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17:言い掛かりをつけられました

 斡旋所の中には、朝と同様に多くの人間が集まっていた。

 ジンが職員にアーノルドの件を報告をしている間に、奴隷の男がリレイに斡旋所内の説明をする。世間知らずの田舎者にいたく同情している彼は、自らを救った少女に、この世界の常識を教える気満々であった。


「あそこが職業の斡旋……向こうが個別の依頼の斡旋」

「ねぇ、あなたは文字が読めるの?」


 なんとなくリレイが聞いた質問に、男は頷く。


「ああ。奴隷になる前は、用心棒派遣業を営んでいた」

「ふぅん。じゃあ、計算も得意なのね」

「そうだな」

「じゃあ、あれなんてどう?」


 リレイが指差す先には、求人募集の張り紙が出されていた。リレイは文字が読めないが、先程の男の説明から張り紙の内容に当たりを付ける。

 やや違いはあれど、基本的に構造は元の世界のギルドと似ているのだ。


「ああ、求人募集の張り紙か……見てみよう」


 そう言う男に肩を貸し、リレイは張り紙に近づいた。


「ふうん、ここの職員の募集が出ている。急募だとよ……条件も俺に合っている。足が使えねえのがネックだが」


 リレイは、男を職業斡旋の職員に託した。

 男が職員と熱心に話し込んでいる間、周辺を散策する。やはり、利用者は柄の悪い男が大半だ。

 部屋の隅で怪しげな取引をしている者も見受けられる。

 中には、弱々しい少年にしか見えないリレイに手を出そうとするものもいたが、全員がリレイの首筋にある奴隷の所有者の名前を見て身を翻し、去って行った。


「あの男、どれだけ悪名高いんだか」


 それとも、他人の奴隷に手を出しちゃ行けないという決まりでもあるのだろうか。

 いずれにしても、妙なのに絡まれなくて助かったとリレイは安堵した。


「やった、採用だ!」


 奥の職業斡旋のカウンター前で、奴隷の男が嬉げな声を上げたのが聞こえた。


「良かったわね。治療をした後の居場所が見つかって」


 リレイは、男の方へと歩み寄る。

 足の悪い男は、喜びを表現するために座ったままで手を振り上げた。


「ああ、お嬢ちゃんのおかげだな。住み込みで働けるなんて、好条件だ。応急処置だけだが、この怪我の手当もしてくれるとよ」

「その代わりといってはなんだけど……ここへ寄った時に、少しでいいから私に文字を教えて欲しいの」

「……お嬢ちゃん、読めないクチか。綺麗な格好をしていたから、てっきり文字が読める人間だと思っていたぜ。まあ、ここの識字率は低いからな。いいぜ、お易い御用だ」

「ありがとう」


 ジンは、まだ奥で話し込んでいるようだ。

 リレイは、男の元を離れてジンの様子を見に行くことにした。暇になってきたのだ。


「おい、そこの女〜」

「そこのチビ。お前だよお前〜」

「聞いてんのか。お前だよ、そこのクソチビ〜」


 後ろで、誰かが声を荒げている。

 この街ではよくあることなのだろうと、リレイその呼びかけを無視した。

 今は、男の格好をしているので、自分のことではないだろうと思ったのだ。


「おいっつってんだろ〜!」


 いきなり肩に手をかけられたので、リレイは反射的にその手を掴んで背負い投げしてしまう。

 大きな音が鳴り響き、周囲の人間達がリレイに注目した。


「痛え〜! クソ女、何しやがる!」


 背中をさすりつつ、リレイを睨みつけているのは、アーノルドの地下闘技場で出会った双子の片割れだった。

 いや、背後にいる二人を含めると三人である。彼等は双子ではなく三つ子だったようだ。

 栗色のショートヘアの美少年。瞳の色も、三人揃って淡い茶色である。


「初対面の人間に向かって、失礼な子供ね」

「はあ〜? ボケんのも大概にしろよ、クソが。誰の所為で、俺達がこんなチンチクリンな姿になったと思ってんだ。お前が俺らを斬ったからだろうが〜!」

「……何のこと?」


 リレイには、心当たりがなかった。

 こちらへ来て攻撃した相手はジンに、セドリック、破落戸、アーノルドに、その部下達くらいだ。


「恍けるな。アーノルドの闘技場で見て、もしやと思ったけど……やっぱりお前だ!」


 残りの二人掴み掛かって来たので、リレイは一人目と同様に床に投げ落とした。


「ねーえ、楽しそうな話をしているねえ?」


 倒れている三人の頭上で、黒い革靴が止まる。

 三つ子の顔色が、目に見えて悪くなった。

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