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スティールスマイル  作者: ガブ
第三章 もう一人のゼロ
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episode 101 「奥の手」

「いいのよ、そのまま撃っても。まあ私には当たらないけれど。だってこんなに盾があるんですもの」


ニコルはパッと手を広げる。家具と化していた男たちが一斉に立ち上がり、ニコルをとり囲む。


「さあ、何人殺せば私に当てることができるかしら? 見せてもらおうじゃないの、あなたの矜持とやらを!」


勝ち誇るニコルの肩を銃弾が貫く。


「な!」


肩をおさえてよろめくニコル。他の人々には掠りもしていないようだ。


「この程度の壁など無いに等しい。それと、今俺は怒っている。死なない程度に殺してやる。それが俺の矜持だ」

「ゼロォォォ!」




フェンリーとワルターは依然としてオイゲンに苦戦していた。オイゲンに付いてまわるセシルも非常に厄介だ。万が一オイゲンに仕掛けた攻撃がセシルに当たれば確実に死んでしまう。


「フェンリー、早くセシルを封じ込めてくれ。手が出しづらい!」


ワルターがオイゲンの攻撃を避けつつフェンリーに叫ぶ。


「そんなこと言ったってよ!」


セシルに向かって氷を這わせ続けても必ずオイゲンが割って入っていく。そしていとも簡単に氷を砕いてしまう。


「確か元帥殿の時は頭に衝撃を与えればよかったんだよね? あの美人さんも同じかい?」

「わからねぇ。だがやってみる価値はあるな。出来ればの話だけどよ」


その時、オイゲンが両手を思い切り地面に叩きつけた。その衝撃によって地面が波打ち、二人は天に打ち上げられる。


「うお!」

「でたらめだね!」


空中で身動きのとれない二人を目掛けてオイゲンが石つぶてを投げつける。狙いの逸れた石が木に当たり、それを突き抜く。


「おいおい! あんなもんまともにくらわなくても即死だぞ!」


次々とつぶてが二人を襲う。二人はなるべく体を縮こまらせて当たる面積を少なくさせる。直撃は避けたものの受け身をとることができず、そのまま地面に叩きつけられる二人。


「っ、大丈夫かワルター」

「……ああ」

「お前!」


ワルターは所々つぶてが擦ったのか、身体中から血を流していた。


「済まない、ちょっと無理そうだ」


そういって仰向けに倒れるワルター。腕の傷も開いてしまったのか、次々と血が溢れてくる。


「くそ!」


すぐに駆けつけ傷口を塞ぐが、ワルターはもう戦えないだろう。氷で塞いだところで永くはもたない。早々に決着をつける必要がある。


オイゲンはフェンリーの意識も失わせようと一歩ずつ近づいてくる。


「オイゲン、お前が悪い訳じゃねぇ。だがな、俺はお前を許さねぇ」


フェンリーはワルターの血を掬う。それをオイゲンに投げつける。血はオイゲンに当たるが、当たっただけで何も起こらない。


(くそ! まだ温度が高いか! もっと、もっとだ。もっと、怒れ。静かに、深く、冷たく)


フェンリーの体から冷気が上がる。足元の草木が凍り、地面がピキピキと悲鳴を上げ始める。するとオイゲンに付着したワルターの血が少しずつ固まり始める。手で血を落とそうとするオイゲンだが、それに触れたとたん手の方も凍り出す。暴れれば暴れるほど血が全身に飛び散り、全身が凍り出す。


「眠ってろ」


フェンリーがオイゲンの胸に触れる。所々で凍っていた氷が一気に結合し、オイゲンを氷が包み込む。


「はぁはぁはぁ」


フェンリーは疲労困憊で倒れる。


「頼んだぜ、ゼロ」



ニコルはゼロから逃げまとっていた。いくら壁を用意しようとも、弾丸の通る隙間は生じてしまう。そしてゼロはその隙間を見逃さず、ニコルに攻撃を加え続ける。急所はずれているものの、ニコルの動きは徐々に遅くなる。


「観念し、こいつらを解放しろ。お前に勝ち目はない」


ゼロは新しい弾を詰めながらニコルに語りかける。


「どこまで私を辱しめれば気が済むのかしら!」


ニコルに降参の意思はないようだ。今度は壁となっていた男たちを攻撃へと転じさせる。武器を手にしているわけではないが、十数人の男たちが雪崩のようにゼロに覆い被さっていく。


「フフフ! どうかしら? 今さら泣いても許してあげないわ」

「泣く? お前がか?」


覆い被さる男たちを吹き飛ばすゼロ。服についた埃をはらい、無傷なことをアピールする。


「俺をなめているのか? お前の前にいる男は誰だ?」

「……そうね。あなた相手に出し惜しみをしているわけにはいかないわね。私も制御できないから閉じ込めておいたのだけれど、仕方ないわ」


そういってニコルは鍵付きの部屋を開ける。中からは猿ぐつわをはめられた痩せ細った男が現れた。


「……!」


男を見た瞬間、ゼロは息を飲む。


一度見たら忘れられないその男の殺人。本人はいたって紳士的で常識人。だがひとつだけ常識からかけ離れていること。


食殺のサヌス。組織に属するSの殺し屋。


殺したあと、肉を貪り血を啜る。組織ですら手を焼く男。その男がよだれをたらしながらゼロを見つめている。どうやらゼロを肉と判断したようだ。


「もう止められないわ。あなたが死ぬまで」


ニコルは少し悲しそうな顔を見せ、ゼロとサヌスを残して部屋を出ていった。


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