魔王城
~特別攻撃隊の紹介~
【レオンハルト】
辺境の小国、オルドヴィア王国の王子。魔王を討つため、特別攻撃隊を編成した。度が過ぎるほどの生真面目。
【グン】
レオンハルトに育てられたフェンリル(神獣の銀狼)の双子の兄。冷静沈着で自信家。
【カミロ】
騎士。故郷の村を魔族に蹂躙された過去を持つ。陽気で荒っぽい。
【ブリュー】
カミロに育てられたフェンリルの双子の弟。好奇心旺盛で無鉄砲。
【ルカ】
魔法使い。奴隷のように働かされていた採掘場から連れてこられた。温和で仲間思い。
銀色の二条の光は、夜の闇を切り裂きながら、一条の筋となって流れる景色の中を疾走していた。レオンハルトの腕の中では、ルカの体温が刻一刻と奪われていく。
(どこへ向かう……? 王都か? いや、負傷兵で溢れ返っているはずだ。そもそも、そこまでルカの命が持たない。近隣の集落か? 藪医者すら望めまい。当てがない……どこにも……!)
焦燥が脳を焼き、思考を乱す。さらに、最悪の懸念が意識の端を掠める。
(あの「のっぺらぼう」を巻けたか? 奴との距離は何秒だ? 一秒にも満たないか……?)
「王子! どこへ向かう!?」
並走するカミロの叫びに、レオンハルトは絞り出すように答えた。
「最南端の隠れ家だッ!」
それは、理性を捨てたヤケに近い判断だった。奴が追ってきているかもしれないという恐怖を、加速の衝撃で無理やり押し殺す。
(大切な家族を失うわけにはいかない……! それだけは、絶対に!)
辿り着いた最南端の隠れ家は、鬱蒼と生い茂る原生林の谷間に口を開けた、洞穴だった。銀の光がそこへ滑り込む。
じめじめとした洞内。枝葉に遮られた天井から、細い月明かりが弱々しく差し込んでいる。幸運にも、あの白い異形の気配はまだなかった。
レオンハルトはルカのバッグをひったくり、中身を必死に漁った。じれったい。苛立ちのままにバッグを逆さにして振り、散乱した薬瓶や魔導具をカミロが片端から掴み取る。
「ルカ! 修復魔法を使え! 自分で自分を縫い合わせるんだ!」
レオンハルトの叫びに、ルカは焦点の定まらない視線だけで応えた。
自らの腹部に当てた手からは、青白い柔らかな光が漏れている。だが、指の間からはドクドクと鮮血が溢れ続け、一向に止まる気配はない。
「飲めるか!? 飲め!」
カミロがポーションの栓を歯で引き抜き、ルカの唇に添えた。気管に入らぬよう、一滴ずつ、祈るように垂らしていく。
「……ゴフッ……ゴホッ……!」
ルカが激しくむせ返り、血の混じった液体を吐き出した。彼は最期の力を振り絞るように、消え入りそうな声を漏らす。
「……たぶん……もう、無理……」
その弱音に、カミロの精神が限界を迎えた。
「ふざけんじゃねえッ! 諦めんな、俺たちが付いてるだろうがッ!」
怒声に等しい叱咤。それが届いたのか、ルカの瞳に一瞬だけ、鋭い理性の光が宿った。
「……閃いた……」
二人は息を止め、ルカの唇に耳を寄せた。
「指令書……印……転移……魔法……」
「ハッ? 何を言ってやがる、今さら! 治療に専念しろ、喋るな!」
カミロは混乱し、自分が怒っているのか励ましているのかさえ分からず、ただ喚き散らした。
「魔王城……」
ルカは確かにそう言った。魔王軍ではない、城だ。
その一言で、レオンハルトの脳内にバラバラだったピースが組み合わさっていく。指令書の地図に散りばめられていた不気味な印。あれは軍事施設などではなかった。王都の真上に「魔王城」を直接降臨させるための、大規模な空間転移装置の設置ポイントだったのだ。
その時、洞外で激しい雷鳴が轟いた。
雨ではない。レオンハルトが崖を駆け上がり、枝葉を掻き分けて空を仰ぐと、そこにはつい先刻まで存在しなかった禍々しい暗雲が渦を巻いていた。
王都の方角――稲妻が空を裂くたびに、上空に浮遊する巨大な「城」の影が浮かび上がる。
城門が開き、黒い点となってワイバーンの大群が解き放たれる。
レオンハルトの頭のなかに、人類の終焉を告げる鐘の音が響き渡った。
「ルカーーーッ! 目を閉じるな! 歯食いしばれッ!」
下から響くカミロの絶叫で我に返り、レオンハルトは崖を飛び下りた。
だが、そこにいたのは、静かに首を横に傾けたルカだった。
腹部に当てられた手からは、もう何の光も放たれてはいなかった。




