鉄と肉のあいだで、狼は吠えない
息抜きに始めたシリーズの方がネタを思いつく現象。
「宿題前のお掃除現象」となづけましょう。
炎が、ふっと揺れた。
それだけで、嫌な予感がした。
風じゃない。
熱の揺らぎでもない。
——何かが、近づいている。
廃屋の外。
闇の向こうから、重たい音がした。
カツン。
獣の足音にしては硬すぎる。
だが、金属を引きずるにしては、妙に静かだ。
俺は無言で立ち上がり、壁際に身を寄せた。
カチカチと歯が鳴るのを食いしばって耐える。
次の瞬間、
月明かりを背にして、それは姿を現した。
狼の形をしている。
だが、毛並みのはずの部分は途中で途切れ、
剥き出しの筋肉が赤黒く脈打っていた。
胴の半分は、未知の金属で覆われている。
滑らかでもなく、錆びてもいない、
一見鉄のようにも見えるが、明らかに見覚えのない素材。
顎が開く。
歯列は獣のそれだが、奥には金属製の刃が仕込まれていた。
呼吸に合わせて、肉と器械が軋む音を立てる。
——混ざっている。
生き物と、そうでないものが。
視界の端が、一瞬だけ白く染まった。
【危険度:高】
【認識状態:確認中】
断片的な情報が流れ込み、すぐに消える。
意味を整理する暇はない。
狼は、吠えなかった。
ただ、こちらを見ている。
感情のない目。
だが、獲物を定めるには十分すぎる焦点。
【危険度:極】
【認識状態:有】
情報を認識する次の瞬間、
地面を蹴る音が炸裂した。
「——っ!」
俺は反射的に横へ跳ぶ。
さっきまで立っていた場所に、金属の爪が突き立てられた。
床が砕け、火花が散る。
——速い。
迷いなく、一直線。
俺は距離を取ることだけに集中し、廃屋の裏へ走った。
瓦礫を蹴倒し、崩れかけの柱を倒す。
ガンッ、と鈍い衝撃。
肉と金属がぶつかる、不快な音が響いた。
壁は、辛うじて持ちこたえた。
俺は息を殺し、闇の中で身を低くする。
数秒。
あるいは数分。
狼は、それ以上追ってこなかった。
遠ざかっていく、あの奇妙な足音。
静けさが戻った頃、
俺はゆっくりと息を吐いた。
去り行く巨大な影を確認すると、
視界に、また一瞬だけ情報が滲む。
【危険度:高】
【認識状態:喪失】
声はない。
説明もない。
ただ、この世界には——
ああいう“もの”が、うろついている。
それだけは、はっきりした。
俺は、暗闇の中で手を握る。
——逃げ切れたのは、運が良かっただけだ。
次は、通用しない。
そう直感しながら、
俺は再び、火の燻る廃屋へと戻った。
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