土俵作り②
~特別攻撃隊の紹介~
【レオンハルト】
辺境の小国、オルドヴィア王国の王子。魔王を討つため、特別攻撃隊を編成した。度が過ぎるほどの生真面目。
【グン】
レオンハルトに育てられたフェンリル(神獣の銀狼)の双子の兄。冷静沈着で自信家。
【カミロ】
騎士。故郷の村を魔族に蹂躙された過去を持つ。陽気で荒っぽい。
【ブリュー】
カミロに育てられたフェンリルの双子の弟。好奇心旺盛で無鉄砲。
【ルカ】
魔法使い。奴隷のように働かされていた採掘場から連れてこられた。温和で仲間思い。
特別攻撃隊による「土俵作り」は、狂気的な精度で着々と進んでいた。
今や城塞の周囲は、切り倒された巨木が緻密な計算のもとに配置された、巨大な天然のサーキット場と化している。レオンハルトが呼び寄せた使者たちも合流し、彼らは解体されたワイバーンの塩漬け肉を、森の各所に点在する隠れ家へと運び出していった。
拠点の保守を担うことになった使者たちも、初めて口にするワイバーン肉の至高の味に、思わず舌鼓を打った。
土俵が完成すると、特別攻撃隊の日常は再びストイックな籠城生活へと戻る。
以前と異なるのは、午前中にサーキットでの走行訓練、午後からは肉体を極限まで追い込む筋力トレーニングが日課となったことだ。
ルカが「魅惑の貴婦人エクストラコンディショナー」によって付加した、向かい風を打ち消す魔法の効果は凄まじいものだった。最高速度に達したグンとブリューが走り去った後には、音速を超えた証である大轟音――衝撃波が発生し、大気が爆ぜる。
二頭の速度はついに、レオンハルトとカミロが死に物狂いで筋力アップを図らなければ、遠心力と風圧で振り落とされるレベルにまで到達していた。
ルカもまた、自分にしかできない戦いに没頭していた。
城内をくまなく探索した彼は、地下に隠された実験場を発見する。そこに横たわっていたのは、かつて連合軍を蹂躙した一つ目の巨人、サイクロプスの実験体だった。
筋組織をさらけ出し、四層に分かれためくれた皮膚。ルカはその構造を観察し、驚愕する。魔王軍は筋組織の一本一本に強化魔法を、皮膚の各層に緩衝魔法を、そして表面に保護魔法を幾重にも付与していたのだ。
(この構造を解き明かせば、自動歩兵機の砲撃を防ぐカラクリがわかるはずだ……)
人類を勝利に導くため、ルカは禁忌の技術解明に心血を注いだ。同時に、レオンハルトが押収した指令書の解析も進めていく。
午後からは、雷魔法で作った魔法槍を片手に海獣漁に精を出した。
足場のない海上戦では、ルカの水操作魔法が鍵となる。ブリューが先頭、グンが右斜め後ろという地上の陣形を保ちつつ、獲物に対し左旋回を仕掛ける。グンに跨ったルカが海面から高圧の水鉄砲を噴射し、二頭の泳ぎを後押しする。この連携訓練のおかげで、彼らの食卓には毎日新鮮な海獣が並んだ。
夜は川辺でバーベキューを楽しみながら、ルカはレオンハルトとカミロの「筋肉自慢」を半ば強制的に見せられる羽目になった。
そんな中、ルカは二人の鎧兜の表面にエレクトラルのメッキを施し、風を打ち消す魔法を練り込んでいく。完成した二人の防具は、月光を浴びて鮮やかに輝く蒼色へと変貌を遂げた。
ルカは、この過酷ながらも幸せな日々が永遠に続けばいいと願っていた。
しかしある夜、焚き火を囲む中、レオンハルトが静かに告げた。
「……日数的に……遅すぎる。奪還軍は来ないな」
焼き魚を頬張っていたカミロも、その意見に賛同した。
「だな。魔王軍は王都への進軍を止めたくないんだろう。城塞の奪還は後回しだ。……王都を占領し、足場を固めてから来るつもりだろうぜ。王子、どうする?」
レオンハルトはしばし思案した後、断固とした判断を下した。
「あと三日待とう。北部の支配地域から奪還軍が来る可能性がある。……それでも来ない場合は、ここを拠点としつつ、指令書に記されたポイントをしらみ潰しに回る」
「遠征か」
ルカが尋ねる。
「でも、記された場所は十中八九、軍事施設だよ。相手の土俵では戦わないんじゃなかったの?」
「施設のなかには決して入らない」
レオンハルトの瞳が冷たく光った。
「あくまで施設から出てきた部隊を、我々のフィールド……森で暗殺する」
いつの間にか川遊びをやめていたグンとブリューも、ルカの隣で静かに三人の会話を聞き入っていた。
その瞳には、甘えるような愛らしさは消え、敵を屠るための鋭い戦士の光が宿っていた。




