05:奴隷商人の店で縛られました
ジャラリ……
近くで耳慣れない金属音が鳴った。
その違和感に、リレイの意識が急浮上する。
「……なに、ここ」
リレイの周囲を取り囲んでいるのは、平たく無機質な石の壁だ。両手量足首には、細い鎖が巻かれている。鎖は細いくせに、リレイが強く引っ張っても千切れなかった。
先程から、首の後ろに鋭い痛みを感じるのだが、体が固定されて動けないので確認することができない。
ふと、前方に人の気配を感じてそちらを見ると、大きな人影がのそりと動いていた。
「お目覚めか……」
「誰?」
「……しがない商人だ。お前さん、運が悪かったな。ジンの奴に目をつけられるなんて」
「何を言っているんですか? ジンって?」
「お前を捕えた男だ」
「捕えた?」
リレイは、直前の記憶を手繰り寄せる。
「そういえば……」
落下した拍子に屋根を壊して、見知らぬ若い男に追いかけ回されたのだった。
途中、意識を失ってしまったが……きっとあの金髪の男に捕えられて、この場所へ運ばれたのだろう。
「ここは、牢屋なの?」
元々リレイがいた世界では、罪を犯した者は警吏に捕えられて指定された牢へ入れられる。
「牢と言えば牢だな。お前さんから見れば、牢だろう」
「不思議なことを言うのね……他の人間から見たら、牢じゃないということ?」
「店だ」
男は意外な言葉を口にした。
「店? どういうこと?」
「ここは、奴隷を扱う店。そして、俺はここ主のセドリックだ」
「……奴隷?」
現状を理解出来ないリレイは、首を傾げた。やはり、首の後ろがひどく痛む。
「そう、ジンの奴は悪質な賞金稼ぎだからな。賞金首はもれなく監獄行き、賞金がかかっていない人間は奴隷行きだ……」
リレイはフルフルと首を振った。急に突拍子もないことを告げられ、頭がついていかないのだ。
(ここは、そんな物騒な世界なの?)
魔王の眷族である魔族達でさえ、そんなことはしていなかった筈だ。
「だとすると……私は現在、奴隷として扱われているということ?」
「そうだ。もう買い手も付いているし、手続きも終わっている……ここで一時的に預かっているだけだ」
「はあ!?」
セドリックの言葉に、リレイは思わず大きな声を上げる。だが、彼はリレイの反応を意に介さず、穏やかに言葉を続けた。
「もうすぐ、ご主人様が引き取りにくるから、それまで大人しくしてな」
「……ご冗談を」
「悪いが……冗談ではない」
(女神様——!)
リレイは、再び心の中で自称女神に祈った。
しかし、またしても何も起こらなかった。
(アースが救世主としてやって来た時と、待遇が違いすぎるのでは……!?)
彼が勇者として旅をしている間、女神は度々彼に助言を与えたという。
リレイが女神に会ったのは先日が初めてだったが、勇者は過去に度々女神と接触しているようなことを口にしていた。
しかも、アースは「勇者としての能力は女神が与えた」とも言っていた。
(私……能力を与えられているどころか、奪われているんですけど!?)
もしも、魔法が使えれば、リレイだってここから簡単に脱出できる筈だ。
(……そこまで、女神様を怒らせてしまったの?)
薄暗い部屋の中で、リレイはぐったりと項垂れた。