10:ファーストキスを奪われました
「ん……」
明るい光が差し込んでいるのを感じ、リレイは目を開く。
「おはよ、リレイちゃん」
耳元で囁く馴染の無い声。
寝ぼけ眼のリレイが声のする方へ首を動かすと、艶やかな金色の睫毛に覆われた青い目が自分を見つめている。
「あ……女神様?」
「ああ、まだ目が覚めていないんだね? 可愛い……ところで、女神様って何かな?」
「……ここはどこ? 王都の森じゃないの? 女神様は?」
見慣れない景色に気を取られていると、リレイの唇に温かいものが触れた。
「ん……寝起き、悪いんだね。本当に可愛いな」
リレイの唇に、何度も何度も柔らかいものが接触する。
ぬるりとした感触が唇を伝った違和感で、リレイの意識は急速に覚醒した。
「んん……!?」
リレイの目の前に、整った男の顔がある。
男の唇はリレイのそれに触れて、口内には彼の舌が入り込んでいた。
「んんん、ひゃあああ!?」
リレイは男の唇を引き剥がし、叫び声を上げながら飛び起きた。
それと共に、昨日起きた出来事を思い出す。
「最低! 愛玩用にはしないって言ったのに! ファーストキスなのに……!」
「え……マジ!? その年で?」
艶やかな表情で唇を舐める男——ジンは、若干引いたような顔をしている。
悔しげに歯嚙みするリレイを抱き起こし、ジンは隣の部屋へと向かった。
「朝ご飯食べたら仕事だよ、ついて来て」
リレイはジンの言葉に頷いて、素直に部屋を移動する。
朝食は、簡単なパンと果物だった。リレイが元々の世界で食べていたものと然程変わらない。
「武器は、ナイフでいいよね? 前に路地裏で破落戸二人を伸していたけど」
「専門は剣よ」
「俺、剣は持っていないんだよね。買いに行く?」
「別に。ナイフでいいわ」
ジンは、リレイの反応にクスリと笑うと、近くの引き出しから小型のナイフを数個取り出した。
シンプルな飾り気のないナイフだが、良く手入れされている。
「……これ、使っていいの?」
「俺達の仕事に必要だからね。あ、俺に向けて投げるのはやめてね」
ナイフを受け取ったリレイは、夢の中で女神に言われた内容を思い出した。
女神は、メデサ国に行けと言っている。
「ねえ、私、メデサ国に行きたいんだけど。メデサ国に行く仕事はないの?」
「……メデサ国って、ここからめちゃめちゃ遠いんだけど。どうして?」
「行かなきゃならないからよ。女神様のお告げがあったの」
「まだ寝ぼけているの? ……残念だけど、俺にはメデサ国に行く用事なんてないよ。仕事はヘル・シティの中だけで事足りるから」
取りつく島もない。
(やっぱり、隙を見てこの男から逃げるしかなさそうね)
リレイは、引き続き逃げ出す隙を伺うことにした。




