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12:地下の闘技場へ行きました

 リレイがジンに連れて来られたのは、朽ちかけた灰色の建物だった。窓枠には、物々しい錆びた鉄格子が嵌まっている。


「ここは?」

「今日のターゲットがいる場所」

「……空き家に見えるけれど」


 外から見る限り、人が住める状態ではなさそうだ。


「人がいるのは、建物の地下なんだ……リレイちゃん、武器は持った?」

「ええ、借りたナイフがあるわ」


 ジンは、リレイの手を引いて、建物の脇にある汚らしい階段を下りて行く。

 階段はしばらく続き、突き当たりには執事服のような整った身なりの男が立っている。

 ジンが男に金を握らせると、男は恭しい動作で二人を建物の中へ導いた。


「へえ、相変わらず賑わっているね」


 楽しげな声で話すジンに、男は媚びたような声音で答える。


「ええ、おかげ様で。今日のショーもきっとお気に召していただけると思います」

「そりゃあ、楽しみだ」


 リレイは、二人から視線を外して周囲を観察する。

 確かに、表からは想像がつかない景色がそこにはあった。

 大勢の人間が酒を片手に席に座っている。元の世界でいう簡易的な劇場のような造りの座席だ。

 その中央には、周囲を金網で囲んだ広い舞台がある。


「行こう、リレイちゃん」


 男と話し終えたらしいジンが、リレイを座席へと導いた。場所は、金網のすぐ近くだ。


「ねえ、ここは何をするところ?」

「見ていれば分かるよ」


 しばらくすると、照明が明るくなった。

 歓声が上がり、客席が熱気に包まれる。

 すると、舞台の脇に仮面をつけた一人の男が立ち、客に向かって一礼した。男が、今日の演目について客に解説を始める。

 仮面の男の話が始まると同時に、舞台の横に設置されている扉の中から巨大な獅子のような獣が現れた。


「あれは、何?」

「今日の主役だね」


 反対側にも同じような扉があり、そこからは人間の男が現れた。逃亡を防ぐ為だろうか、彼の胴体には鎖が巻き付けられている。


「これって……」


 セドリックの店で話をした男の姿が、リレイの頭をよぎった。


(あの人が連れて行かれた「地下の違法闘技場」というところじゃないの?)


 獰猛な獣と素手の人間が戦わされるという、恐ろしい場所だ。

 そんなものを見たいが為に、ここの客達は金を払って集まっている。


「……悪趣味だわ」

「この街の奴らなんて、大抵はそんなものだよ。これからしばらくグロテスクな出し物が続くけれど、大人しくしていてね。ターゲットが姿を現すまでの辛抱だから」


 リレイはジンの言葉に頷いた。小声で、ジンに質問する。


「ターゲットって誰?」

「ここのオーナー」

「……もしかして、アーノルドって人?」

「知り合いなの!?」


 ジンは意外そうな顔をしてリレイの方を向いた。


「奴隷として店に置かれている時に会った。セドリックから奴隷を買っていたわ」

「へえ……セドリックも、いい仕事してるよねえ。金払いの悪くなった客を俺に売るなんてさ」

「アーノルドを捕まえるの?」

「うん、捕まえると言うか……まあ、生きていても死んでいても良いんだけど。身柄を抑えて然るべき場所に運べば良いんだ」

「分かった。アーノルドは奴隷になったりしないの?」

「普通は、監獄行きだけど……そうだねぇ、それも面白そうだ」


 何を思ったのか、リレイの隣に座るジンはニヤニヤ笑いを浮かべている。

 仮面の男の説明が終わり、ついに試合という名の虐殺が行われようとしていた。

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