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九尾の孫 番外編【策】  作者: 猫屋大吉
17/18

償還

ついに相馬聡が・・・

交通事故は、大きく報道されていた。

連日、テレビでは その惨状を映し出し、各局では特別番組が組まれ、事故の原因となったタンクローリーの運転手は、追突直前に死亡していた事が明らかになり、彼の所属する会社での勤務状態や、運行状態が話題になったが特に問題は無く加害者死亡のやり場のない事件として取り扱われ出した。

やがて道路設計にまで話が及び、結果、避難場所を十分確保出来て居なかった建設省を非難する世論へとシフトして行く一方、救済に逸早く駆け付けた自衛隊には賞賛の賛辞を送っていた。


優子は会社へ出かける前に聡に車での移動は、危険だから電車等の交通機関を使う事を勧めると聡は、いつも使う道路が暫くは、不通になり、事故被害者と言う二つの理由から仕事を休み、退院した樋口の元を訪ねると話すと優子は頷き、良い事だねと言い残し、小走りに玄関を出て行った。




「樋口さん、相馬です」

社務所の玄関を開けると聡は声を掛けた。

玄関すぐ脇の応接室のドアが開き、真宮寺が顔を覗かせて片手を挙げて

「お、来た来た」と室内に入る様に促しながら

「相馬さん、駐車場にハマーH2が停まってたでしょ」真宮寺が言うと

「あ、あの車、聞こうかと思ってたんですよ、あの自衛隊の人が来てるんですか?」聡が聞く。

「まぁ、まぁ、どうぞ」

聡が応接室に入ると一人掛けのソファに樋口が座り、片手を挙げている。

その横で立っている大男が立ち上がり、敬礼し、

胤景いんけいと申します。挨拶が遅れまして申し訳ありませんでした」と言った。

聡は大きく頭を下げて礼を言った。

「相馬と言います。その節はありがとうございました。おかげでこうして無事に過ごさせて頂いています」

「まぁ、まぁ、二人共、座って下さい。特に胤景さんが立っていたら圧迫感が半端無いですから。で、 彼が土蜘蛛一族だって事、もう 話しましたか?」

樋口は笑いながら真宮寺に言い、返事も聞かずに脇にある電話を内線に切り替えてコーヒーを4つ頼む。

コーヒーが来るまでに胤景が事のあらましを話だした。

彼が言うには事故現場に偶然 居合わせた訳では無く、あの辺りに不穏な波動を事故の二日前に島根から戻って来た部下から報告を受けた。其れとは別に真宮寺とは千百年程昔、九州で知り合っており、その真宮寺からも怪異の事を聞き及んでいた。この二つの情報を合わせて卦を占うと丁度、あの辺りと出たので事故現場付近で事故の前日より待機しており、待機場所からヘリ三機と救命班を基地に待機させた、彼は発進指令を出すと同時に特殊消火剤散布を基地に連絡した。

聡が彼の前に停車したのは全くの偶然であったと思われたが、聡が電話をするタイミング、停車したタイミング、そのどれを取って四人で検証しても仕組まれたとしか考えられない状況になっており、応接室に居た四人は、必然であった事を認識すると共に術者の巧妙な罠の恐ろしさが露呈した。

四人が顔を青ざめて居る所にノックの音がして若い女性がコーヒーを運んで来た。

「どうしたんですか? 皆さん、顔色が悪い」女性が聞きながらコーヒーを其々の前に並べて行く。

「あぁ、ありがとう。そうだ、丁度良い。紹介しておくよ。こちらが相馬さん」

樋口が言うと

「渡部芳江です。よろしく御願いいたします」とやけに色っぽい声で女性が言う。

「そ、そ、相馬聡です。よろしく」聡が色気に押されながらも挨拶すると、

「もう、御分かりでしょ。相馬さん、彼女もそうなんですよ」樋口が少し、小さな声で言う。

「えっ、もしかして、そうなんですか」聡は目を丸くして渡部と名乗った女性の顔を見ると

「え、嫌ですわ。相馬様、そんな目で見ないで下さいまし」女性が微笑みながら言う。

その片手を口元に持って行くだけの動作だが、聡は、脳髄を焼かれる思いで見入っていた。

「あー、おっほん」咳払いをしながら樋口が、

「昨日から少しの間、霊傷による傷の治療である方から御預かりしていましてね。渡部さん、良いよ。ありがとうね。こっから先の話に君が入るのは危険だ。あの人達に知れたら私が怒られてしまう」

「はい、わかりましたわ。傷の治療に専念します」

渡部は、右手でその長い髪をうなじから肩の後ろへ跳ね上げ、少しむっと怒った雰囲気を醸すが、それすらも官能的、いや、扇情的な動きになっている。

渡部は、くるりと踵を返すと部屋を出ていった。

「ま、無難だな」胤景が言った。

「だな、あの人は怖いから」真宮寺が言う。

「あの人って?」聡が聞くと

「相馬さんには前に一度、話をした事のある人達ですよ」樋口が言うと

「あの・・・あの一族の事? ですか?」少し思い出しながら聡が言った。

「はい、妖達に恐れられる唯一の一族の事です。あの一族の存在は、しっかり覚えておいて下さい。彼らの事についての話は終わりにして、今後の作戦を練りましょう。非常にやっかいな相手です、策略を練り、此処までの計画を立てて実行する力を持った相手です」樋口が言った。

胤景と真宮寺は二人の会話をじっと聞いていたが、樋口の顔を見て頷いた。

聡も一気に官能に痺れた脳が活性化して頷いた。


午前中から始めた四人の相談は、結局、これと言った結論が出ないまま夕方になり樋口は当面、真宮寺を聡の送り迎えの運転手として聡に預ける事にした。

真宮寺は、毎日、飯が約束された事を喜び、住込み運転手万歳と両手を挙げて素直に喜んでいる。

次の日、聡は、真宮寺の運転する聡の車で大学へ向かうと、学長を訪ねて学長室に行き、当分の間、真宮寺に送迎をして貰う事になったと報告し、了解を貰う。

聡が大学に居る間、真宮寺は、聡の研究室で過ごし、昼は、聡と共に学食を食べる日が暫く続いた。


最悪の日が来た。

その日、朝 早くに真宮寺は電話を受けて首を傾げながら聡を近くの駅まで送ると樋口の待つ神社へと向かった。

「おーい、樋口、何の様だ? 相馬さんを駅に連れて行ってから直ぐに来いって」

真宮寺は、神社境内脇の社務所の玄関を開けると叫んだ。

奥からバタバタと走って来る音がする。

「相馬さんは?」樋口が聞くと

「お前が駅まで送れって言ったから送って行ったぞ」真宮寺が首をひねりながら言うと

「しまった。おい、直ぐに相馬さんを追うぞ」

樋口はそう言うと下駄箱から下駄を出して真宮寺をせかしながら社務所を飛び出た。

「私はそんな電話をした覚えが無い」

樋口は車に走りながら真宮寺に向かって叫ぶ。

「なにー!、奴の仕業か」真宮寺が同じく走りながら叫んだ。


聡は駅に着くと改札を抜け、直ぐに来た普通電車に乗り難波駅に向かう。

難波駅に着くとエスカレーターを乗り継いで地下鉄に向かい、千里中央まで地下鉄で向かった。

千里中央からはバスにするかモノレールにするか迷った挙句、バスを選んだ。

聡がバスに乗り込んだ頃、樋口達は、新御堂筋を千里中央に向かっていた。

バスの通るルートは、丘陵地帯で上ったり下ったりと道は上下を数回して折り、丘陵地帯を抜けると平坦な広い道、万博周回路に出る。

丘陵地帯を間もなく抜ける時、突然、其れは起こった。

道路脇に停めてあった工事車両が突然、道路脇の石積が崩れて道路へ転がり落ちて来た。

バスは右にハンドルを切り中央線を跨ぐ様にして止まった。

激突は免れた。

落下の衝撃で工事車両の先端部が大きく振られる先端部がバスの中央付近のボディを切り裂いた。

聡が乗車していた辺りを切り裂きながらバスの車内に先端部が侵入して来た。

聡の前の席の乗客の頭から鮮血が飛び出す。

目の当りにした次の瞬間、聡は、左大腿骨から骨盤に掛けて鈍痛を感じた。

はっとその位置を見るとベルトから左下、足に掛けてズボンが裂け、皮膚が裂けていた。

聡は固まって自分の裂けた下半身をじっと見ていた。

裂けた傷口が赤くなって行き、一気に血が噴き出した。

何故か痛みは無く、他人事の様にその様に見入っていると傍に立って居た女性が悲鳴を上げる。

バスの運転手が焦って通路を走り、聡と聡の前席の男を見る。

急ぎ、運転席へ駆け戻って緊急無線でバスの基地へ連絡を入れた。

運転手は、車内へもアナウンスを入れる。

「怪我人搬送の為、このまますぐの所にある病院へ急行します。御急ぎの方には、御迷惑でしょうが、何卒、御容赦の程を御願い致します」

車内からは、「急げ」「飛ばせ」の声援とも思われる様な声が上がった。

それでも運転手は、静かにバスを走らせながら

「御協力、感謝いたします。病院に着いたら替わりのバスを御用意致します」と告げる。

バスは、万博周回路に出て暫く走った所にある大きな病院の急患受付口に横付けした。

慌てて走り寄る警備員を無視して運転手は、病院へ駆け込む。

暫くすると病院内から患者搬送用の担架を2台押して4人の看護師と一人の医師が走り出て来た。

運転手は、バス中央の非常用乗車口を開き、乗客を下ろしている。

通常の乗車口から乗り込んだ医師が、すぐに聡を担架に乗せる様に指示を出し、看護師達は、四人で運び出し、担架に乗せると其のまま病院内へと搬送する。

残る聡の前の席の男性は、即死して折り、医師は、残った二人の看護師に丁寧に下ろして病院内へ搬送する様に伝えると走って病院内に消えて行く。

残った乗客全員を下ろすと運転手は無線で基地へ連絡を入れ、替わりのバス一台と現在の状況を伝えると基地から警察、消防への連絡は済ませてある旨の事を聞く。

運転手はダッシュボード内のメモ用紙に下ろした乗客全員に氏名、連絡先等を書いて貰うと病院内ロビーへと誘導し、乗客全員を椅子に座らせた。

聡の後を追った医師が、聡の鞄から身分証明書を見つけ、直ぐに大学に連絡をいれる。

樋口達は、丘陵部で事故があった事を知り、真宮寺の勘に頼って病院に行くと路線バスが有り得ない場所に停車している事に気づく。

樋口が病院ロビーへ走り込むと帽子を被った運転手が目についたので駆け寄った。

「丘陵で事故したのは、バスですか」と聞く

「はい、一名の方は即死、もう一名は、救急に行っています」と答えられた。

(まさか・・・)樋口は、考えた。

樋口は病院の正面玄関を出ると回り込み、救患入口に居る真宮寺に大声で呼び掛ける。

「相馬さんがそっちに居ないか確かめてくれ」

「今、聞いてます」返事が返って来た。

救患入口で真宮寺は、

「大学の先生なんです、名前は相馬聡、こっちに運ばれてませんか」

「一寸、待ってて下さい」受付の警備員が中へ走り込んで行き、直ぐに戻って来た。

「半身裂傷であのバスから運び込まれてます」

「なに、本当か」真宮寺が叫び、振り返ると樋口がこっちに走って来ているのが見えた。

「樋口さん、怪我で運び込まれてます」真宮寺が叫ぶ。

「娘に連絡しろ」樋口が叫ぶ。

真宮寺は、返事もせず、携帯を取り出すと優子の携帯へ電話を入れた。

「はい、相馬です」

「真宮寺です。相馬さんがバスで通勤中に大怪我しました。場所は、千里の大きな病院です」

「えっ、・・・無事なんですか?どうなんですか?」

「いや、まだそこまでは聞いていないんで」

「すぐ行きます」

優子は電話を直ぐに切ると上司に走り寄り、父が大怪我をして病院に運ばれた事を伝え、

「と、言う事なので私、早退します」と言い残すと部屋を後にした。



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