神の血
~特別攻撃隊の紹介~
【レオンハルト】
辺境の小国、オルドヴィア王国の王子。魔王を討つため、特別攻撃隊を編成した。度が過ぎるほどの生真面目。
【グン】
レオンハルトに育てられたフェンリル(神獣の銀狼)の双子の兄。冷静沈着で自信家。
【カミロ】
騎士。故郷の村を魔族に蹂躙された過去を持つ。陽気で荒っぽい。
【ブリュー】
カミロに育てられたフェンリルの双子の弟。好奇心旺盛で無鉄砲。
【ルカ】
魔法使い。奴隷のように働かされていた採掘場から連れてこられた。温和で仲間思い。
ルカは凍えるような暗闇のなか、曖昧な自我だけがあった。
(寒い……寒いよぉ……ぼくは……だれ……?もう……)
もうこのまま消えてしまおうかと諦め掛けたその時、暗闇のなかに懐かしい声がこだました。
『ウォンッ!』『オォンッ!』
懐かしいが、誰の声かは分からない。それでもその声は繰り返し暗闇のなかでこだます。決して諦めずに何度でも何度でも……自分を呼んでいるのだと感じた。
グンが自分の前足をルカの口元に添え、ブリューがその銀色の毛のなかに鋭い牙を立てていた。
レオンハルトとカミロは一瞬、その光景に困惑したが、すぐに真意を悟った。
「血を……飲ませているのか」
レオンハルトがルカの頭を抱え、グンの傷口から滴る血を、ルカの青白い唇に押し当てた。カミロが閉ざされた口をこじ開ける。
(二人は神の子……驚異的な生命力を持つ。その血には、神の奇跡すら宿っているはずだ)
グンとブリューが天を仰いで吠えれば、男たちもそれに続いた。
「起きろルカッ!」「戻ってこい、ルカッ!」
(あぁ……思い出した。この声は、グンとブリュー……愛おしい声……あぁ……なんと愛おしい声……)
ルカの瞼が微かに震え、開いた。そして、深く、ゆっくりと、止まっていた肺が空気を求めて動く。四人の瞳に、消えかかっていた希望の灯火が射し込んだ。
ルカの目はまだ白く濁り、意識は混濁している。だが、喉が神の血を欲して動いた。
(口の中になにか入ってくる……そうだ、飲まなきゃ。腹部の傷を……修復しなきゃ……)
だらりと垂れていたルカの手から、青白い光が溢れ出した。カミロが咄嗟にその手を支え、深く抉れた腹部へと押し当てる。
(こんなところで死ぬわけにはいかない……グンとブリューは……二人はっ……)
「僕が守るんだあぁぁぁぁぁっ!!」
絶叫と共に、ルカが跳ね起きた。
一同は驚きに目を見開き、次の瞬間、一斉に安堵の溜息を漏らした。
あまりの緊張からの解放に、カミロは腰を抜かして座り込み、目に涙を溜めて恨み節をぶつける。
「お前なぁ……もう無理なんて言ってみたり、守るって言ってみたり、なんなんだよ、ったく……!」
「カミロ、ごめん。みんなも、ごめん……」
申し訳なさそうに謝るルカに対し、カミロは「二度と弱音を吐くなよ」と鋭い眼光で釘を刺した。レオンハルトもまた、「次、弱音を吐いたら許さん」と凍りつくような厳しい目を向ける。
グンとブリューはルカの頬を両側から舐め上げて、死の淵から生還した彼の健闘を称えた。
その時、凄まじい雷光が洞窟内を白く焼き、遅れて衝撃的な轟音が響いた。そうだ。いつまでもルカの復活を喜んでいる暇はない。
「状況を整理しよう」
レオンハルトが立ち上がり、天井の枝葉を掻き分けた。そこには、魔の暗雲が渦巻く絶望的な空があった。
「ルカの予測通り、王都上空に魔王城が降臨した。指令書の印は転移装置の所在地で間違いない。今この瞬間にも、連合軍は壊滅に向かっているだろう」
最悪の戦況を理解した一同の顔が引き締まる。
「次にあの幹部の言葉だ。『神々は我らの味方』……これが真実なら、一つの推測が成り立つ。理事国の上層部は、神々の怒りを買うような禁忌に触れた可能性がある。それを隠蔽したまま無関係な諸国を巻き込み、神々との全面戦争を始めた……」
「もしそうなら、上層部は万死に値する大罪人だぜ」
カミロがやるせない怒りを拳に込めた。
「そして、もし戦争の根源がそこにあるなら、我々には『和睦』という選択肢も浮上する」
「……じゃあ、今も殺されている王都の人々は見殺しにするの?」
ルカが不安げに尋ねたが、レオンハルトは首を振った。
「そうは言っていない。だが、連合軍に参加すると言うことは、上層部を守るということ……上層部はこの戦争の悪の親玉だ。神々も参戦してくるだろう。あの白い異形……大天使ニョグダ。奴のような強者が複数同時に現れれば、今の我々では敗死は免れない。グンとブリューを、上層部の私利私欲の駒にして死なせるわけにはいかない」
「王子、そいつには大賛成だ!」「そんな不条理、あってたまるかっ!」
カミロとルカが叫ぶ。
レオンハルトはあぐらをかいて座り込み、一同と同じ目線で指令書を広げた。
「今、我々にできる最善の手は一つ。この指令書に記された転移ポイントをすべて制圧し、魔王城を元の場所へ強制送還することだ」




