この子がいいの
お店に並ぶ沢山のぬいぐるみにオモチャ。
きらきらしている魔法の杖。かわいいお人形。
「ゆあちゃんはどれがいい?」
お誕生日のプレゼントにママが欲しいものを探そうとお店に連れてきてくれた。
きらきら、きらきら、みんな私が一番よ、と言いたげに輝いている。
そんな、沢山の沢山の中から目が合った子がいた。
小さなバナナを持ったゴリラのぬいぐるみ。
つぶらな瞳がじっと見ていた。
「ママ、この子がいい」
小さな手がゴリラに伸びる。
「ゆあちゃん、他にも可愛いお人形があるわよ?」
「ううん。ゆあね、この子がいいの」
小さな女の子がゴリラのぬいぐるみを抱きしめてニコリと笑う。
「ゆあちゃんがいいのなら、この子にしましょう」
そうして、ゴリラのぬいぐるみは女の子の手の中に納まった。
それから10年。
ゴリラのぬいぐるみは今日も女の子の側にいる。
もう女の子ではなく、15歳の少女に成長している彼女の側に。
「おはよう、ママ」
少女がゴリラに話しかける。
「行ってきます、ママ」
少女がゴリラを優しく撫でる。
少女の母親はゴリラのぬいぐるみをプレゼントしたあと、病気でこの世を去っていた。
ゴリラのぬいぐるみは母親から少女への最後のプレゼントになっていた。
「ママ、やっぱりこの子でよかった。だって、ママそっくりな優しい目をしていたの。だから、この子が欲しかったの」
少女がニコリと笑って、ゴリラに手を振った。
「ずっと、一緒にいてね」
小さなバナナを持ったゴリラが玄関に向かう少女の背中を見送った。
fin




