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13:闘技場は変態の溜り場でした

グロい表現注意。

苦手な方はブラウザバックお願いします。

 金網の張られたリングの上では、震える男性と一頭の巨大な獅子が向き合っている。

 男性の手には、申し訳程度の武器が握られていた。


(何かしら、あの木の棒は。麺棒?)


 麺棒なんかで獅子を相手取ることは不可能だ。剣術や体術に特化したアースやイゴールでもない限りは……


「うーん、彼は前座ってところなのかな?」


 ジンが、リングを見ながら首を傾げる。


「前座?」

「そうだよ。きっと、この後にもっと凄いのが来るよ」


 リレイは、嫌な予感しかしなかった。

 甲高い鐘の音が鳴り、獅子の唸り声と男の絶叫が響き渡る。

 金網に近いリレイの席は、獣が肉を咀嚼する音までもが聞こえて来た。噴き出した血が、金網を通り抜けて足下に飛び散っている。

 リレイは、淡々とその様子を見つめていた。


「なるほど、こんなのを見て喜ぶのは変態野郎だわ」


 不満げに唸るリレイに向かって、ジンは爽やかに笑った。


「それを見て顔色一つ変えない君も、充分変態の素質があるよ」


 続いて別の獅子が二頭現れた。先程の獅子は、お腹が一杯になってしまったために交代させられたようだ。

 帽子を目深に被ったスタッフらしき人間が、男だったモノを手早く片付ける。

 続いての出し物は、更に気分の悪くなるものだった。


「ねえ……」

「駄目だよ、まだ動かないで。リレイちゃんが今動いても、あの金網は壊せない。中の人間は、君が助け出す前に獅子の餌食になるよ」


 リレイは、俯いて唇を噛んだ。ジンのいう通りだった。今、リレイが動いても動かなくても結果は変わらない。

 魔法を使えない自分を、リレイがこれほど悔やんだことはなかった。


「……ここでアーノルドを捕えれば、この闘技場での犠牲者はこれ以上増えないのよね?」

「んー、そうだね。ここでは(・・・・)、犠牲者は出なくなると思うよ? やる気になってくれた?」

「アンタの手伝いをするのは不本意だけど、今回は自主的に手伝ってあげてもいいわ。こういうのは、特に許せないの」


 金網の中には、綺麗な服を来た五人の女が放り込まれている。彼女達の体に枷はない。

 女達は男の時と同じく、手に麺棒を握っていた。


 虐殺開始の合図が鳴ると同時に、女達は叫び声を上げながら金網をよじ上る。確かに、金網の天井部分まで登りきれば獅子は手出し出来ないだろう。

 だが、獅子の動きの方が早い。

 あっという間に、二人が犠牲になった。金網から地面に叩き落とされた女を見て、客達が歓声を上げる。

 抵抗する為に振り上げた麺棒が、女の腕ごと食いちぎられる。もう一人の方は、既に息絶えていた。


「ねえ、今ナイフを投げたら、あそこの獅子を射止められると思う?」


 私は、隣にいるジンに尋ねた。


「無理だろうね。仮に射止められても、彼女達の運命は変わらない。余計な騒ぎを起こしたら、返り討ちにされる前に俺達はトンズラしなければならない。それよりも、ここで確実にアーノルド本人を抑えた方が得策だよ」

「……やっぱり、私は彼女達を助けるわ。これ以上は——」

「仕事の邪魔をするなら、リレイちゃんにはしばらく眠っていてもらうけど?」

「うるさい! 私はああいうのが一番腹が立つのよ!」


 自分の軍事施設時代を思い出す。

 リレイが生き延びることが出来たのは、アースに拾われたのは……ただ単に運が良かったからだ。たまたま、リレイが戦闘に向いていたからだ。

 弱い仲間は、過酷な訓練や試験で犠牲になった。

 それ以外に、人体実験された者もいる。


 思い出すのは、戦場に出る為の最後の卒業試験の内容だ。

 捕えられた魔族との一対一の戦闘だった。試験場で鎖に繋がれ、魔族を倒すまでは外に出られない。最悪の試験だ。

 恐怖に泣き叫んだ仲間のうちの何人かは、そのまま戻らなかった。

 リレイ自身も、勿論その状況に恐怖した。無我夢中で武器を振り回した。

 何とか生き延びた時は、いつかこの施設を潰してやろうと誓った。

 尤も、リレイが手を下す前に、訓練施設は内部分裂により解体されてしまったのだが。

 実際の戦場はそれ以上に酷かった。だから、あれは必要な試験だったのかもしれない。

 けれど、あのやり方は頂けなかった。


「リレイちゃん……」


 ジンとの間に険悪な空気が流れたその時、リングから甲高い悲鳴が聞こえて来た。

 金網によじ上っていた女達が、一斉に落下する。観客達が、歓喜の声を上げた。


「何……?」

「金網に電気を流したみたいだね」


 落下した女に、すかさず獣が襲いかかる。金切り声は瞬時に途絶え、足下に飛ぶ血痕の数が増えた。

 真っ赤なリングには、息絶えた五人の女の遺体が転がっている。そのうち二体は、もう原形をとどめていなかった。

 リレイは、批難を込めた視線でジンを睨みつけた。


 リングの上が片付けられた後、仮面の男が嬉しそうに声を上げた。

 次の演目が今回の出し物のメインらしい。

 観客席から、待ってましたとばかりに拍手が鳴り響く。


「アーノルドはまだなの? 出て来ないんじゃないの?」

「来るよ。いつもの通りなら、このメインのステージを見に現れる筈だ……ほら、来た」


 リングのすぐ近く、仮面の男の向こう側に、大きな体躯の男が歩いて来た。

 セドリックの店で奴隷を買っていた大男だ。


「ここから、アーノルドにナイフを投げればいいの?」

「そんなことをしたら大騒ぎになるよ。あいつが、裏に消える時を狙うんだ」

「暗殺するの?」

「……君って、興味深いよね。世間知らずの田舎者なのに、さらっとそんなこと言っちゃう辺りが。まあ、暗殺で合っているよ。今回は、生きたまま捕えようと思うけど」

「どうして?」

「今まで奴隷を散々に扱っていた奴が、奴隷になった時にどうなるのか見てみたい」

「……いい性格」

「あはは、よく言われるよ!」


 リレイは貶したつもりだったのだが、ジンは嬉しそうに言葉を返した。

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