進歩
ただの日常の話、山も落ちもない、そんな話……
「この状況、どう思う?」
俺は目の前の少女に問いかける、少女はただニコニコと笑っているだけで俺の質問に答えるつもりは無いらしい……
先ほどまでは春の陽気な日差しを浴びていたはずの俺が、気が付けば蛍光灯の無機質な明かりの下にさらされているのはどういうことなのだろうか
「俺、ここ数時間の記憶がないんだ」
少女はニコニコと笑い続ける、何がそんなに楽しいのだろうか、その笑顔も若干勘にさわるのでぶん殴ってやりたいところではあるが、どうやらそれもできないらしい……
先ほどまで自分の意思で自由に動かしていた両手足は、気が付けば両手は仲良くくっついており、両足は中が悪いのか、それぞれがテコでも動かないといった感じで、ベッドの柱に括りついている……
「どういうわけかこんな状況でな、できれば助けてくれないか?」
「それは無理」
ようやく口を開く少女の言葉に、俺は落胆した、この少女は目の前で困っている人間を平気で見過ごす非道なやつなんだ、俺ならどんな可愛い女の子だろうとすぐさま助けるというのに……
「お前の性格が歪んでいることは前から知っていたが、一応理由を聞いてやる」
「私も動けない」
目の前に縄でぐるぐる巻きにされている少女が言う、こいつは心底使えないやつだ……
「おかしい、こんなはずじゃなかった」
必死に暴れているが、縄が緩む様子はなく、しばらくして停止し、再びこちらに笑顔を向ける……ムカツクくらい爽やかな笑顔だった
「おまえ、これ何回目だ?」
「数えてるほど暇じゃない」
なぜ俺の腕は動かない、なぜ俺の脚は動かない、今使いたいんだ、今じゃなきゃダメなんだよ、俺はこいつに一発ぶつけないと気が治まらないんだよ
「いい加減学習しろ、お前に監禁なんて出来やしないんだ」
「あと一歩」
だからこっちも焦っているのだ、まさか14回目にして遂に両手足を縛るまでに至るなんて……こいつは別のベクトルで学習を続けていたのだ、いい迷惑だ
「いいか?その一歩だけは踏み出すなよ?」
「足踏みしてるだけじゃ、進まない」
進まなくていいんだよ、足踏みしてろよ、地団駄踏んでろよ、つうか踏み外せよ、他でもない俺のために
「だいたい何なんだよ、毎回毎回、俺を監禁してどうすんだよ」
「幸せな家庭を築く」
幸せな家庭なめてるのか?どこの世界に拉致と監禁の含まれた幸せがあるんだよ、少なくとも俺は不幸せだよ、幸せに非ずだよ
「子供は……いらない、私たちの間に入ろうとする存在を許しはしない」
「俺とお前の間には大きな壁があるけどな」
「照れてる」
今のどこに照れる要素があった、俺とお前の感性には大きなズレがあるのか?あるんだよな、だからこんな状況になってんだろうな
「照れてねぇ、むしろおぞましい未来が見えてゾッとしてるぐらいだ」
「大丈夫、私たちならうまくやっていける」
今この瞬間は全然うまくいってないけどな、二人とも縛られて動けないとかどうすんだよコレ……
「……とりあえず、今はこの状況をなんとかしないか?」
「意見があった、意思疎通、おしどり夫婦」
俺だけでも助からないだろうか、誰でもいいから助けてくれないだろうか、まぁ長くてもこいつの家族が異変に気づけば助かるだろう
「今日、親いないんだ」
「最悪のニュースをありがとう」
なら俺の家族はどうだろう?俺がいつまでたっても帰ってこなければ心配になって探しに来てくれるはずだ……
「お義母様から、よろしく言われている」
「あのバカ親とお前には説教が必要だな」
無駄なところで用意周到だなおい、結果自分の首絞めてんぞ
「私は、それでもあきらめない」
「お前が今芋虫状態でなければそこそこかっこよかったのかもな」
さてどうする?最悪明日までは助けが来ない……特に今何が出来るというわけでもない……
「俺寝るわ、朝になったら起こして」
「じゃあ私、ご飯作ってくる」
何抜け出してんだよ、何スッと立ち上がってんだよ、しかも若干得意顔じゃねぇか、何でドヤ顔なんだよ、ぶん殴りてぇ……
「おい、俺達は共通の目的を持った仲間だよな?」
「人は、時には非常にならなければならない……ック」
ック、じゃねぇよ、なんで笑いこらえながら悔しがってんだよ
「諦めなければ、願いはかなう……」
「今からお前が叶えようとしている願いは他人に迷惑かかるからやめなさい」
つうか、え?何?何こいつあと一歩踏み出しちゃってるの?
「ご飯作ってくる」
「あ、おい!……行っちまった」
どうすんだよ、少なくとも明日まではあいつに監禁とか……何されるの?幸せな家庭築かれちゃうの?やだよ?俺まだ16だよ?籍入れられないよ?
「……ま、明日までの我慢だ、明日になればあいつの親が帰ってくるしな」
「両親二人とも密入国がばれて捕まった」
「お前のその行動力は親譲りか」
たぶん書き直します←
ゆっくりテキトーに更新していきます