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03:女神様の怒りを買いました

ここからやっと、話が始まります(^^;)

 あれから、五年が経過した。


 美しく成長したリレイは今、城の近くの森の奥に立てられた家でひっそりと好きなことをして過ごしている。本を読んだり、菓子を作ったり……ずっと憧れていた静かで平和な生活を楽しんでいた。

 彼女の実力を惜しんだ王の使いが、何度か家を訪れて騎士にならないかと勧誘を掛けてきたが、リレイは全て断っている。

 もう、誰かに飼われる生活はウンザリだったのだ。


 だが、そんな夢のような生活は突如終わりを迎えた。



『……リレイ、リレイ——』


 ある日、リレイの夢の中で、耳慣れぬ心地よい女性の声がした。


「誰?」


 夢の中のリレイは、その声に向かって返事をする。声は、リレイの返事に反応を返した。


『リレイ……あなたに、お願いしたいことがあるのです。どうか、私に力を貸して……』

「だから誰? いきなり力を貸してだなんて、そんなことを急に言われても困るわ」


 この時、もっとまともな返事を返していれば、あんなことにならなかったのかもしれない。

 けれど、自由に暮らすリレイにとって、見知らぬ誰かからの「お願い」なんて、煩わしい物でしかなかったのだ。夢の中なので、正直な気持ちが出た。


『私は女神、この世界に勇者を導いた者です。あなたは選ばれました、次代の「救世主」に』


 自称女神は、尚も淡々とリレイに告げる。

 しかし、彼女の姿はどこにも見えない。リレイの頭に声が響くだけだ。


『かつての勇者もあなたと同じ。自室で空想に耽るだけの無為な時間を過ごしていた。だから、救世主に選ばれたのです。彼は無事に「役目」を果たし、「救世主」から解放されました』

「だからって、何で私が……それに、自室で空想に耽るだけの無為な時間って失礼ね! 私にとってはこれも有意義な時間なのよ!?」

『世の役に立てる力を持ちながら無益な生を送る者に、拒否権はありません』


 女神は、言葉を続ける。


『かつての勇者は力を持たぬものでした。しかし、あなたには既に実力がある。ギフトは渡さなくても大丈夫でしょう』

「ギフト? 何を言って…………!?」


 そう口にした途端、リレイは自分の体に違和感を感じた。


『今から、あなたを異世界に転送します』


 リレイの視界が、急に暗転した。


「え、マジ? 夢じゃないの? 本気なの!?」


 重力がなくなり、グルグルと体が回転する。奇妙な感覚にリレイは酔いそうになった。

 と思ったら、急に重力が戻った。


(——落ちる!!)


 胃の中身が持ち上がるような不快な感覚に目を開けると……空の上だった。

 薄暗い星空に浮かんだリレイは、下から吹き上がる冷たい空気に包まれる。


「ああああああああああーっ!」


 真っ逆さまに地面に向かって体が急降下している。現在進行形で落下しているのだ。


「自称女神ー! 私を殺す気かぁぁぁっ!!」


 いくら無益な日々を送っていたからと言って、いきなり処刑だなんて酷い。

 リレイは、咄嗟に魔法で落下を防ごうとした。

 これでも対魔王戦のメンバーの一人、魔法剣士だ。それなりに魔法が使えなければやっていられない。けれど……


「え? どうして魔法が使えないの!?」


 いくら試しても、魔法が発動しない。魔力の反応自体がない。


「どういうことですかーーーー!?」


 重力に身を任せて落下——リレイに用意された選択肢は、それだけだった。



 しばらく空中を舞い、いよいよ地面が近づいてきた……と思ったら、バサリと何かがリレイの体を包み込んだ。大きな布のようだ。

 どうやら、背の高い建物にくっ付いている布製の屋根の上に落ちたらしい。

 めりめりと音を立てて布が破ける。その下もまた布でできた屋根だ。

 何度か同じことを繰り返し、落下速度が徐々に緩くなっていく。


「布のおかげで、地面に投げ出されても打撲程度で済むかもしれないわね」


 リレイは、その時を覚悟して目を閉じる。

 しかし、地面に体を打ち付ける衝撃は来なかった。代わりに、どさりと柔らかいものの上に落ちる。屋台の屋根ではない。もっとしっかりしたものだ。

 恐る恐る目を開けると——人がリレイの下敷きになっていた。


「あ……」


 澄んだ二つの青い瞳が、じっとリレイを見つめている。

 まだ年若い青年だ。彼が落下したリレイを抱き止めたようだった。


「大丈夫? 怪我は……無いかな?」


 淡い金髪を持つ整った顔立ちの青年は、優しそうな表情でリレイの安否を気遣う。

 リレイは、彼の言葉に頷いた。


「うん……下敷きにしてごめんなさい。そっちこそ怪我はしていない?」

「平気だよ。それにしてもびっくりしたな。急に空から降ってくるんだもの……ところで」


 青年は、急にリレイの腕を引っ掴むと、楽しそうに口を開いた。


「これって、大規模な器物破損罪だよね? しょっ引いてもいい?」

「……は?」


 彼は、いい笑顔で懐から手錠のような物を取り出した。


「えっと、私が屋根を壊してしまったのは不可抗力よ……?」


(どうしよう、異世界に来て早々に罪を犯してしまうなんて……女神様、助けてプリーズ——!!)


 リレイは心の中で、自分をこの世界に導いた張本人に助けを求める。

 しかし、リレイの声に答える者はいなかった。怠惰な受け答えで、自称女神の怒りを買ってしまったのかもしれない。


 咄嗟に青年を突き飛ばしたリレイは、彼から距離をとって周囲を見渡す。

 予想通り、リレイの周りには見たことのない光景が広がっていた。

 巨大な背の高い四角い建物が建ち並ぶ街。道は石で固められているが、全体的に薄汚れている。

 街角にはゴミが散乱し、壁には塗料を叩き付けたような荒々しい落書きが施されていた。


 訳の分からない場所で、訳の分からない言いがかりをつけられ、魔法も使えない。

 女神様はリレイをとんでもない場所に飛ばしたみたいだった。

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