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九尾の孫 番外編【策】  作者: 猫屋大吉
8/18

病院

悪狐登場します

一週間が過ぎ、若林は病院に向かっていた。

樋口は3日程、相馬家に滞在し様々な行事を行い、携帯の番号を教え帰って行った。

若林は池を半周周りいつものように病院に着くと真っ直ぐに息子の病室へと歩んで行く。

エレベーターに乗り、小児科病棟の廊下を歩んで個室のドアを開けて窓際へ進みベットの上の動かない息子の顔を見てその頭を優しく撫で物を言わぬ息子に「どう?調子は」と囁く。

すると

「ナゼ、あの家が見えなくなった、以前は入れた。何をした」ひしゃげた様なガラガラ声がした。

若林は驚いてカーテンを開け部屋の中を見ると何処から入ったのか一匹の狐がいた。

驚いたが気を取り直し、

「天使のフリして近づき、私を騙した貴方達に教える理由が有りません」

「フン、お前が助けを求めた癖に・・・ん!、お前、渡した物は何処へやった」

「燃やして捨てたわよ」

「裏切る気か、息子はどうする」

「治すと言いながら全然変わらないじゃない、治して貰わなくてもう、結構です」強い口調で若林が言うと

「そうか、仕方ないな」

「もう、帰って下さい。私達 親子の事は放っておいて下さい」

「放っておく?、違う。俺達の存在を知った以上、生かしておく訳には行かない」

「たかが狐に何が出来るっていうのよ」

「フッ、見くびられた物だ。息子の死を見て絶望の中で死んで行くが良い」

狐が言い終わると天井の蛍光灯がパキッと言う音と共に割れ尖った割れ口が息子目掛けて飛んで行く。

若林がとっさに息子に被さると割れた蛍光灯は若林の右肩の後ろに突き刺さった。

若林は左手を伸ばしナースコールを押した。

ナースステーションでは待機していた3人の看護師が慌てて飛び出した。

「チッ、無駄な事を」狐が呟くと今度は若林とその息子が乗ったベットがカーテンから引き出された。狐は依然として一歩も動いていなかった。

若林はナースコールのボタンを握りしめていた為、ボタンの付け根からコードが千切れたが気にする余裕が無かった。

ベットが狐の正面で止まる。

狐は静かに「あばよ」と言うと口角を吊り上げ笑う様な表情を作る。

個室のドアが大きく開かれ、ナースコールに呼ばれた看護師3人が部屋に走り込んで来た。

看護師がどうしましたかと問いながら部屋の中を見て驚く。

狐を見て足が止まった。

「助けてー」若林が叫びながら片手を挙げる。

看護師達は、思考が追いつかず動けない。

ベットが浮き上がり勢いよく窓に向かって飛んで行く。

「キャーーー」と言う若林の悲鳴に似た叫びが響く。

重さ100kgを越える物体の猛烈な衝撃を受けたアルミサッシの窓は 窓枠ごと破壊され外に押し出されると宙を舞って落ちて行く。

少し遅れてベットも若林と息子の毅を乗せたまま空中に躍り出た。

五階の高さから地面に向けて落下して行く。

「これで3人、会えるよ、毅、御免ね」

落下しながら若林は息子を強く抱きしめた。

動かない筈の息子の手が若林の手を握る。

「あぁ、神様が最後に願いを叶えてくれた」

落下の加速により意識が遠のく寸前に若林は一粒の涙と共に呟いた。




優子は会社で書類を片付けながら背筋に悪寒が走った(何?今の、電話しなくっちゃ)と取りつかれた様に携帯を握り締め部屋を飛び出して行くと階段の方に走りながら聡に電話する。

「お父さん、何とも無い?」と聞くと

「あぁ、私もお前に電話する所だった。胸騒ぎがする」

「私も・・・樋口さんかな、まさか若林さん」

優子が言うと

「樋口さんに今から電話するからお前は若林さんに。切るぞ」聡は電話を切ると直ぐに樋口の携帯へ電話して無事を確認すると直ぐに優子から電話が入った。

「ダメ、圏外、病院だから切ってるのかなー、私、早退して今から病院に行って来る」

「うん、そうしてくれ。私も今から向かう」

電話を切った。

優子は電話を握りしめたまま仕事部屋へ走って戻ると上司に駆け寄り早退の許可を強引に得る。

更衣室に駆け込み皮の上下に着替えてブーツを履くと制服をロッカーに残してヘルメットを手に取ると更衣室を飛び出し(急がなきゃ)と呟き、バイク、ドゥカティを置いている会社の駐車場へ走った。

バイクを駐車場から引き出すと跨ってキーを突っ込み捻るとセルモーターを起動させアクセルを捻る。

L型2気筒1,099ccのエンジンが唸りを上げ始動する。

タコメーターが落ち着くのを確認して左手でクラッチを握り、左足でセカンドギヤに入れアクセルを開けながらクラッチを繋ぐとフロントタイヤ側に体重を乗せた。

フロントタイヤは接地したままでリアタイヤが白煙を上げ、煙とメカノイズをまき散らす。

ギョワと言う音を残し加速して行く。

ドゥカティ、ストリートファイター848の真骨頂、ロケットスタートだ。

目の前に迫った信号は青、右手右足で前後のブレーキを一瞬かけると右膝ひざを地面に擦れるかと思う程にバイクを傾けるとリアタイヤを左方向にスライドさせながら戦闘機の様に曲がって行く。

歩行者がいない事を確認するとアクセルを開けてトルクが出る回転数までそのまま加速する。

歩道を歩いている人がびっくりして見ている。

優子は気にする暇もない。ただ早く安否を確かめたかった。

(お願い、無事で居て)心で叫びながら

(今の信号が青だからここから次の信号を抜けれれば天王寺まで一気にいける)ヘルメットの中で呟く。

次の信号の歩行者信号が赤に変わった。

アクセルを開け加速する。

フロントタイヤが浮き上がって来る。

優子は自分の体重を思いっきりバイクの前に乗せる。

信号が黄色になった時、バイクは交差点の真ん中を通過していた。

(やった、後は65km/Hrをキープすればノンストップで天王寺)呟き、頷く。




樋口は、聡から聞いた病院へ慌てて出かける。

(しまった、彼女や相馬さん親子に護符を今日、お邪魔して渡すつもりだったのに・・・一歩遅かったか)と自責しながら自分の車に乗り込むと神社を後にする。




聡は助手に緊急事態だ、俺は今から外出する後の事は任せると言い車に走って行く。

スーツの上着のポケットからキーを取り出し、車のドアを開けて中に乗り込みキーを一段回す。

コッコッコと燃料ポンプの音を確認するとアクセルを2回パタパタと動かしてアクセルを半分開いた状態でキーを回してセルモーターを起動させる。

セルモーターが重い音を鳴らしながら周り始め、直ぐに軽い音に変わる。

年代物のS20型エンジンがボッボッボッボッボッボッブロロロンと掛るとギヤをローギヤに入れゆっくり前進させると重いハンドルを大学の出口へと向ける。

大学の敷地を抜けるまで徐行するとエンジンは十分に温もっていた。

大学のすぐ近くにある大きな公園の周回道を走り、自動車専用道路に出て病院のある南方向へ走って行った。




病室内は大騒ぎである。いや、病院中と言う方が良いかも知れない。

大きなガラスの割れる音で駆け付けた患者数名と看護師3人は、狐を見ていた。

狐は、「フン」と鼻で言うと壊れた窓に向かって走って行く。

条件反射で患者数名と看護師が後を追うと狐は壊れた窓に向かって飛び跳ねて消えた。

「・・・き、え、た、?」患者の1人が言う。

その声で気を取り直した看護師が「あ、若林さん」と大声で叫ぶと、ナースセンターへ走って行く。

看護師の1人は、病室から見に来た患者達に「危ないですから出て下さい」と追い出しにかかる。

ともう一人も我に返りナースセンターへと走る。

地上ではナースセンターから連絡を受けた救急隊員達数名が2人の容態を見る為に担架を担ぎ走っていた。

しばらくするとパトカーのサイレンが聞こえて来た。

パトカー数台は裏のグランドより侵入して来た。

病院の警備員がグランドと病院の仕切っている金網の門を開きに走り寄る。

門が開き、私服警官数名と鑑識数名、制服警官数名が病院内に走り込む。

制服警官達は、一階の転落現場を現状確保の合図と共にブルーシートで被い外部との遮断に取り掛かる。

鑑識は一階と五階に2組に分かれて作業を開始する。

救急隊員達は2人共の死亡を確認し、2人の運び出しの許可を待って2人を担架に乗せてシートを掛けると病院内の死体安置所に運んで行った。

五階では、鑑識が写真を撮り床や窓枠等を調べ回っている。

私服警官も2組に別れて事件発生の目撃者達から聞き込みを開始していた。

優子が病院に着くと病院内は、物々しい雰囲気に包まれていたのを肌で感じ取り、(まさか、若林さん、無事で居て)小児病棟へ祈りながら走る。

五階に着くとエレベーター前にいる警察官に止められた。

事情を話していると看護師の1人が優子に気づき、優子に駆け寄り

「相馬さん、若林さんが大変な事に」

と言うと手を引っ張ってナースセンターへ連れて行く。

後に残った警察官は、少しバツの悪そうな表情をしたが次々エレベーターから現れる人の対応に追われていた。

「警察に話をしたんですけど信じて貰えなかった。でも、本当なんです」看護師が優子の前に座り言う。

「私は、信じます。狐ですね、狐を見たんですね」と言い

「電話、借りても良いですか」と聞く。

優子は、怒りで涙すら出ていない自分に気がつかなかった。

看護師は、外線へ繋ぎ変えて受話器を優子に渡し、電話機を優子の方へ向ける。

優子は、プッシュホンを操作して電話を掛けた。

「お父さん、若林さんが亡くなった」と言うと

「そ、そうか・・・」聡が答える。

父の声を聴いた瞬間、涙が出て来た。

「お父さん、お父さん、早く来て、お願い」涙声で叫んだ。

「天王寺を越えた所だからもうすぐだ」聡が答える。

電話の向こうで受話器が床に落ちる音がした。

看護師が受話器を拾い上げ、電話の相手に

「相馬さんでいらっしゃいますか、私、小児病棟で看護師をしております飯山と申します。御嬢さんは無事です、ただ、泣いているので電話に出られません。通話を切ってよろしいでしょうか」と言う。

聡は「はい、わかりました。よろしく御願いします。私の今、そちらに向かっております」と告げると

「正面玄関の警備の者に連絡しておきますので同行して来て下さい」と返事があり、通話が切れた。



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