episode 100 「VSニコル」
視線に気づき、後ろを振り返るゼロ。そこには明らかに自分に殺意を抱くセシルとオイゲンの姿があった。
「ニコル……貴様!」
「どうかしら? コレなら少しは楽しめるんじゃない?」
ニコルが指をパチンと鳴らすとオイゲンが飛び上がり、地面にパンチをかます。大地が揺れ、めくれ上がった地表から土や石がつぶてとなってゼロに襲いかかる。
「……く!」
両手で顔をガードするも、受けきることができず後ろに吹き飛ばされるゼロ。地面を転がるゼロに追撃を加えようとオイゲンが拳を振り上げて駆けてくる。なんとか起き上がり距離をとろうとするも、セシルがいきなり抱きつき、身動きがとれない。
(オイゲン……セシルのことが目に入っていないのか? このままでは巻き込むぞ!)
やむおえずオイゲンの動きを止めようと足を狙って発砲するが、弾が命中してもオイゲンのスピードは衰えない。
「さあやってしまいなさい! 私を侮辱したこと後悔させてあげる! 今さら謝っても許さないわ。存分に悔やみなさい!フフフハハハ!」
高笑いするニコル。
「くそ! 間に合え!」
オイゲンとゼロの間に氷の壁を出現させるフェンリー。だがオイゲンは厚さ三十センチはあるであろうその壁を軽々と拳で破壊し、そのままゼロにもダメージを与える。
「ゼロ!」
「……ガッ!」
セシルをかばい、まともに攻撃を受けるゼロ。氷でダメージを軽減しているとはいえ、そのダメージは凄まじく、ゼロの体を軽々と吹き飛ばす。攻撃が命中した左腕は砕かれ、銃を握ることはおろか、拳を握ることすらできなくなっていた。
(なんという威力だ……直に攻撃を受けていたら確実に死んでいたな)
紫色に腫れ上がる左手をかばいながらオイゲンとセシルから距離をとるゼロ。
「フェンリー! 頼む」
「お、おう」
左腕を凍らせ、骨を固定するゼロ。激しい痛みが襲ってくる。
獣を退けたワルターも駆けつける。
「なんだいゼロ。まだ終わっていなかったのかい? ……ってなんだか厄介なことになっているようだね」
ようすのおかしいオイゲンとセシルを見て状況を大方把握するワルター。
「フェンリー、君はセシルを保護してくれ。オイゲンは俺とゼロでやろう」
「ああわかった。わかってるとは思うがオイゲンは強敵だ。しかも今は情けをかけてくれる心も存在しねぇ。気を抜けばあっという間にあの世だぜ?」
そういい残してセシルの足元目掛けて氷を這わせるフェンリー。しかし、氷はセシルの足元に到達する前にオイゲンによって木っ端微塵に砕かれる。
「おいおい、そこだけは残ってんのかよ」
心を封印されてもなおセシルを守ろうとするオイゲン。
今度はオイゲン目掛けて氷を這わせるも、岩盤ごと持ち上げられ、氷はオイゲンまで届かない。
「まじかよ!」
岩盤はそのままフェンリーに向かって落ちてくる。ワルターが間に入り、岩盤を一刀両断する。
「まったく、言ったそばからこれかい?」
「う、うるせぇ!」
二人は目の前の大男を見据える。どうやらゼロにやられた足の傷も既に癒えているようだ。
「こりゃ、殺す気で掛からねぇとこっちが殺されちまうな」
オイゲンがドスドスと地面を揺らしながら迫り来る。フェンリーが氷の壁を何重にも展開するが、オイゲンはまるで障子を破るかのように突き進んでいく。
「ハハ! まるで戦車だね。ゼロ! ここは俺たちに任せて君はあの美人さんを懲らしめてやってくれ。オイゲンはともかく、セシルにまで危害を加えたのはいただけないからね」
「……無茶はするな」
ゼロは林の中へと入っていったニコルを追いかける。道中またもや操られたと思われる獣たちを蹴散らしながら先へと進んでいく。
やがて一軒の家が見えてくる。明らかに怪しいがニコルはここにいると確信したゼロは警戒しつつ家の中へと入っていく。
中にはニコルの奴隷にされたと思われる人々がまるで家具のように振る舞っていた。自我は既に失われているようで、生きているのかすら疑わしかった。
「あらゼロ君、早かったわね。ようこそ私の楽園へ。歓迎するわ」
「ニコルどれだけ無関係の人間を巻き込めば気がすむんだ。殺し屋としての矜持は無いのか?」
人間椅子に座るニコルに銃口を向けながら問いかけるゼロ。
「矜持? 何それ。殺し屋にそんなもの必要かしら? それに関係ない訳じゃないわ。この世の男はすべて私のもの。これだけで充分じゃないかしら?」
「ならば俺も支配してみせろ」
「ええ、もちろんそのつもりよ!」




