14:異世界の道具は不思議でした
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リング上に現れたのは、屈強な部類の男達だ。こちらも、全部で五人。
手には、麺棒ではなく木製のナイフを持っている。
開始の合図とともに、男達は金網をよじ登った。
今度の相手は獅子ではない。硬い皮膚を持つ巨大な十匹の鰐だった。鰐は、大きな口を開けて獲物の様子を伺っている。
男達は金網から飛び降り、次々に鰐の目にナイフを突き立てた。床の上で鰐が悶絶して暴れ回る。
けれど、鰐は視覚だけではなく嗅覚も優れた生き物だ。目を潰しただけでは決め手に欠けていた。
男達は互いに協力し合い、今度は隙を見て鰐を仰向けにさせてナイフで腹を突き刺す。あまり深手にはならないが、鰐は確実にダメージを受けていた。
一人も犠牲者が出ないため、観客席からブーイングの嵐が巻き起こる。
しばらくすると、仮面の男が両手を空中に掲げた。
すると、リングの外側に床から伸びて来た透明な固い素材の壁が張り巡らされる。
天井から、滝のような水がリングを目がけて降って来た。
「あの壁は魔法? それに、水が降って来た……」
「水中戦にしたいんじゃないの? 鰐に有利なように……あの壁は普通にリモコン操作だと思うよ」
「りもこん? それって、魔族の名前?」
「リレイちゃん、やっぱり面白いね……リモコンも知らないんだ」
ジンは、眠そうにリレイにリモコンの説明をした。出し物に飽きて来たようだ。こんな状態の中で眠れるなんて、図太い神経の持ち主だとリレイは呆れた。
リモコンの説明も、いまいち分からない。
水が見る見るうちに、男達の腰辺りまで増していく。それに合わせて、鰐の動きが活発になった。
男達は、鰐への攻撃を中断して金網に避難する。水中で鰐を相手取るのは不利だと判断したようだ。
しかし、その間にも水量は増す一方である。
ついに、一人の男が鰐により水中に引きずり込まれた。
鰐は、男の足に噛み付きながら体を回転させる。近くにいた別の鰐が、男の胴体に噛み付いた。
水が赤く染まった。
その後は、鰐による一方的な補食ショーが繰り広げられる。水中で、人は非力だ。
男達は、数分後には全員小さな肉塊と化した。
観客席から、盛大な拍手が鳴り響く。会場は、歓声に包まれた。
それを見たアーノルドが、満足げに席を立つ。
「リレイちゃん、行こうか」
リレイが隣を見ると、さっきまで瞼が閉じそうになっていたジンが、青い目にキラキラした光を浮かべていた。
二人で、客席を立って歩き出す。
リレイとジンは、見物を終えて出て行く人間に紛れてアーノルドの後を追った。
アーノルドは、会場の端にある鉄製の扉の奥へと入って行く。
「行くよ、リレイちゃん」
「……うん」
ジンは、勢いよく扉を開けて中へ身を滑らした。リレイも後に続く。
「何だ、お前達は!」
二人の珍入者に、アーノルドは目を見張る。
「あんたを引っ捕らえに来た者だよ」
ジンが投げたナイフが、アーノルドの衣服を壁に縫い付ける。
だが、アーノルドも荒事には慣れている様子だ。素早く、衣服を破り捨てて自由を確保する。
上着の内側に隠し持っていた短剣を握り、アーノルドがジンに襲いかかって来た。
「リレイちゃん、初めてのお仕事だよ」
「コイツを気絶させればいいの?」
「うん、よろしく。多少痛めつけてもいいよ」
リレイは、ジンに貰ったナイフでアーノルドの短剣の軌道を逸らし、彼の懐に潜り込んだ。
そのまま、アーノルドの膝頭にナイフを突き刺して動きを封じる。
ナイフの柄で顎を強打した後で、首の後ろにもう一撃加えると、アーノルドは呆気なく床に伸びた。
ジンが鎖を取り出し、アーノルドを拘束する。
(こいつ、いつもこんな道具を持ち歩いているの?)
アーノルドの手足に巻かれる鎖を見ながら、リレイは顔を顰めたのだった。
「この人、セドリックの店まで運ぶの?」
「いや、セドリックに連絡を入れて取りに来てもらうよ。こんなゴツイ男、運んでも楽しくないし」
「その前に、誰かに見つかったらどうするの?」
「見つからないように、適当に隠すんだよ。例えば、あれとか使えそう」
部屋の奥に積み上げられていた大きめの木箱に、無造作にアーノルドを放り込んで蓋をするジン。かなり手慣れている。
その後、ズボンのポケットから四角くて平たい小さな板を取り出したジンは、それに向かって話し出した。
(あれは……伝達用の魔法が掛かった板なのかしら。不思議な道具ね)
「さて。回収専門の奴らが来るまで、獲物を見張りつつ適当に身を隠しますか」
「その前に、行きたいところがあるわ」
リレイは、そのまま建物の奥へと足を進める。
「奴隷を逃がしてあげたいの」
「……逃がしても、また捕まるのは時間の問題だと思うけど。そもそも、弱いから奴隷として搾取されている訳だし」
「知り合いがいるの」
「それって、セドリックの店で会ったっていう奴?」
「……そうよ」
「分かった。この木箱の中に人がいるなんて、誰も思わないだろうからね。先に奥へ向かおうか……貸し一つね」
「私一人で行く。勝手に私を奴隷にしておいて、貸しも何もないわよ」
「あははっ! リレイちゃんって本当にマゾだよね。また俺から逃げようだなんて、今朝と同じ目に遭いたいの?」
ジンの言葉に、リレイは口を噤んで歩き出す。
奴隷達を外に出すまでは、体の自由を奪われるわけにはいかなかった。




