06:奴隷仲間が売られて行きました
薄暗い店内には、リレイの他にも奴隷にされた者達がいた。皆、鎖につながれて項垂れている。
買い手が決まっている人間はリレイも含めて店の奥に、まだの人間は店の表に繋がれているようだ。
「ねえ、あなたも変な因縁をつけられて捕まったの?」
リレイは、隣に繋がれている若い男に尋ねた。
「ああ。ここにいる奴は皆、だまし討ちのような方法で捕まった奴ばかりさ。人買いに売られた奴もいる。ここ、ヘル・シティでは、他の街の常識なんて一切通用しないからな」
「ヘル・シティって?」
「なんだ、お前。田舎から売られてきたのか? ヘル・シティは、この街の名前だ」
「私は……ここの出身ではないの」
「気の毒にな。田舎者がこの街に来るなんて、肥えた豚がオオカミの巣に飛び込むようなもんだぞ?」
豚に例えられたリレイは、なんとも言えない気分になる。
「……そのようね。こうして店の奥にいるということは、あなたにも買い手が付いたの?」
「そうみたいだな。買い手がまともな奴であることを望むが——ヘル・シティではそれも難しいだろう……殺されなければいいが」
男の言葉に、リレイは戦慄した。
この世界は、本当にどうしようもない場所のようだ。
(女神様が救世主を送り込もうと思ったのも正しい判断かもしれない。けれど、人選はきちんとして欲しかったわ——今回は、魔法を使わなくても戦える格闘家のイゴールの方が適任なのに)
リレイが心の中で不満を述べていると、男が口を開いた。
「お嬢ちゃんにも買い手が付いているんだな。どうせ、好色な変態野郎だと思うが……」
「え……変態!?」
「お嬢ちゃんは珍しい目の色をしているし、かなりの美人だ。上手く相手に取り入って気に入られれば、生き延びられるかもしれない。くれぐれも、悲観して自殺なんかするなよ」
「……はぁ」
奴隷の連帯感からか、男は初対面のリレイの心配をしてくれている。彼は心優しい人間のようだ。
しかし、男の口から出た悲壮な事実を知るだけで、リレイは気が重くなった。
(私の買い手が、好色な変態野郎だなんて絶望しかないわね)
しばらくして、店の扉がギギギと耳に不快な音を立てて開いた。
現れたのは、片目を眼帯で覆った巌のような大男だ。店主のセドリックも大柄であるが、この男はそれを上回っていた。
「おい、俺の奴隷は?」
男は、しゃがれ声でセドリックに声をかける。
すぐに、両手をすりあわせたセドリックが男に対応した。
「これはこれは、アーノルド様。いつもありがとうございます」
アーノルドと呼ばれた男は、居丈高にセドリックに接する。
(あのデカイ人は、ここの常連なの?)
二人を観察していると、セドリックがリレイ達の方へ歩いてきた。先程までリレイと話していた男の前に立つ。
「立て。ご主人様のお迎えだ」
セドリックは、壁に繋いでいた鎖を外して、男を無理矢理立たせる。男の両手足は拘束されたままだ。
腕と足には手錠と足枷が付けられており、かろうじて足を前後に動かして歩くことができる長さの鎖が付いている。
怯えた表情の男は、セドリックに追い立てられるようにして、アーノルドの方へ向かう。
「今度の奴は、長持ちしそうだな……前の奴は二日しか持たなかった」
「……!」
アーノルドの言葉に、繋がれた男が恐怖に震えて逃げ出そうとする。
しかし、すぐにセドリックに捕えられて買い手の元へ引っ立てられた。
引き攣れた断末魔のような叫び声を上げる男は、アーノルドとセドリックに連れられて、店の外へと引きずられていった。




