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眠れるキツネは夜明に泣く  作者: ヒフミトーヤ
6/8

テヲ、ハナサナイデ

 ホームに下り電車のアナウンスが入り、二人は名残惜しげに体を離す。でも離れたくなくて、ノリが伸ばした細い指を、瑛海はちゃんと捕まえてやる。


 瑛海の腕に頭を寄せてノリは幸せそうに、繋がれた手を見つめた。



「そいやお前のノリって、本名?」

「へ? うん、矩太郎(のりたろう)って言うの」

「ぶっ! マジかよ! お前の親よくもそんな純日本風な名前つけたな! お前が将来、こんなお人形さんみたいに可愛くなるの、きっと知らなかったんだな」


 瑛海はくしゃくしゃに顔を緩めて笑ってみせた。無意識に褒める男相手にノリは動揺を隠せない。

「なっ、なんだよ、それっ……そんな……」

 うまく返す嫌味も、最早思いつかない。素直に嬉しいと言ってしまいたい。

 言ったら、次は何と言ってくれるのだろうと、ノリは赤い頬をしたまま瑛海を見上げると、穏やかな目をした瑛海と視線が合い、心臓の高鳴りが最高潮に達した。


 線路の奥から、大きな警笛を鳴らした下り電車がホームに入ってくる。


 ノリの心はふわふわと宙に浮いていた。

 二人きりになったら、また、瑛海は甘い言葉を囁いてくれるのだろうか、また、抱きしめてくれるのだろうか。そして、今度こそ──


「このアバズレがあーーー!!!!!」



 おどろおとろしい叫声と共に、もの凄い力でノリは背中を突き飛ばされた。繋がれていた手が、千切れた紙テープのようにブツリと離れていく。


 ノリの細い体は呆気なく前に飛ばされ、薄暗い線路に向かって落ちて行く。


「ノリッ!」


 自分を呼ぶ声に少しだけ視線が反応した。酷く驚いた顔の瑛海と目が合った瞬間、これが最期の景色なんだとノリは、ふと悟った。


 だが、強い力に手首を引かれ、落ちて行くしかなかった体はまたホームへと引き戻される。それは何か代わりの反動を使ったお陰だった。


 まるで、シーソーみたいに、自分が上がると反対側は落ちて行く。

 ノリの反対側は──瑛海だ。



 ホームにいた女性の悲鳴と、鼓膜が破れそうなほど強く割り響く警笛と、城山の不気味な笑い声。



 だが、ノリは自分を強く呼んだ瑛海の叫び声以外、何も耳が受け入れなかった。


 叫び声みたいに電車のブレーキ音がホーム全体を包んで、そこにいる誰もが異常な空気に体を震わせた。


 ホームに滑り転げたノリは尻餅をついて、勢いよくベンチに肩を打ち付けた。派手に打ち付けたのに、大きな痛みを感じない。何が自分に起こったのか、何が今目の前で起こったのか、全く何も理解出来ない。


 わかるのは今隣に立っていたはずの瑛海が、どこを見回してもいない。目の前には電車の車体があって、中の乗客たちが必死に窓から線路の隙間を覗いている。


「え……み……、瑛海……」


 ガクガクと全身が震えて、ノリは力の入らない足を動かすことが出来なかった。ただ、訳もわからず涙が次から次へと溢れて来て、探している男の名前を呼ぶことしか出来なかった。


「瑛海……っ……えぃみ……、瑛海、瑛海!!」


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