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第9話 特訓スタート!

 ある休み日の朝。

 東流山市にある日本酒専門店「東流山日本酒LOVE」の横にある駐車場に、僕たちは集まった。

 お店は11時から開店なので、それまではユハさんと楓さんに練習を見てもらえることになった。

 モルックの道具は、お店にある分と大智さんの分の二つある。僕の道具は持ってこなかった。僕が道具を持っていることは、まだみんなには内緒だ。


 準備運動として軽くストレッチをしたら、特訓を開始!

 正直、モルックの練習方法がよくわからなかったので、基本的なことを繰り返し練習して、ユハさんと楓さんに様子を見てもらうことにする。


 最初は、モルック棒を安定して投げられるようになるための練習をする。

 大智さんと谷口さん、僕と大吾とで二人一組になって、約4メートルの距離を取って、お互いの手元に向けてモルック棒を投げ合うことにする。


 まず僕が大吾に向かってモルック棒を投げる。大吾が手元に落ちた棒を拾って、僕に投げ返してくる。それで僕が手元に落ちた棒を拾って、大吾に向かって投げ返すことを繰り返す。


 最初は、手前に落ちすぎたり後ろに逸らしたり、あっちこっちに行ってたけど、だんだん野球のキャッチボールやサッカーのパス練習みたいに、リズミカルに投げ合えられるようになってきて、投てきが安定してきた気がする。


 モルックの代表的な投げ方である「順手投げ」「逆手投げ」「ふわり」「縦投げ」「斜め投げ」を、それぞれ10分ずつ繰り返し投げ続ける。

 何度も何度も投げるのを、ユハさんと楓さんに見てもらいながら、気になる点を指導てもらう。ユハさんが楓さんにささやいて、楓さんが僕たちにわかるようにアドバイスしてくれる。


「手首が不安定で、モルック棒が水平に投げられてないね。それを意識して」

「コントロールを気にし過ぎかな。腕が振り切れてないからモルック棒が狙ってる位置より手前に落ちてるんじゃない?」

「モルック棒を転がすなら、もっとスピードが出る投げ方を見つけないと。

 跳ね方によっては、欲しいポイントが取れなくなるよ」

と、こんな感じで。


 次は、スキットルのピンを立てて、自分が取りたい得点を言って投げることにする。このタイミングで、楓さんはお店に戻った。


 試合形式で、順番に投げ合う。まずは僕から。

「12点を取ります!」と言って、スキットルの束に向かってブレイクショット(ガシャ)!

 惜しい! 1本残しで11点。

「グッド! モンダイナイ! 1ピンノコシハ、バッドラック、ダッタダケ!」

「はい! ありがとうございます!」

 ユハさんの指導にも熱が入る!


 次は大吾。だいぶ散ったスキットルを見て「⑩ピンを狙います」と言って投げる。

 惜しい! 強く転がして⑩ピンに当たったのに、周りのピンを巻き込んでしまった。

「ナイストライ! ダケド、『フワリ』ノホウガ、モアベター。

 モイチド、『フワリ』デ、ネラッテミテ!」

とユハさんから指示が出て、大吾が、

「⑩ピンを狙います!」

とふわりで投げて、今度は成功! ⑩ピンゲット!

「グッド!」

 大智さん、谷口さんも、ピンの数字を行って次々と投げる。

 次々と、ユハさんのカタコト日本語が飛び交った。


 そして、特訓の最後に、「モルックはリズム感が大事」だからと言って、ダンスミュージックに合わせて踊りながら投げることになった。

 住宅地で音楽に乗って踊るのってかなり恥ずかしいんだけど! これ本当に役に立つのかな(笑)?


 でも、お酒好きのおじさんだと思っていたけど、ユハさんがお手本を見せてくれると、素人の僕たちでも圧倒的にうまいことがわかる、投てきの数々。それを見るだけでも勉強になった。

 これで、今日の練習は終了だ。


 練習後、お店に戻って、開店準備中の楓さんに、

「ユハさん、すごいですね! フィンランドの人って、みんなこんなにモルックが上手なんですか?」

と聞いてみると。

「ううん、そんなことないわ。

 うちに来るフィンランドからのお客さんとよくお酒を飲みながら試合してるけど、負けるの見たことないよ。

 ユハは、モルックが誕生した地域の出身で、世界大会にも出たことあるから」

 せ、世界大会! モルックの聖地で生まれて揉まれてきたってこと! すごい人じゃん!


 スマホでユハさんの名前で検索したら、何かの大会でモルック棒を投げているユハさんが出てきた。

 文字は読めなかったけど、これって何かの大会の決勝とかじゃないかな。あ、優勝したみたい!


「あの、ユハさんってモルック界では、すごい人なんじゃ……?」

「どうだろう? 本人はモルックは子供のころからやっていた遊びで、最近は『お酒を飲みながら運動できて健康に良い』なんて言ってるけど、真似しちゃダメよ」

 もちろんです!


 お店を開ける時間がきたので、二人にお礼を言って、次にお店に来ても良い日を確認する。

 お礼というわけではないけど、お母さんに頼まれたお酒のおつまみを購入して、お店を出た。

 まだお昼前だし、解散せずにお昼ご飯を食べながら、それぞれが調べてきたモルックの情報を発表し合うことにしている。


 モルックの大会は、参加費用や交通費が必要になる場合があるので、お金を節約して今日はファミレスではなく、お弁当を持ってきて、近所の大きな公園の芝生でシートを敷いて、お弁当を食べることにしたんだけど。

 要するに、ピクニックだ(笑)。


 僕と大吾は、お母さんに作ってもらった唐揚げやコロッケなどが入った、質より量を重視したまっ茶色のお弁当だけど。

 女子二人は、みんなのために、手作り弁当を持ってきてくれました! パチパチ!


 う、嬉しい! 女子の手作り料理を食べれるなんて、これまでは義理チョコぐらいで、はじめての経験かも。

 大智さんのお弁当は、なんのキャラクターか知らないけど、とってもかわいらしいキャラ弁当で。

 谷口さんのお弁当はお店で買ってきたかのようにきれいで、大吾が「本当に作ったの?」とからかって、怒らせていた。

 どっちもとても美味しくて、すぐ食べるのがもったいなくて、じっくり味わいたい。


 食事をしながら、お互いが参考にしたモルックの動画を見せ合ったり、日本モルック協会のホームページに載っていた情報などを教え合ったりしたけど。


 ミッドナイト4のチャネルや炎上の件などはみんなも知ってて「面白いよね!」って話題になって、その流れでプリンスさんのチャンネルも見せたりしたけど、そっちの反応はあまり良くなかった(苦笑)。

 ちぇっ、西柏市出身で僕が会ったことのあるユーチューバーなのになー!


 谷口さんが、手元から一冊の本を取り出す。

 『Dr. モルック フィンランドからつながる笑顔』という本だ。

 谷口さんの話だと、八ツ賀秀一という人が書いた本で、この人は日本モルック協会の代表理事で、とっても偉い人らしい。


 本によると、フィンランドというとサウナが有名で、サウナがあるコテージでの遊びとしてモルックをプレイするのが定番らしい。

 だから、フィンランドの人に日本でモルックが人気で、とくにスポーツとして人気だというと驚かれるらしい。

 日本でいうと「オセロ」みたいな存在で、だれでもプレーしたことはあっても、それがスポーツだと言われると驚かれる、という解説を聞いてなんとなくわかった気がする。


 モルック自体がフィンランドの伝統的な遊びをもとに、1996年に考案されたまだ新しいスポーツだそうだ。

 それをフィンランドに留学しててモルックに出会ったお医者さんの八ツ賀さんが、モルックにハマって仲間たちと活動して、日本にモルックを持ち帰って普及させて、協会まで作り、ついには日本で世界大会まで開催できるまでに普及させたんだ!

 すごい人たちがいるんだね! てっきり、昔からあるスポーツが最近になって日本で流行っているものだと思っていた。


 そして、「こっちはデジタル版だけど」と、今度は『3年で世界一 僕らのモルック最短攻略法』という、室屋拓という人が書いた電子書籍を見せてくれた。

 こっちはモルックを始めて、たった3年で2024年の世界大会で優勝した「明石モルック倶楽部」という日本のモルック・チームのお話だ。

 日本でモルックに出会った人が、どうやってモルックの練習を行い、大会で勝ち上がり、ついには世界大会で優勝できるようになったのか丁寧に解説されていて、モルックで勝つためのノウハウがぎっしりと詰まった内容だった!

 今の僕たちには、こっちの本のほうが特に参考になりそうだ。


 『Dr. モルック』は紙の本なので、谷口さんに貸してもらうことにして、『3年で世界一』は電子版しかでてないから、アマゾンで買うことにした。電子版だとスマホで持ち歩けて便利だし。


 お昼ごはんを食べ終えて、もう少しみんなで練習してから帰ることにする。

 本にも書いてあった「50点になるまでの点数を意識する」「できるだけ少ない回数で50点になることを意識する」といったことに注意して、練習試合をしてみることにする。


 試合といっても、誰かが一投するたびに、あーでもない、こーでもない、と意見を出し合って、どうすれば上達するかをみんなで考える。

 こういうの、なんか良いな! 中学の部活もこうすればよかったな……。


 練習後に、結局ファミレスに行って(笑)、フリードリンクとフライドポテトだけを頼んで、次に出る大会をどうするか話し合った。

 タイミングよく、数週間後に、西柏市にある大きな運動場で開催される少し大きな大会があるので、参加費を出し合って出場することにした。


 それからは、休みの日に集まって練習したり、個人で練習する日々を過ごしていたら、あっという間に時間が過ぎていき、西柏市での大会の日を迎えた。

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