入学試験
入学試験当日。
「学校でMacはやはり目立つか……」
冴木高は、失敗したという顔をしてノートパソコンをパタンと閉じた。
冴木高。
中学生。
魔術士育成学校への入学希望者。
備考:魔術回路使用不可。
冴木は魔術回路を使えない。
それは、魔術を使えないことの証明であり、魔術士になれないことを意味する。
それが常識。
それが不文律。
冴木は午前中にペーパーテストを受けたのち、午後から実技試験を受けるつもりだった。
だが。
「冴木高。実技ゼロ点」
担当の教師は、冴木を実技試験会場にすら入らせず、手元の用紙にゼロを書き込む。
「ちょっと待ってください! 俺はまだ試験を受けてません!」
「冴木高。お前には魔術回路がない。よって実技の魔術使用は出来ない。だからゼロ点だ。なにか不備があるか?」
「魔術士育成学校への入学には、60点以上の得点が必要ですよね。俺は仮に50点の配点のペーパーテストが満点だとしても合格できないんですが?」
教師は見下したような目で冴木を見た。
「ああ、冴木は田舎から来たから知らないのか、ここに魔術回路の無いヤツが入学するためには、学校、または魔術士育成学校からの『推薦点』がいるんだよ。冴木には推薦点はない。諦めて帰れ」
「……そんな」
冴木と教師が押し問答をしている時だった。
教師の携帯からアラートが鳴り出す。
『危険! 実技試験会場にて想定外の魔術を検知!』
教師の顔色が変わる。
「実技試験中止! 想定外の魔術を使用した者は出て……こい……」
教師を含め、実技試験会場にいたほぼ全員が倒れる。
冴木は素早くスマホを取り出し、とあるアプリを起動する。
『妖精の目起動中。……付近で発動中の魔術を解析。……解析終了』
「対象の魔術回路を共振させて睡魔へ誘う魔術。ですよね?」
冴木は目の前の青年に確認する。
冴木以外に立っているのは一人。
風紀委員長と書かれた腕章を持つ青年は目を丸くした。
「……驚いたな。さっきのスマホは一体なんだい? 魔術は魔術回路が無ければ発動できない。魔術回路の無い君が僕の睡眠魔術の影響を受けないのは分かる。だが、魔術を機械が識別するなんてあり得ない。君、何者なんだ?」
「秘密です」
冴木は困ったことになったと思った。
入学試験ということで『いつもの』ヤツはない。
あるのはカスタムROM入りのスマホだけだが、入学試験ということでやはり外部との通信は出来ない。
「はぁ……」
奥の手を最初から出すのは気が引けるが、妖精の目アプリは青年が高威力な魔術を構築し始めたことを告げている。
「最後に聞きます。眠らせてなにか貴方にメリットがあるんですか?」
青年は下卑た笑みを浮かべる。
「そりゃあ。可愛い子を、な?」
「……くたばれ外道」
冴木は、奥の手を使うことを決意する。
青年が魔術を発動しようとする。
「じゃあ、とりあえず俺のことを喋れなくなるように口をぐしゃぐしゃにしなきゃな」
冴木は虚空に向かって語る。
「ヒナ……『右足のみ』1秒だけ実体化」
その瞬間、冴木の右足に何かが現れた。
しかし、それを青年が知覚する前に、青年の意識は暗転していた。