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スティールスマイル  作者: ガブ
第三章 もう一人のゼロ
105/621

episode 105 「告白」

「一緒に来てくれ」

そうニコルに伝えるワルター。ニコルは勿論、ニコルに襲われた一同は猛反対する。それでもなおニコルを率いれようとするワルター。そのようすにセシルは既に操られているのでは? と疑い出す。


「……あなた、何を言っているのかわかってるの?」

「ああ、君を勧誘している」


セシルがワルターをどつく。


「ふざけないでいただけます? あなたもしかして既に操られているのではなくて!?」

「俺は正常だとも、セシル」


フェンリーも黙ってはいない。


「だとしたら頭でも打ったか? この女は俺たちを殺そうとしたんだぞ!」


ゼロは黙ってワルターの行動を見守る。


「ああ、勿論わかっているとも。だけどねフェンリー、俺は惚れたんだ。彼女の技に。勿論その美貌にもね」


ワルターはニコルに向かってウィンクする。戸惑うニコル。


「ふん、惑殺とはよく言ったものね。こうやって私を惑わせ、困惑させて気を許したところを殺そうって魂胆ね。その手には乗らないわ。甘いわね。惑わせるのは私の専売特許よ!」


ワルターの目を見つめるニコル。ワルターは術にはまってしまい、体の自由が利かなくなる。しかしワルターは自我を失ってはいないようで、なおかつ余裕が見える。


「うん、この感覚だ」

「あら、案外しぶといのね。まだしゃべれるなんて。でも、これで終わりよ!」


ワルターに近づき、顔に手を触れるニコル。


「くそ!」


フェンリーがニコルに殴りかかろうとするが、術にかかったワルターがそれを受け止める。


「おい、ワルター! お前まで操られちまったのか!? 正気にもどれ!」

「いや、俺は正気だよ。フェンリー」

「じゃあ、なにか? お前の意思でこの女を庇ってんのか?」

「その通りさ。言っただろう? 彼女は仲間だ」


フェンリーが下がる。


「やっぱり操られてやがるな。いつからだ? いや、聞いても意味はねぇか」


フェンリーは両手の拳を凍らせる。


「目ぇ、醒ましてやる」




ニコルは確かにワルターに術をかけた。そしてワルターも術にかかった。なのに、ニコルの命令はワルターに届かない。からだの自由を奪っているはずなのに、その実感がない。心を支配したはずなのに、ワルターの心が読めない。


「……やめなさい。彼は正気よ。でもわからない。何であなたは私の虜にならないのかしら?」


ニコルが不安げに、そして不思議そうにワルターに尋ねる。ワルターはにこりと笑って質問に答える。


「君の術は相手の心を虜にし、奪って、君好みに塗り替える。そんなとこだろう?」


ニコルはワルターを警戒する。


「……ええ」

「なら答えは簡単だ。俺の心は既に君に奪われている。黒を白に塗りつぶすことは出来ても、白を白に塗りつぶすことは出来ないだろう?」

「……何を言っているの?」


ニコルの鼓動が高まる。


「俺は正気だ。正気で君に惚れている。俺と一緒に来てくれ」


ワルターはニコルに手をさしのべる。


今まで自分に好意的な人間は数えきれないほどいた。そのすべてがニコルの術にはまり、意のままに操ることができた。


そんなとき操れない男が現れた。ゼロだ。いくらちょっかいを出しても彼は自分になびこうとはしなかった。そんなゼロにいつの間にか惹かれていたニコルだったが、今回のワルターにはまた違う感情が芽生えていた。


自分に好意を向けている。術にかけることもできる。しかし操ることができない。なのに尚、自分に好意を向けてくる。彼の本心で。


ニコルはワルターの手を払いのける。


「ふん! バカにしないでちょうだい。こんなことでこの私がなびくとでも? それに周りを見てみなさい」


ワルターが周りを見渡すと、冷ややかな目で溢れていた。


「なんだい君たち。そんなに彼女が憎いのかい? 一人の女性によってたかって、恥ずかしいとは思わないのかい?」

「こいつは敵だ! 惑わされんな!」

「そうですわ! あなたやオイゲンが何をされたのかお忘れ!?」


中でもフェンリーとセシルは猛反対だ。


「昨日の敵は今日の友だろう? フェンリー、君と俺がそうだったように」

「っ!」


フェンリーを口を閉ざす。


「セシル、オイゲンは無事だ。それにいくら羨ましいからって、ニコルに嫉妬するのは間違いじゃないかい?」

「な! どういう意味ですの!?」


セシルは胸に手を当てて叫ぶ。


「それに聞いてくれ。彼女に身を任せてから、体がとっても軽いんだ。こんなに軽やかに動けるなんて思ってもみなかった。彼女がいれば、俺はまだまだ戦える!」


ワルターは嬉しそうに体を動かす。そしてニコルに向き合い、もう一度手をさしのべる。


「君の力が必要だ。文句があるやつは俺が黙らせる。ついてきてくれないか? 俺のために!」


自信満々に手をさしのべるワルターの顔を見て、思わず吹き出してしまうニコル。


「ハハハ! あなたおかしいんじゃない? いいえ、おかしいわ! ゼロ君、あなたも何か言ってあげて」


終始黙って聞いていたゼロが始めて口を開く。


「お前は信用できない。だが、お前の力は信用している。お前が俺たちと共に来たいというならば拒みはしない。が、後は言わなくてもわかるな?」

「ふふ、ええ勿論」


ゼロから目線をはずし、ワルターを見つめるニコル。


「いいわ。ワルター、あなたの告白受けようじゃない。私はニコル。悩殺のニコルよ」


ワルターの手を握るニコル。


「嬉しいよニコル」


ワルターもその手を強く握り返す。


「フェンリー、セシル、君たちの言いたいことと気持ちはわかる。だけど俺にチャンスをくれないか? ニコルは必ず俺のものにして見せる」


ワルターはフェンリーとセシルを交互に見る。その自信満々な顔を見て、二人は何も言い返せない。


「生意気ね。私が先に屈服させてあげる」

「望むところさ」


二人の様子を見て、オイゲンに話しかけるゼロ。


「お前はどうなんだ」

「お前たちの決めたことなら従うまでだ。だが、お嬢様に手出しをするようならお前たちが止めても俺はニコルを殺す」


オイゲンは心中穏やかではないようだ。


フェンリーは半ば諦めたようだが、セシルは納得いっていない。


「一つ聞きますわ。あなたを仲間に率いれて、わたくしになんのメリットがあるのかしら? 危険は一杯ありそうですけど」


セシルは意地悪な顔でニコルに尋ねる。そんなセシルを見て目の前までやってくるニコル。


「な、なんですの?」


怯えるセシル。ニコルはセシルの耳元に顔を近づけ、囁く。


「あなた、ちょっと匂うわね。よかったら村の風呂を使わない?」

「いいんですの!?」


突然大声をあげたセシルに驚く一同。


「ええ、仲間なら当然ですもの」

「そうですわね、仲間ですものね!」



あれほど毛嫌いしていたにも関わらず、セシルは一瞬でニコルを受け入れたようだった。




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