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土俵作り①

~特別攻撃隊の紹介~


【レオンハルト】

辺境の小国、オルドヴィア王国の王子。魔王を討つため、特別攻撃隊を編成した。度が過ぎるほどの生真面目。


【グン】

レオンハルトに育てられたフェンリル(神獣の銀狼)の双子の兄。冷静沈着で自信家。


【カミロ】

騎士。故郷の村を魔族に蹂躙された過去を持つ。陽気で荒っぽい。


【ブリュー】

カミロに育てられたフェンリルの双子の弟。好奇心旺盛で無鉄砲。


【ルカ】

魔法使い。奴隷のように働かされていた採掘場から連れてこられた。温和で仲間思い。


挿絵(By みてみん)


魔王軍の機動力を支えていた翼竜を「食糧」へと変える凄惨な流れ作業が始まった。

レオンハルトがワイバーンの巨躯を関節ごとに大雑把にぶつ切りにし、ぶ厚い鱗が並ぶ皮に鋭い切り込みを入れる。めくれた先端をグンが強靭な顎で咥えて引き剥がすと、ずるりと皮が剥け、丸裸の肉塊が姿を現した。そこへカミロが骨の隆起をなぞるように刃を滑らせ、手際よくブロック肉へと切り分けていく。

解体現場と地下貯蔵庫を往復し、空樽や塩袋を運ぶのはブリューの役目だ。最後にルカが、ブロック肉を山積みの塩と共に樽の中へと漬け込んでいく。

春の陽射しは思いのほか強く、現場には熱気が籠もった。レオンハルトとカミロは上着を脱ぎ捨て、滴る汗を拭いながら立ち働く。グンとブリューも舌を出し、荒い息を吐きながらも作業の手を休めない。

ただ一人、ルカだけが合間に冷凍魔法を使い、自分の額や首の付け根を冷やして涼を取っていた。

「おいルカ、ズリぃぞ! てめぇだけ涼みやがって」

「僕、魔法使いなんでっ! 羨ましいならカミロも魔法覚えてくださいっ」

「ちきしょっ」

時折飛んでくるカミロのぼやきに、ルカは軽口で返しながら、この三ヶ月で失われていた「日常」の感覚を噛み締めていた。

「休憩だ」

レオンハルトの短く鋭い合図。一同が一斉に動きを止める。

すかさずルカが、キンキンに冷やしたポーションの瓶をレオンハルトとカミロへ投げつけ、グンとブリューの分を桶に注いだ。レオンハルトは二本立て続けに喉に流し込むと、息をつく間もなく告げた。

「再開だ」

「ちょっとちょっとレオンハルトさん、まだ十秒くらいしか経ってませんけど……」

王子のスパルタは、平和な日常に戻っても一分のブレもなかった。

その徹底した効率化のおかげで、夕暮れが夜闇に溶け落ちる前に、全ての解体作業は完了した。

夕食は、新鮮なワイバーン肉の網焼きステーキだ。

「――っ旨い!」

思わず声が漏れた。程よい脂の甘みと、芳醇な肉の香り。噛み応えがあるのに、口の中でスッと溶けていく優しい口溶け。間違いなく、これまで食べた肉の中で最高級の味だった。

「これからしばらくはこの肉がメインだろ……他の肉が食えなくなるぞ」

カミロの懸念に、全員が深く頷きを返した。

食事が済めば、待ちに待ったあの時間――シャンプーの時間だ。

五人は競うように川辺まで駆け出し、途中で服を脱ぎ捨てて川へとダイブした。

銀色の体毛がたっぷり水を含んだところで、まずは下地洗いだ。レオンハルトとカミロが一個の石鹸を使い回し、二頭の体を力強く泡立てていく。三ヶ月分の汚れを落とすべく、潜っては流し、再び泡立てる。汚れが落ち、指先が毛の弾力を捉えるようになると、一行は川辺へ上がった。

ルカの風魔法で皮膚まできちんと乾かし、櫛で梳かす。絡まっていた毛が減り、次第に銀の体毛に気品ある光沢が戻っていく。元々精悍な二頭の顔立ちは、手入れによってますます磨きがかった。

グンとブリューはうやうやしく伏せをし、至福の表情でルカに身を預ける。ルカがエーテルシャンプーを手に取り、丹念なマッサージを始めると、きめ細かい泡がシュワシュワと毛の中に消えていく。二頭は気持ち良さのあまり、今にも白目を剥いて昇天しそうだ。

川で自分の体を洗っていたレオンハルトとカミロは、(今夜からまたあの『さらふわ』の毛の中に顔を埋めて寝られるのだ……)と同じ夢想をしてニヤついていた。

だが、ゆっくりと立ち上がろうとした二頭を、ルカが制した。

「まだ終わっていませんよ、みなさん」

その一言に、衝撃が走る。

「ジャーン! 魅惑の貴婦人、エクストラコンディショナー!」

取り出された高級そうな包装に、全員の目が釘付けになった。

「これは希少な琥珀スライムから抽出された、魔導率激高の高級コンディショナーなのです! これで向かい風を受け流す風魔法を付与すれば……もしかして、もっと速くなっちゃったりして!」

「いいね! 明日試そう!」

レオンハルトの瞳が、期待で輝く。

まさかの二回目となるマッサージ。グンもブリューも、これ以上ないほどの大満足を表情に浮かべていた。

その夜、明かりの消えた寝室からは、かつてないほど『さらふわ』になった毛並みに顔を埋めた男たちの、歓喜の悲鳴がいつまでも響いていた。


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