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第33話 エピローグ

 モルックを始めてちょうど一年が経った初夏。

 「江戸川プリンス」と「ホワイト・ウッド」の試合が開催されることになった。

 試合はチーム戦ではなく、プリンスと僕の個人戦だ。


 表向きは、本当ならモルック・フェスのトーナメント決勝に進んでいたはずの「ホワイト・ウッド」が、トーナメント優勝チームの「江戸川プリンス」に挑むってことになっているけど。

 本当は、「プリンスと僕がお互いの恋愛をかけて戦う!」っていう裏テーマがある!

 でも、負けても美帆ちゃんと別れるわけないんだけど!



 試合会場は、前に撮影に使った、東京にあるフットサルコートで、学校終わりに集合した。その様子は撮影されて、後日「江戸川プリンス・チャンネル」で配信される。

 試合をするのは僕だけだけど、美帆ちゃん、大吾、茉莉ちゃんはもちろん、モルック同好会のみんなや顧問の赤城先生も応援に来てくれている。


 試合前のウォーミングアップをしていると、撮影準備をしているスタッフさんに見慣れた人がいたので、声をかけた。


「アユムさん、お久しぶりです!」

「やあ瑠衣、元気にしてた?」

「アユムさんこそ、モルック・フェスの後は大丈夫でした?

 本当に江戸川プリンスのスタッフになったんですね」


「ああ、プリンスのおかげだ。

 いまはチャンネルの運営やイベントを手伝ってるよ。

 フェスはかなりの額の借金になったんだけど、親に肩代わりしてもらってさー。

 いまは、チャンネル運営と並行して、いろんなモルック大会や体験会を主催して、その稼ぎで親に借金を返しているんだ。

 実は、フェスでやったアイドルとモルック体験できる、ってやつが好評でさー。

 そのイベントの主催や運営・司会とかやってて。

 ユーチューバーよりそっちのほうが向いてるみたいだ」

 そうなんですかー、よかった!


「そういえば瑠衣、聞いたよー!

 今日の試合、負けたほうが彼女と別れるんだって!

 俺は瑠衣を応援するよ!

 プリンスとミィが別れたら、俺、もう一回付き合っちゃおうかな(笑)!」

なんて言ってくる。


「あの、ミィさんとは前に付き合ってたんですよね。

 プリンスやミィさんとの関係は大丈夫なんですか……」

とスタッフになる話を聞いた時から、気になっていたので、聞いてみると、


「それ、よく聞かれるんだけど。

 プリンスがいいやつすぎてねー。

 配信の取り分もけっこう貰ってるし、プリンスの名前でイベントとかやらせてもらってるし。

 ミィは……俺のほうが先に浮気してたから、文句も言えないしねー(笑)」

 えっ! そうだったんですね……。


 あ、ユーマさんがこっちに来た。

「アユム、太田さんが探してたぞ。スマホを見てろよ」

「え、マジか。あ、ホントだ。瑠衣、じゃあまた後でな」

と言ってアユムさんが去っていく。


「ユーマさん、お久しぶりです。

 ユーマさんも江戸川プリンスのスタッフさんになったんですね」

「ああ、出演しないだけで、やっていることは前とあまりかわってない。

 瑠衣君……。あんなことして、すまなかった」

と僕に頭を下げてくる、ユーマさん。

 そんなことしないでくださいよ!


「いや、今はもう気にしてないんで……」

「ありがとう。

 あのころは、どうかしてた。

 ネットで人気が落ちてて、収益が減っていくのに焦って、『これしか方法がない』って思いこんでいたんだ。

 芸人もユーチューバーも向いてなかったな。

 いまは、アユムといっしょに裏方をやってて、こっちのほうが僕には合っている気がするよ」

と済々した表情で、話してくれた。


「でも、モルック・フェスは面白かったですよ。

 あんなエンタメよりのモルックは体験したことなかったから、またやってほしいです」

「モルック・フェスって名前のイベントは、他にやっているところもあるけどね。

 僕たちがやったような、ユーチューバーや芸能人を呼んで、いろいろなモルック・コーナーを体験できるようなイベントはまだないかもな。

 ミィが言い出したイベントだから、ほとぼりが冷めたら、プリンスといっしょにまたやってもいいかもしれないな」

と、知らなかった事実を教えてくれた。


「えっ、この前の『モルック・フェス』は、ミィさんの発案だったんですか!」

「ああ、チャンネルの人気が落ちていることを気にして、ミィから『インフルエンサーや代理店を紹介するから、派手なイベントをやって盛り上げようよ』って言われたんだけど。

 でも進めている途中でアユムの浮気がばれて、二人がもめだして、結局リーダーのアユムがミィを外して、俺と二人でフェスを仕切ることにしちゃったんだ」


 そうだったのか……。

「あの、モルックに仕掛けを仕込んでたことって、ミィさんは知ってたんですかね」

 ユーマさんは、なんでそんなことを聞くんだって顔をしながらも、

「ああ、知ってたよ。

 あれは、もともとモルック遠投の動画を撮ったときにうまくいかなくて、今日中に撮影が終わらないとアップできる動画がない! ってなって。

 ミィが『遠隔操作でスキットルを倒す方法ってない?』って言いだしたんで、僕が慌てて秋葉原の電気屋に道具を買いに行って、作った仕掛けなんだ」

と教えてくれた。


「モルックに仕掛けをして倒す本数を操作するなんて、一番やっちゃいけないことだったのに。ホント、バカなことをしたよ」

と、反省しているユーマさん。だけど、僕は別のことを考えていた。


 ミィさんは仕掛けのことを知ってたのに、プリンスは知らなかった……?

 負けても問題ないトーナメント戦で、ミッドナイト4が不正をしてまで勝とうとしたことで、負けられない理由がある=優勝賞金が払えない=お金のことをごまかしている? ってプリンスは確信したはずだったけど。

 プリンスは、僕たちが発見するまで、モルックの仕掛けのことは気づいていなかった。


 でも、モルックの仕掛けのことを知っていて、いっしょに試合に参加していて、横でユーマさんの指示が聞けるはずのミィさんは、不正に気づけたんじゃないかな。

 たまたま僕たちが発見したから、不正は発覚したけど。

 だれも気づかなかったら、ミィさんはどうしていたんだろう?


 今回のことで得したのはプリンス? それともミィさん?

 結果的に一番得したのはプリンスかもしれない。

 だけど、優勝賞金100万円はなくなって、まだ大学生なのにユーチューブ・チャンネルを二つも運営して、スタッフを雇って責任を背負うことになって、大変そうだ。まあ、プリンスは平気そうなんだけど(笑)。


 浮気されたってことは、もちろんミィさんは被害者なんだけど……。

「だいたい、本当にあのおんなって、被害者なの?」

 美帆ちゃんが言った言葉が頭に浮かんだ。


「瑠衣く~ん、撮影始めるってー」

と僕を呼ぶ美帆ちゃんの声が聞こえた。


 いつもの、上下白にグレーのブチが入ったジャージの、ポケットに入っているマイ・モルック棒を右手で握りしめ、「これはやっぱり勝たないといけないかな」と思いながら、美帆ちゃんの待っている試合会場にゆっくりと歩き出した。


 試合は、僕とプリンスの個人戦、時間制限なしで先に2勝したほうの勝利。

 じゃんけんで僕が勝って、僕のブレイクショットからスタートだ。

 モルック棒を握りしめ、モルッカ―リの中に入ると、モルック棒を握りしめた(こぶし)を、プリンスに向かって突き出し、宣言する。


「プリンス、僕に言いましたよね!

 『僕の妹と付き合いたかったら、僕に勝ってからにしろと!』

 じゃあ、僕からもお願いします!

 僕が勝ったら、ミィさんと別れてください!

 僕は、今からあなたに勝ちます!」


 わきあがる、応援に来てくれた大吾、茉莉ちゃん、同好会のみんなの歓声。苦笑いしている赤城先生。

 恥ずかしそう、でも嬉しそうに一生懸命、僕を応援してくれる、真帆ちゃん。

 青ざめた表情のプリンスに、けわしい表情のミィさん。


 この宣言が配信されるかわからない。まあ普通は配信しないと思うけど。

 アユムさんなら、面白がって配信しちゃうかもしれないか(笑)。

 それはどうでもよくて、もちろん負けても美帆ちゃんと別れないけど。

 プリンスにプレッシャーをかけたくて、エンタメとして盛り上げたくて、つい言いたくなっただけだ。

 好きな子に、かっこいいところを見せたいし!


 いつものように、3・5メートル先にあるスキットルの束を見て、①ピンと②ピンの真ん中、ややピンの上のほうを狙って。

 モルック棒に力を込めて、でも力みすぎず、膝のバネを使って、腕を大きく振り、リラックスして、エンジョイすることを忘れずに。

 

 右手で握りしめたモルック棒を、空高く解き放った!


Fin.

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