酒豪聖女の幼馴染、酔った勢いで「今の私を女として見て」と誘惑してくる
夜の公爵邸は、昼間とはまるで違う顔を見せる。
日中であれば、使用人たちの足音が廊下を行き交い、来客を告げる声が響き、庭園では貴族たちの馬車が何台も出入りする。
この広大な屋敷で暮らす者にとって、それは当たり前の日常だった。
けれど、夜が深くなるにつれて、ひとつ、またひとつと明かりが消えていく。
今では廊下を照らしているのは、壁に取り付けられた魔導灯と、窓から差し込む月明かりだけだった。
そんな静寂の中を、一人の少女が歩いていた。
白銀の長い髪。
月明かりを受けるたび、その髪は淡く輝いている。
透き通るような白い肌に、普段なら宝石のように澄んでいる翠の瞳。
公爵家の令嬢として相応しい、気品ある容姿。
誰が見ても、聖女と呼ばれるに相応しい少女だった。
ただし──
「……ナギ……」
その声だけは、とても聖女のものとは思えない。
舌足らずで、少しだけ甘えていて。
そして何より、ひどく酔っていた。
ノエルは片手に酒瓶を抱えたまま、ふらふらと廊下を進んでいた。
「……どこだっけ……」
一度立ち止まる。
見慣れた公爵邸の廊下なのに、今日は妙に長く感じる。
「……あっちかな?」
右へ曲がる。
数歩進んでから、首を傾げる。
「……違う」
戻る。
「……こっちかも」
再び歩き出す。
自分でも何をしているのか分からなくなってきた頃、ようやく見慣れた扉が目に入った。
「……あった」
ノエルは嬉しそうに笑った。
扉の向こうにいるのは、幼い頃からずっと知っている男。
ナギ。
孤児院で共に育ち、その頃から隣にいた幼馴染。
今では互いの立場も大きく変わった。
ノエルは聖女となり、公爵家に迎えられた。
一方のナギは月夜の狼と呼ばれている。
そして人々は彼女を「聖女様」と呼ぶ。
社交の場では「公女殿下」と呼ばれることもある。
姿勢を正して。
言葉遣いを整えて。
誰に対しても穏やかに微笑む。
それが、今のノエルだった。
けれど――。
「……ナギなら、いいよね?」
小さく呟いて、扉を叩く。
「ナギぃ……」
返事はない。
「……寝てる?」
ノエルは少しだけ考えた。
普通なら、ここで帰る。
けれど今日は違った。
昼間から、どうにも落ち着かなかったのだ。
公女としての仕事を終えて。
夕食を済ませて。
いつものように一人で部屋へ戻った。
それなのに、胸の奥に小さな違和感が残っていた。
寂しい。
ただ、それだけだった。
理由なんてわからない。
でも、こういう時に会いたくなる相手は決まっている。
「……ナギ」
今度は少しだけ強く扉をコンコンと叩いた。
すると――。
「……誰だ?」
中から声がした。
「!」
ノエルの顔がぱっと明るくなる。
「ナギ!」
「……ノエル?」
扉が開く。
眠そうな目をしたナギが顔を出した。
そして、ノエルの姿を見た瞬間、僅かに眉を寄せる。
「……今日は随分と飲んだな」
「……飲んでない」
「顔が赤いぞ?」
「これは……暑いの」
「夜だぞ」
「……じゃあ、月が赤くした」
「そんなわけないだろ」
「むぅ……」
ノエルは頬を膨らませた。
その仕草が、ひどく幼い。
公女として人前に立つ時には、決して見せない顔だった。
「それで、何の用だ?」
「……会いに来た」
「この時間に? もう遅いぞ」
「うん」
「寝る時間だろ」
「知ってる」
「明日も予定があるだろ」
「知ってる」
「なら――」
「やだ」
「……」
ナギが黙る。
ノエルはその隙に、するりと部屋へ入り込んだ。
「おい」
「ちょっとだけ」
「ノエル」
「ちょっとだけだから」
そう言って、ノエルは部屋の奥へ進んでいく。
ナギの部屋は、相変わらず簡素だった。
必要最低限の家具。
机の上に置かれた本。
壁際には剣。
公爵家の人間が使う部屋とは思えないほど、飾り気がない。
けれどノエルにとっては、妙に落ち着く場所だった。
椅子へ腰を下ろす。
そして、隣にナギが座る。
それだけで、不思議と胸の奥にあった寂しさが薄れていく。
「……落ち着くなぁ」
「酒が回ってるだけだろ」
「違うよ」
ノエルは首を横に振る。
「ナギがいるからかな」
「……」
返事はなかった。
ノエルはその横顔を見つめる。
昔から変わらない。
孤児院にいた頃もそうだった。
ノエルが泣けば、何も言わず隣に座ってくれた。
怖い夢を見た夜も。
嫌なことがあった日も。
何も聞かず、ただ隣にいてくれた。
だからノエルは、ナギの隣が好きだった。
聖女になる前から……。
公爵家に迎えられる前から……。
ずっと……。
「……ねえ、ナギ」
「どうした?」
「私ってさ」
ノエルは自分の髪を指先で弄ぶ。
「昔と変わった?」
「変わったな」
「……やっぱり?」
「ああ」
ノエルの表情が少し曇る。
けれど、ナギは続けた。
「髪も伸びたし、背も伸びた」
「……それだけ?」
「それ以上何を言えばいい」
「……もう」
ノエルは小さく笑った。
「そういうところ」
「?」
「昔から変わらない」
ノエルは肩を寄せる。
白銀の髪が、ナギの肩へ流れ落ちた。
「……私さ」
「うん」
「最近、ちょっと疲れるんだ」
その声から、先ほどまでの酔いが少しだけ消えていた。
「聖女様って呼ばれて」
「……」
「公女様って呼ばれて」
「……」
「みんな、私がちゃんとしてると思ってる」
ノエルは窓の外を見る。
月が、夜空に浮かんでいた。
「笑ってなきゃいけないし」
「……」
「失礼なこと言っちゃいけないし」
「……」
「お酒だって、本当はあんまり飲みすぎちゃいけない」
「それはそうだ」
「そこは否定してよぉ……」
ノエルは少しだけ頬を膨らませた。
けれど、その笑顔はすぐに消える。
「でもね」
小さな声。
「ナギの前だと、そういうの……どうでもよくなるんだ」
ノエルは目を閉じる。
「昔みたいに、何も考えなくていい」
その言葉は、酔いから出たものなのか。
それとも、ずっと胸の奥にしまっていた本音なのか。
ノエル自身にも分からなかった。
ただ――。
ナギの隣にいると、昔の自分に戻れる。
それだけは確かだった。
「……だから、今日は来たの」
「そうか」
「うん」
ノエルはゆっくりと顔を上げる。
そして、ナギの横顔を見る。
少しだけ眠そうな瞳。
昔から変わらない表情。
けれど。
ノエルの中では、もう昔と同じではなかった。
いつからだろう。
ナギを目で追うようになったのは。他の女性と話しているだけで、胸の奥がざわつくようになったのは。自分が綺麗に着飾った時、最初に見てほしいと思うようになったのは。
そして――。
ナギには、自分をどう見てほしいのか。
その答えだけは、もう分かっていた。
「……ナギ」
「なんだ?」
「私って……」
ノエルは一度、言葉を飲み込んだ。
酒で火照った身体よりも、胸の鼓動のほうがずっと熱い。
「……女に見える?」
ナギがこちらを見る。
その視線を受けただけで、ノエルの心臓が大きく跳ねた。
「……見える」
「…………」
あまりにも普通に返されて。
ノエルは逆に何も言えなくなった。
「……本当に?」
「ああ」
「公女だから?」
「違う」
「聖女だから?」
「それも違う」
「じゃあ……」
ノエルは少しだけ身体を寄せる。
距離が近くなる。
「……昔から一緒にいる、ただのノエルでも?」
「……ああ」
その答えを聞いた瞬間。
胸の奥が、じんわりと熱くなった。
嬉しい。
でも――それだけじゃない。
「……そっか」
ノエルは小さく笑った。
そして、ナギの服の裾をそっと摘まむ。
「じゃあ……」
今夜だけは。公女でもなく。聖女でもなく。孤児院にいた、ただの少女でもなく。
ナギの幼馴染でもなく。
一人の女として。
「……今の私を、見てほしい」
月明かりが、二人の間を静かに照らしていた。
そう告げた瞬間、ノエルは自分の鼓動が聞こえた気がした。
静かな部屋だった。
窓の外では夜風が木々を揺らし、月明かりが薄いカーテン越しに差し込んでいる。
いつもなら、こんなことを言えるはずがない。
聖女として。
公女として。
誰から見ても恥ずかしくないように振る舞ってきた自分が、幼馴染の男の前でこんなにも無防備になっている。
しかも今は酒の力を借りている。
それでも――言いたかった。
ずっとナギにだけは。
「……変かな?」
返事がない。
ノエルは不安になって、そっと顔を上げた。
「私……変なこと言ってる?」
「いや」
短い返事。
それだけだった。
けれど、ナギはノエルから目を逸らさなかった。
その視線を受けているだけで、胸の奥が熱くなる。
「……そっか」
ノエルは小さく笑った。
「じゃあ……もう少しだけ、近くにいていい?」
「ああ」
許された。
それだけなのに、ノエルは嬉しくなった。
身体を寄せる。
肩が触れる。
腕が触れる。
肌と肌が触れて熱が伝わる。
それでもまだ足りなくて、ノエルはナギの肩へ頭を預けた。
「……やっぱり落ち着くよ」
「そうか」
「うん」
しばらく、二人は何も話さなかった。
ただ隣にいる。
それは孤児院にいた頃と同じだった。
寒い夜には一枚の毛布を二人で使った。
食事が少ない日は、どちらかが自分の分を相手に譲った。
眠れない夜には、意味もなく小さな声で話をした。
あの頃は、こんな未来が来るなんて考えもしなかった。
ノエルが聖女になることも。
公爵家に迎えられることも。
そして、ナギとこうして同じ夜を過ごすことも。
「……ねえ、ナギ」
「なんだ」
「昔の私と、今の私」
「うん」
「どっちが好き?」
聞いた瞬間、ノエルは自分でも驚いた。
酔っている。
だから言えた。
しらふなら、絶対に聞けない。
ナギはしばらく黙っていた。ノエルはその沈黙が怖くなって、少しだけ視線を落とした。
「……やっぱり、今のなし」
「どっちも、お前だろ」
「……え?」
思ってもいなかった答えだった。
「昔のお前も、今のお前もノエルだ」
「……」
「だから比べる必要はない」
「……そういう答え、ずるい」
ノエルは唇を尖らせた。
「私はちゃんと聞いたのに」
「なら、答え直す」
「うん」
「どっちも好きだ」
「…………」
ノエルの顔が一気に熱くなった。
「……ばか」
「何が?」
「そういうこと……普通の顔で言うから」
「事実だからな」
「……もう」
ノエルは顔を隠すように、ナギの肩へ額を押しつけた。
胸が苦しい。嬉しい。なのに、恥ずかしい。
もっと聞きたい。でも、これ以上聞いたら自分がどうなるのか分からない。
それでも――。
今夜だけは。
もう少しだけ、欲張ってもいい気がした。
「……ナギ」
「なんだ」
「私さ」
「うん」
「今日、わざとこういう格好で来たの」
「……そうか」
ノエルは自分の服へ視線を落とした。
普段の公女としてのドレスとは違う。
酒を飲む時くらいはと、少しだけ楽な服を選んだ。
襟元も普段より緩く、長い髪もまとめずに下ろしている。
今の自分は、誰かに見られることを考えた姿ではない。
けれど――ナギには見てほしかった。
「……気づいてた?」
「何が?」
「私が、わざと無防備にしてるの」
「さあな」
「……もう」
ノエルは少しだけ身体を離す。
そして、ナギの顔を覗き込んだ。
「じゃあ、今からもっと無防備になったら?」
「……ノエル」
「なに?」
「酔ってるだろ」
「うん」
ノエルは素直に頷いた。
「だから今、言えるの」
瞳が揺れる。
それでも、逸らさない。
「……私のこと、女として見て」
「……」
「幼馴染じゃなくて」
ノエルの指が、ナギの服を掴む。
「聖女でも、公女でもなくて」
ほんの少しだけ顔を近づける。
「……一人の女として」
その距離は、もう幼馴染と呼ぶには近すぎた。
ノエル自身も分かっている。
自分から近づいている。
逃げ道をなくしている。
それなのに、ナギが何も言わないことが怖かった。
「……何か言ってよ」
「何を?」
「……何でもいい」
ノエルの声が震える。
「今さら、恥ずかしくなってきた……」
さっきまで勢いで言えた言葉が、急に重くなる。
酒が少しずつ抜けてきたのかもしれない。
それとも、ナギの前だからこそ、素面に戻ってきたのか。
「……私ね」
ノエルは小さく息を吸った。
「ナギに、女として見てもらえたらって……ずっと思ってた」
言ってしまった。
もう後には戻れない。
「だって……」
白銀の髪が頬に落ちる。
「ナギは、昔から私のこと知ってるから」
泣いていた頃も。笑っていた頃も。
汚れた服で走り回っていた頃も。
何も持っていなかった頃も、全部知っている。
「だから……」
ノエルは少しだけ笑った。
「私がどれだけ綺麗に着飾っても、ナギにとっては昔の私のままなんじゃないかなって」
「……」
「それが嫌だった」
ほんの少しだけ、目を伏せる。
「……嫌だったんだ」
自分でも意外だった。
ナギに昔の自分を見てほしいと思っていた。
でも同時に、今の自分も見てほしかった。
成長した自分を。
聖女になった自分を。
公爵家の令嬢になった自分を。
そして――女になった自分を。
「……だから、今日は来たの」
ノエルは顔を上げた。
「ナギに、ちゃんと見てほしくて」
しばらくして。
ナギが口を開いた。
「……最初から、見てる」
「…………え?」
「今のお前も、昔のお前も」
「……」
「全部、お前だ」
ノエルは何も言えなかった。
そして次の瞬間――。
「……ずるい」
ぽろりと、言葉が落ちた。
「……そんなこと言われたら」
目尻が少しだけ潤む。
「もっと好きになっちゃうじゃん……」
ナギは何も言わなかった。
ノエルはそれが恥ずかしくて、慌てて顔を逸らした。
「……今の、聞かなかったことにして」
「無理だな」
「なんで!」
「聞こえたから」
「……もう!」
ノエルは真っ赤になった。
けれど、それでも離れようとはしなかった。
むしろ――。
そっと手を伸ばす。
ナギの頬へ指先を触れた。
「……ねえ」
「なんだ」
「もう一つだけ」
「?」
ノエルは少し迷って。
それから、目を閉じた。
ほんの一瞬。
柔らかな感触が、ナギの頬へ触れる。
「……ちゅ」
離れる。
「…………」
ノエル自身が固まった。
自分からしたのに。
自分から誘惑したのに。
今になって心臓が壊れそうなくらい跳ねている。
「……しちゃった」
頬を両手で覆う。
「……どうしよう」
「どうもしないだろ」
「するよ……!」
ノエルは完全に赤くなっていた。
「だって、ナギにキスした……」
「頬だろ」
「そういう問題じゃないの!」
思わず声が大きくなる。
そして、自分で恥ずかしくなって小さくなる。
「……もう、知らない!」
ノエルはナギの肩へ顔を埋めた。
「……今日は帰らない」
「相当酔ってるじゃないか? もう寝たほうがいい」
「うん……」
「眠いんだろ」
「ちょっとだけ……」
「なら――」
「でも、ナギが寝るまで起きてる」
「なぜ?」
「いつも私が先に寝ちゃうから」
ノエルは小さく笑った。
「今日は、ナギが先に寝て」
「……分かった」
「絶対だよ」
そう言っていたはずなのに。
数分後。
「…………」
ノエルはナギの肩に寄りかかったまま、静かな寝息を立てていた。
「……寝たな」
返事はない。
白銀の髪が肩から滑り落ち、月明かりの中で淡く輝いている。
ナギはしばらくそのままにしていたが、やがて眠ったノエルをベッドへ横たえた。
それから部屋の明かりを落とす。
静かな夜だった。
2
翌朝。
ノエルは目を覚ました。
「……ん」
カーテンの隙間から差し込む朝日が眩しい。
頭が少し重い。
「……飲みすぎたぁ……」
昨夜の酒が残っている。
ノエルはぼんやりと天井を眺めながら、昨夜のことを思い出そうとした。
ナギの部屋へ行った。
一緒に話した。
それから――。
「…………」
思い出した。
女として見てほしいと言った。
昔の自分と今の自分、どちらが好きか聞いた。
そして――。
「………………」
ノエルは布団を頭までかぶった。
「……私、何してるの……」
枕へ顔を押しつける。
「~~~~っ!」
思い出せば思い出すほど恥ずかしい。
しかも最後には、自分からキスまでした。
「……無理」
もうナギの顔を見られない。
そう思った、その時。
コンコンと扉が叩かれた。
「ノエル」
「…………!」
聞き慣れた声。
「起きてるか?」
「…………」
返事ができない。
「ノエル?」
「……起きてる」
小さな声で答える。
「入るぞ」
「待って!」
慌てて布団から顔を出す。
けれど、時すでに遅し。
扉が開き、ナギが入ってくる。
「おはよう」
「……おはよう」
ノエルは目を合わせられない。
「昨日のことなんだが」
「…………」
肩が跳ねる。
「何?」
「覚えてるか?」
「……少し」
「そうか」
ナギは淡々としている。
「なら話は早い」
「……何?」
「頬にキスしただろ」
「…………」
ノエルの顔が真っ赤になる。
「……忘れて」
「嫌だ」
「なんで!?」
「嬉しかったから」
「…………」
ノエルは言葉を失った。
それから、ゆっくり布団を引き上げる。
顔を隠す。
「……ほんと、ずるい」
「何が?」
「……そういうところ!」
布団の中で、ノエルは小さく笑った。
恥ずかしい。逃げ出したい。
でも――。
昨夜、自分が欲しかった答えは、ちゃんともらえた。
聖女としてではなく。公女としてでもなく。
昔の幼馴染としてだけでもなく。
今の自分を、一人の女として見てくれている。
それだけで、胸の奥が少しだけ温かくなる。
「……ねえ、ナギ」
「なんだ?」
ノエルは布団から少しだけ顔を出した。
「今日も……一緒にいてくれる?」
「ああ」
「……そっか」
ノエルは嬉しそうに笑った。
「じゃあ……今日はお酒、飲まない」
「珍しいな」
「うん」
少しだけ考えて。
「……でも、夜になったら飲むかも」
「……」
「だって」
ノエルはいたずらっぽく笑う。
「酔ってる時の私のほうが……素直になれるから」
そして――。
昨日より少しだけ勇気を出して。
「……今度は、酔ってない時にも言えるようにするね」
そう呟いた。
月の夜から始まった小さな秘密は、まだ誰にも知られていない。
聖女としてのノエルと。
酒に酔って昔の少女へ戻るノエル。
そのどちらも知っている幼馴染との距離は――。
昨夜を境に、ほんの少しだけ変わり始めていた。




