01:プロローグ1
——閃光が迸る
この世の全てを照らすかのような明るい光が、無数の矢になって世界を包み込んだ。
ある者は歓喜に涙し、ある者は家の窓を開けて真昼のような夜空を見上げていた。人々の喜びの叫びが、大陸中に響き渡った。
魔王が、倒されたのだ。
※
大陸一の巨大国家、ウィズラルド王国の城は活気に満ち溢れていた。
着飾った衛兵達が楽器を吹き鳴らし、令嬢達がひらひらと花の様なドレスを着て軽やかに笑う。
城下には、本物の花が撒かれ、商人達は今がかきいれ時だとばかりに店の前で声を張り上げる。
どの国もどの街もお祭り騒ぎだけれど、この国ほどではないだろう。
しばらくすると、城下の人々の間から、ひときわ大きな歓声が巻き起こった。
「勇者様だ!」
「魔王を倒された、勇者様のご一行だぞ!」
一人が声を上げると、全員がそちらに目を向ける。
路上の整備に駆り出された兵士達が、人ごみを分けて道を開いた先には、五人の若者が乗った大きな馬車があった。
馬車の天井と壁の部分は取り外されており、中の人間の姿がよく見える。馬車の前後には、兵が並び、更にその周囲には綺麗な衣装に身を包んだ踊り子達が舞っている。
「勇者様! 万歳!」
「勇者様、勇者様、勇者様!」
人々の歓声を受けた馬車の中の若者達のうちの一人が立ち上がり、彼等に向けて大きく手を振った。
銀の鎧に身を包んだ、精悍な顔立ちの青年だ。アッシュブロンドの髪が、日の光にキラキラと反射している。
紫色の目を興味深げに輝かせた彼は、馬車の上から人々を見下ろして柔らかな笑顔を振りまいた。
「あーあ。サービス精神ふりまいちゃって」
彼の向かいに座る、黒いマントに身を包んだ少年が皮肉を含んだ笑みを漏らす。切りそろえられた紺色の前髪が不快そうに揺れた。
「まあまあ、ちょっとぐらいいいじゃないか。減るもんじゃあるまいし」
そう返すアッシュブロンドの髪の青年の言葉に、彼の隣に座っているシスターのような装いの女性が笑顔で頷いた。くるくるとカールを描く彼女のピンクブロンドの髪は、長過ぎて馬車の座席で蜷局を巻いている。
「そうだぞ。今日くらい、大目に見てやれ」
女性の向かい側に座る色黒で大柄なスキンヘッドの青年に諭され、少年は不満げに反対側に目を逸らした。
「なあ、リレイも何か言ってやれよ。こいつら、チヤホヤされて調子に乗ってるぜ?」
少年は、アッシュブロンドの髪の青年の隣——シスターの女性とは反対側に座る小柄な少女に向けて声を掛けた。
まっすぐな黒髪を背中まで伸ばした飾り気のない少女は、感情の乏しい紅い目を少年に向けて呟く。
「…………どうでもいいわ」