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04:変な男にしょっ引かれました

 リレイは、走って逃げた。

 不可抗力で、どこかにしょっ引かれるなんて、たまったものではない。

 暗い夜道を、全力で駆け抜ける。


「あはははは! 追いかけっこもいいけれど、そろそろ観念しなよ〜。俺、今まで一度も獲物を取り逃がしたことないんだよ〜?」


 どれだけ走っても笑顔でリレイを追いかけてくる男は、魔王城のゾンビ並みのしぶとさだ。

 リレイだって、多少のブランクはあるものの、鍛え抜かれた魔法剣士であるはずなのに……


「なんて男……こいつ、上級の魔物か何かなの!?」

「そっちは、袋小路だよ〜!? 観念したら、子猫ちゃん?」

「……ひいっ!」


 男は、このまま走れば袋小路だと言うが、ここ以外に道はない。そして、立ち止まったら捕えられてしまう。

 行き止まりだと分かっていても、リレイは走り続けることしかできしかなかった。


「どうしよう……魔法が使えないから空も飛べないし、隠れることもできないわ」


(女神様——!!)


 リレイは自称女神に助けを求めて祈ったが……やはり、何も起こらなかった。

 その結果、男の言った通り、行き止まりで立ち往生する羽目に陥ったリレイは、壁を背に立ち竦む。笑顔で自身を追い詰めてくる金髪の男を、睨みつけながら。


「どうする? 抵抗するなら多少手荒くしちゃうよ? 大人しく捕まってくれるなら、優しくしてあげる」

「屋根を壊したのは、ワザとじゃないの! 不可抗力なのよ!」

「でも、君が屋根を壊したことで、店の者達は困るだろうねえ?」

「う……わ、分かったわよ! 修理費は出すわ……手持ちはないけど必ず用立てる。だから、その物騒な手錠をしまってちょうだい!」

「えー、嫌だよ。そっちが修理費を払おうが払うまいが、俺には関係ないもん。君を捕まえたいから捕まえるんだよ」

「はあ? 何よそれ!」


 意味不明な理由でリレイを追いかけ回す変な男。


(コイツには、何を言っても通じないのかしら? そこまでして、私をしょっ引きたいの!?)


 店主の話を持ち出しておいて、結局は自分の要望を優先させている男を説得することを、リレイは早々に諦めた。


「ふざけないでよ! こんな意味の分からない場所で捕まるなんて、冗談じゃないわ!」


 大きくジャンプをして体をくるりと回転させると、リレイは男の頭上を軽々と飛び越える。魔法は使えないものの、人間離れした運動能力は失われていないみたいだ。

 着地すると同時に、リレイは、元来た道を全力疾走した。

 背後から自分を見つめる男が、舌なめずりをして口角を吊り上げるのにも気が付かないまま。


 リレイは、走って、走って、走り続けた。

 背の高い建物だらけで、自分がどこをどう走っているのかも分からない。方角だって無茶苦茶だろう。

 けれど、逃げなければならない。あの、手錠男の元から——


「ここまで来れば、大丈夫よね……」


 薄暗い路地裏に潜り込み、リレイはようやく足を止めて一息ついた。



「おや、そんなところで何をやっているのかな?」

「お嬢ちゃん、迷子かな?」


 声のする方向を振り返り、リレイは舌打ちした。休む暇もないらしい。

 見るからに素行の悪そうな二人組がニヤニヤとこちらの様子を伺っている。


(どこの国でも、こういった路地裏にロクな輩はいないようね)


 男達を睨みながら、リレイは口を開く。


「ああ、迷子ですよ。世界を跨ぐ壮大な迷子ですよ! もう!」


 リレイがやけになって答えると、男達は少し怯んだ。

 けれど、相手が女一人だと油断しているのだろう、男達はすぐに勢いを取り戻す。


「これだけ見た目が良いなら、高く売れそうだな」


 男達は、懐から刃物を抜いた。小型の安っぽいナイフだ。


「……あなた達は人攫い?」

「おうよ、お嬢ちゃんを花街に売り飛ばしてやるぜ。怪我をしたくなかったら、大人しくついて来な……」


 ゴツゴツとした岩のような腕が、リレイの方へと伸ばされる。

 強引に手を掴もうとする男の腕を振り払ったリレイは、その隙に男から刃物を奪った。


「先に刃物を出したのは、そっちだからね! 後悔したって遅いよ!」


 手の中で、くるりをナイフを回転させると、切っ先を下に向けて柄の部分で男の顎を殴る。

 もう一人の男も、同様にナイフの柄で額を殴って蹴り倒した。


「なんだ、弱いな」


 男達は、意識を失い路上に転がった。

 この辺りの治安は良くないのだろう。

 さっきの変な男といい、この人攫い達といい、ロクな人間がいない。


「休める場所を確保しなきゃ……」


 元の世界には宿というものがあった。魔王を倒す旅の間は、世話になったものだ。


「ここにも、宿はあるのかしら」


 あったとしても、金がない。自称女神は、リレイを身一つでこの場所に落としてしまったらしい。


「野宿をしようにも、こんなに治安の悪い街中だし……困ったわね」


 リレイは、俯いたまま途方に暮れた。

 逞しく育ってきた方ではあるが、こんな事態は完全に想定外だ。


「なら、俺のところに泊まればいいよ? 子猫ちゃん」


 聞き覚えのある声に、ゾワリとリレイの全身の毛穴が開く。


「ここまで追って来たの!?」


 振り返ると、予想通りさっきの金髪の男が立っている。


「君のことが心配で、来ちゃった……意外と強いみたいだけれど」


 男が、地面に伸びている人攫い達を見下ろして言った。


 リレイは、俄に焦った。よく考えたら、ここも袋小路である。


(やばい、早く逃げなきゃ!!)


 先程と同じように、リレイは金髪の男を飛び越えようとした。

 しかし、今度はその前に、男が驚くほど素早い動きでリレイの腕を掴む。完全に予想外の相手の動きに、捕われたリレイは動揺した。


「……!? そ、その手を離して!」


 一瞬の隙をつき、リレイは男の頬を殴り飛ばす。男の手が緩んだのを確認して、彼の腕を振りほどいた。


「っ……!」

「残念でした、私は捕まらないわよ。弁償ならするから、見逃してちょうだい……あっ!」


 そのまま走り出そうとしたリレイの片足を引っ掛け、男は再び素早い動作で転倒したリレイ捕える。素早いだけではない、リレイを掴むその腕力は魔物並みの馬鹿力だ。


「ちょ、やめてよ! 離してよっ!」


 男は、抵抗するリレイの腕をひねり上げて、その動きを抑える。

 中途半端な体勢のリレイは、そのまま男に手錠を嵌められて捕えられた。力対力では、小柄なリレイが不利なのだ。


「はあ。やっと捕獲できたぁ……すばしっこいんだから」

「離してよ! 離せ! このっ!」


 尚も抵抗するリレイの首筋に、不意に衝撃が走った。男に手刀を決められたらしい。

 そのまま、リレイの意識は暗闇に沈んだ。

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