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09:再び女神様が現れました

「この街からは簡単には出られない。外の奴らが黙っていないし、君の場合は焼き印を見られた時点でこの街に強制的にリリースされるようになっている……この街は掃き溜めだからね。連中は、厄介なものは全てこの中にしまい込んでおきたいのさ」

「……本当に、最低」


 リレイは、ジンから目を逸らせて悪態をつく。彼がリレイの体を跨いでいるために、距離を取ることができないのだ。


「さて、リレイちゃん。今から建設的な話をしよう」


 そう言うと、ジンはリレイに跨がったまま、真っ赤な瞳を覗き込んだ。


「俺の仕事は知っている?」

「チンピラ」

「はずれー。正解は、賞金稼ぎです。悪さをした人間を捕まえて、世界平和に貢献するのが仕事」

「イチャモンつけて捕まえた人間を人身売買のブローカーに売り飛ばすのが仕事ってわけだね」

「セドリックは、ブローカーじゃなくてサポーターね。必要な場所に必要な人材を提供している……まあ、あれだ。人道支援的な……」

「猛獣の餌になる人間を提供するのが、ここで言う人道支援なのね」

「……ところで、さっきの話の続きだけれど——」


 分が悪くなったジンは、話をそらせた。


「君には、俺のパートナーとして働いて欲しいと思ってる」

「……!」


 吐息がかかりそうなほど近くで、ジンは囁く。

 リレイは、ジンの言葉に過剰反応した。


(セドリックの言った通りだ! 彼は、私のことを愛玩用だと言っていたもの)


 相手との距離を取ろうと後ずさるリレイだが、両手両足を拘束されている上にジンに乗りかかられているため、思うように動けない。


「どうしたの、リレイちゃん?」

「……セドリックが。あんたのことを、好色変態野郎だって」

「ああ、そういう意味で取っちゃった? そっちがお望みなら喜んで応じるけど?」


 悪ノリしたジンが、イイ笑顔で迫ってくる。

 スルリと頬を撫でるジンの手を、リレイは容赦なく手錠で殴って叩き落とした。


「パートナーというのは、仕事上でって意味ね。期待してもらって悪いけれど」


 真っ赤にはれた手をさすりながら説明するジンは、まだ懲りていないようだ。リレイが再び手錠を振り上げるのを察知して、素早くそれを避けている。

 リレイは、この男の敏捷性に舌を巻いた。


「仕事って、賞金稼ぎの?」

「そう。最近の奴らは、なにかとつるみたがるから。俺一人だけだと結構面倒なんだ。君は見かけによらず強そうだし、使えるかなと思って」

「……」

「まあ、最初は愛玩用奴隷にするつもりだったけど」


 やっぱりそうかとリレイは溜息をつく。

 でも、愛玩用にされるよりは賞金稼ぎの片棒を担ぐ方がマシかもしれないと思う。


「私が働けば、愛玩は免除されるの?」

「まっさかー……と、思ったけど。それもありだな。自分でオトす方が面白いし」


 ジンは、整った顔でニヤリと笑った。

 リレイの背筋に悪寒が走った。



 その晩、リレイの夢の中に女神が現れた。とはいえ、また彼女の声が聞こえてくるだけなのだが。


『早くも旅の仲間を見つけるとは、感心ですね』

「自称女神様、あの男は仲間じゃなくて敵よ! ところで、今まで何してたの!? 何度も呼び掛けたんだけど」

『昼寝していました。さて、こちらでの任務を伝え忘れていましたので言っておきますね』


 女神の「昼寝」という回答に、リレイは叫び出したくなった。

 しかし、そこは我慢して本題に入ることにする。新たな怒りを買うわけにはいかない。


「ねえ、今はそれどころじゃないの。私、奴隷になっちゃって……」

『あなたに依頼したいのは、とある兵器の破壊です。魔王退治よりも簡単な任務でしょう?』

「いや、だから……」

『メデサ国を目指してください。全ては、その場所に』

「ちょっと、女神様——!?」


 女神は、言いたいことだけ言って呆気なく消えてしまった。


「嘘、でしょう?」


 リレイは言葉もなく、夢の中でへたり込んだ。

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