夜が去り、手を動かす理由が残った
空が白み始めた頃、俺は目を覚ました。
あの後気絶したように眠っていた。
狼の気配は、もうない。
残っているのは、崩れかけの廃屋と、冷えた空気。
それだけだ。
立ち上がり、壁に空いた穴を見る。
風が抜ける。
今後も夜を越えるには、これを放っておけない。
拾い集めた板切れを当てる。
隙間は多いが、形は悪くない。
手のひらを、板と壁の境目にかざした。
淡い光が、指の隙間から滲む。
熱でも、火でもない。
ただ「繋がる」という感覚だけが、確かにそこにあった。
――固定する。
そう思った瞬間、光が走る。
板と壁の境目が、溶けるように馴染み、動かなくなる。
叩く音も、削る音もない。
終わった、と直感で分かった。
光は自然と消えていく。
次は、最低限の備え。
廃屋の外、土の柔らかい場所を選ぶ。
ここなら――落とせるかもしれない。
地面に手を向け、掌を下ろす。
また、光。
――掘る。あの狼の足が沈む程度。
土が音もなく沈み、形を変える。
掘った、というより「土を押しのける」感覚に近い。
枝と葉を被せれば、とりあえずはそれでいい。
かかるか分からないほど簡単な罠だが、無いよりはマシだ。
次に武器。
木の棒を一本と鉄くずを手に取る。
先端に手をかざす。
――尖らせる。固着する。
光が収まると、そこには目的通りの形があった。
原始的だが鋭く、命を脅かすように鈍く光っている。
あわせて背負い籠も同じようにつくる。
廃屋に絡まる蔓と落ちていたぼろ布を木材と組み合わせ、形を思い描く。
――運ぶ。軽く。崩れないように。
やや長く掌の光が、素材同士を繋ぎ止める。
完成した籠を背負い、違和感がないことを確かめた。
外へ出る。
視界の端に、情報が流れる。
――危険度:低
目の前の森は、静かだった。
木の実に触れれば、食えるかどうかが分かる。
茸も、山菜も同じだ。
選び、籠に入れる。
迷いはない。理由もいらない。
生きるために必要なことだ。
やがて、川を見つける。
澄んだ流れ。
――危険度:低
手ですくい、口に含む。
とりあえず味には問題なし。
飲むときは沸かせばいいだろうか。
浅いサバイバル知識だが、ないよりはずっといい。
近くに落ちている木を選び、水筒の形を思い描く。
簡易的な作りのものだ。
掌が光り、内部が空洞になる。
水を汲み、蓋を閉じる。
それで終わりだ。
廃屋へ戻りながら、考える。
このクラフトスキル、魔法と呼べるほどには便利ではない。
だが、普通の手作業でもない。
触れれば分かる。
思えば、形になる。
あの夜はまた俺を脅かすだろう。
それでも、この手は――動かせる。
次は、この力の限界を知る番だ。
出来ること。
出来ないこと。
それを知らなきゃ、先には進めない。
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