決戦前夜
~特別攻撃隊の紹介~
【レオンハルト】
辺境の小国、オルドヴィア王国の王子。魔王を討つため、特別攻撃隊を編成した。度が過ぎるほどの生真面目。
【グン】
レオンハルトに育てられたフェンリル(神獣の銀狼)の双子の兄。冷静沈着で自信家。
【カミロ】
騎士。故郷の村を魔族に蹂躙された過去を持つ。陽気で荒っぽい。
【ブリュー】
カミロに育てられたフェンリルの双子の弟。好奇心旺盛で無鉄砲。
【ルカ】
魔法使い。奴隷のように働かされていた採掘場から連れてこられた。温和で仲間思い。
結局、特別攻撃隊が遠征の途に就くことはなかった。彼らが動くより先に、地獄の方が音を立てて近づいてきたからだ。
「……ウォンッ!」
深夜、屋上のテントにブリューの鋭い警戒声が響き渡った。その一声で、微睡の中にいた一同は弾かれたように跳ね起きる。夜番を務めていたブリューの黄金の瞳は、北の空、風に乗って運ばれてくる微かな、しかし悍ましい「死の臭気」を捉えていた。
「王子、北の方角からだ」
蒼色に輝く鎧兜を瞬時に装着したカミロが、傍らの矛を掴んで告げる。
「分かった。急ごう」
レオンハルトの短く低い声。朧月が雲間に見え隠れする闇の中、銀色の二条の光は音もなく森へと消えた。
草を編んだマントで姿を隠した使者が、闇夜に口笛を鳴らす。案内された先は、滝の裏側に隠された巨大な洞窟だった。
水音を遮る静寂。洞窟の奥へと歩を進める彼らの足音が、重く反響する。
「数は?」
レオンハルトの問いに、使者は表情を消したまま答えた。
「およそ五万」
「到達は?」
「明朝」
洞窟の最奥には、見せしめのように頬肉を削ぎ落とされたワイバーンの頭部が掲げられていた。その異様な光景の下、焚き火を囲んで腰を下ろしたレオンハルトに、使者が詳細な偵察結果を報告し始める。
「主戦力はサイクロプスです。軍勢の至る所に点在し、戦列の柱となっております。ワイバーンは確認されておりません。歩兵はゴブリン、オーガ、リザードマン。これらだけで四万から四万五千。殿の騎兵は、キメラに跨ったスケルトンの槍騎兵です。弓兵は僅かです」
王子は深く沈思し、ただ一度だけ頷いた。
「歩兵重視か……予想通りだな」
カミロが焚き火の火を見つめながら口を開く。
「数のゴリ押しで俺たちを圧殺し、城塞を奪還するつもりだ。まぁ、こちとらもう城塞は空にしてるがな。王子、どこから叩く?」
「……殿は無視だ。動線に居れば蹴散らすが、狙いはあくまでサイクロプス。中央に座すであろう幹部は、サイクロプスを起点として広範囲魔法を仕掛けてくるはずだ。そうはさせない。外回りから一匹ずつ、確実にサイクロプスを仕留めては離脱し、奴らの必中必殺の陣形を崩す」
「サイクロプスを起点にした魔法攻撃……具体的にどんな?」
カミロの問いに、レオンハルトは氷のような瞳を向けた。
「雷撃だ。あの漆黒の鎧兜と同じ、広域殲滅魔法だ」
憎悪を思い出したカミロの眉がピクリと動いた。
「サイクロプスの皮膚には複数の保護魔法が幾重にも重ねられている。ルカの調査結果にあった伝達魔法……あれは幹部の部屋のタイルに含まれていたものと同種だ。奴らはサイクロプスを巨大な導体として、電撃の網をこの地一帯に張り巡らせるつもりだ」
「なるほどな。サイクロプスで包囲して、俺たちを丸焼けにしようってか……」
カミロが不敵な笑みを浮かべ、矛の柄を強く握りしめた。
「そうはさせるかよ」
「作戦決行は明朝だ。日の出まで体力を温存しろ」
レオンハルトの号令。焚き火の爆ぜる音だけが響く中、特別攻撃隊は一斉に仮眠へと入った。
ルカはグンの大きな背中を縋り付くように抱きしめ、固く目を閉じた。顔と腕が柔らかい毛の中に深く沈み込む。いつもならこの上ない多幸感に包まれる瞬間。だが、今夜は胸を締め付けるような不安が止まらなかった。
(大丈夫……大丈夫。僕たちはこれだけ準備した。強いんだ。勝てる。勝つんだ……絶対に……)
自分に言い聞かせるルカの祈りを飲み込むように、外では夜が、刻一刻と明けようとしていた。




