籠城①
~特別攻撃隊の紹介~
【レオンハルト】
辺境の小国、オルドヴィア王国の王子。魔王を討つため、特別攻撃隊を編成した。度が過ぎるほどの生真面目。
【グン】
レオンハルトに育てられたフェンリル(神獣の銀狼)の双子の兄。冷静沈着で自信家。
【カミロ】
騎士。故郷の村を魔族に蹂躙された過去を持つ。陽気で荒っぽい。
【ブリュー】
カミロに育てられたフェンリルの双子の弟。好奇心旺盛で無鉄砲。
【ルカ】
魔法使い。奴隷のように働かされていた採掘場から連れてこられた。温和で仲間思い。
大軍をものともせず、死神の鎌の如く矛を振り回す銀色の二条の光。
その圧倒的な暴力を前に、魔族の兵士たちは恐怖に突き動かされ、蜘蛛の子を散らすように森の奥へと逃げ去っていった。
レオンハルトの読みは正しかった。
「頭脳」である幹部という指揮系統を失えば、知能の低い魔族たちはただの烏合の衆に過ぎない。強固なはずだった魔王軍の陣形は、親としての怒りに燃える男たちによって、文字通り「食い散らかされて」崩壊したのである。
それからというもの、四人は籠城のための「備蓄」と称して、城塞周辺に残る魔族の残党を狩っては食い、狩っては食うという、血生臭い日々を過ごしていた。
「……だいぶ食糧が減ってきたな~」
仮の境界線として定めた川辺を辿りながら、カミロが恨めしそうに呟いた。
魔族に故郷を焼かれ、人間としての尊厳を削られた彼にとって、もはや魔族を「敵」と呼ぶことすら生ぬるい。それはただの「動く肉」であり、憎悪を込めて咀嚼すべき対象へと成り下がっていた。
「久しぶりにリザードマンが食べたいな……」
グンの背に跨るレオンハルトも、空腹に腹を鳴らしながら同調した。
彼らはこの数日で、遭遇したあらゆる魔族を屠り、その肉質を吟味してきた。その中でもリザードマンの肉は別格だった。鱗の下に隠された筋肉は思いのほか柔らかく、火を通せば上質な脂が滲み出す。
「向こう岸に渡れば、まだリザードマンがいるかもよ?」
カミロが対岸の鬱蒼とした森を指差して提案する。だが、レオンハルトは即座に首を横に振った。
「ダメだ。油断はできん。援軍が来る」
レオンハルトが呼ぶ「援軍」とは、人類側の救援ではない。魔王軍幹部同士は何らかの術式で連絡を取り合っていたはずであり、不落の城塞からの連絡が途絶えた今、異変を察知した他の幹部が様子を見に戻るはずだ。
それが進軍を指揮する武官か、あるいは兵站を司る文官かは不明だが、必ず「次の獲物」は現れる。その来るべき時に備え、狩りは常に城塞へ即座に帰還できる範囲で行うのが、彼の冷徹な作戦だった。
「このままいつまで経っても戻ってこなかったらどうする?」
「塩漬け肉が尽きそうになったら、ここを捨ててルカを迎えに行く」
王子の口から「ルカ」という名が漏れた瞬間、それまで鼻先で獲物の臭いを追っていたグンとブリューが、弾かれたように顔を上げた。
二対の黄金の瞳が、反射的に主たちの顔を覗き込む。
「ルカに会いたいよな~? あいつ、今ごろ心配しすぎてハゲてんじゃねえか……」
カミロがブリューの大きな耳を撫でながら苦笑いする。
グンとブリューは「クゥン」と甘えた声を出し、一刻も早く会いたいと訴えるように、せわしなく鼻を鳴らした。
「……ああ、分かってる。必ず、ルカを迎えに行く。そのためにも、まずは目の前の敵をすべて肉に変える必要がある」
レオンハルトが矛の石突きで地面を叩くと、グンが再び鋭い殺気を帯びて前を見据えた。
愛する「家族」に再会するための揺るぎない戦い。
そのためには、魔族の肉を食らい、血を啜ってでも、この城を死守し続けなければならない。
殺伐とした沈黙が流れる中、川上からわずかに、爬虫類特有の生臭い風が吹いてきた。リザードマンだ。
「……カミロ。三時の方角、茂みの奥だ」
「へへっ、神様に祈りが通じたらしいぜ。行くぞ、ブリュー!」
銀色の影が、獲物を求めて疾走を開始した。




