。お前は決して才能溢れるというわけではない。だがとてつもない努力でそこまでの力を手にした。それを俺のために……」


ゼロはワルターの失われた腕を見る。


「なんだい、そんなことかい。前にも言ったはずだよ。俺は君を恨んだことなんてない。俺は自分のしたいことをした。頂点の男と戦い、そして負けた。それだけだよ」


ワルターはまるで楽しい思い出を語るように笑う。


「このハウエリスは優秀な技術者が多いと聞く。もしかしたら高性能の義手を作ることができる者も居るかもしれない」

「それは楽しみだ」


ワルターはゼロの肩に手をおく。


「その時はまた手合わせ願うよ」

「フッ」


久しぶりに笑みがこぼれるゼロ。ワルターに見張りを任せ、安心して眠りにつく。


友とはこういうものなのかもしれないな。そう思うゼロであった。





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