第2話 公園でモルック体験!
待ちに待った休日の午後。
晴天が広がり、まだそんなに暑くない季節で、モルック日和だ。
集合時間になって交通量の多い道路沿いの、多少大きな音を出しても大丈夫そうな公園にみんなで集まる。
公園には、僕たち以外は、お母さんと小さい子どもが離れたブランコで遊んでいるだけだ。これならモルックをやっても問題なさそう。
「大智さん、こいつは大吾。1組の石川」
「はじめまして。石川大吾です。瑠衣とは中学がいっしょで」
「はじめまして。香坂君と同じクラスの大智美帆です」
「はじめまして。谷口茉莉です。私は3組です。私も美帆とは中学からいっしょで」
大智さんの友だちの谷口さんは、小柄で背は僕より少し低い。丸顔でかわいらしい感じ。
大智さんも背が高いけど、大吾はもっと高いので、なんか似た感じの凸凹コンビが二組そろったな。
それで、全員なんとなくモルックのことは知ってたので、一対一の試合をやってみることになった。
モルックの対戦方法やチームの人数とかはいろいろやりかたがあるけど、今回は個人戦で、1試合2セットで行う。2勝したら勝ちだけど、1勝1敗になったら合計得点で勝敗を決めるルールで、先に大智さんと谷口さんが対戦し、次に僕と大吾で対戦することになった。
それでは、ゲーム・スタート!
3・5メートル先に並べた12本のスキットルを前に、モルッカーリを置いた場所から、大智さんが一投目を投げる。
モルック棒を握った手のひらを上に向けて、下手投げのオーソドックスな投げ方で、スキットルの束に向けてモルック棒を放った。
モルック棒は山なりに弧を描き、スキットルの塊の真ん中あたりに落ちた。
ワラワラと倒れるスキットルのピン。
全員で倒れたピンに駆け寄って、倒れたピンの数を数える。
倒れた本数は9本だった。これで9点だ。
スキットルの束は、ほぼ散らばらっていない。
ゲームの最初は、12本のピンを一本でも多く倒すのがモルックのセオリーだけど、スキットルが散らばりすぎて、後攻のチームが得点の高いスキットルを倒しやすくなるのもまずい。
モルックの得点を付けるためのスマホ・アプリがあるらしく、谷口さんが記録係をしてくれる。ありがとう、谷口さん!
本気の勝負じゃないから、お互いにいろいろとアドバイスをしながらモルックを投げていく。
次は、谷口さんが投げる番だ。
谷口さんも、最初の一投はとにかく多く倒して得点を稼ぐガチャ狙いで投げた。
ピンの手前に棒が落ちて跳ね上がっちゃったけど、跳ね方がよくて8本が倒れた。これで8点!
あれっ! なんか2人とも上手じゃない?
モルックってもっとレクリエーション、遊びのイメージだったんだけど。
練習してきてよかったかも。
その後は、なかなかお互いの投げたモルック棒がスキットルに当たらなかったりしたけど。
途中で大智さんが2回外して、谷口さんが得点を先行させたんだけど、谷口さんが48点から3回連続で外してしまい、失格になって大智さんの勝利!
モルックは3回連続でスキットルに当たらなかったら、失格になる。
それに、合計点が50点を超えてしまうと25点にまで点が戻るというルールなことが多い。
谷口さんは、②のピンを倒すか、ピンを2本倒すか、①のピンを2回倒せればよかったんだけど。
②ピンが飛ばされて位置が遠くになって、谷口さんが投げても届かない距離で、かといって2本だけ倒すのも難しい状況になった。
それで①ピンを狙ったんだけど、3回ともモルック棒が①ピンの前後に落ちてしまい倒せなかった。
谷口さんは、ちょっとアンラッキーだったな。
大智さんは、2回外して谷口さんに逆転されても、冷静だったな。
普段おとなしい感じだけど意外と芯が強いのかな?
嬉しそうな大智さんと、悔しいそうだけど楽しそうな谷口さん。
すぐに、2セット目を始める。
交代で谷口さんが先行でブレイクショットを投げる。一進一退の攻防が続いたけど、第7ターンで50対43になって谷口さんが勝った。
これで1勝1敗になり、今回は得点差で谷口さんの勝利! という結果になった。
正直、体格差や投げている様子から、大智さんが勝つんじゃないかと思っていたけど。そういうの、あまり関係ないのかな?
大智さんはフォームがダイナミックでキレイ。谷口さんは投げるのは苦手そうだけど、頭脳プレーが得意そう。
試合は接戦で白熱したけど、二人ともキャッキャしてて楽しそうだな。
次は、僕たちの番だ。
モルックは先攻が有利らしいんだけど、僕が誘ったということで、僕が先攻で投げることになった。
みんなには内緒にしたまま、当選したモルックの道具で特訓してきたので、ちょっと自信があります。
いよいよ、一投目を投げる。
さんざん練習して、モルックの動画を見て研究した成果をここで見せます!
番組のステッカーが貼られたモルック棒を、ギュッと握りしめる。
あ、ちょっと力が入りすぎか? リラックス、リラックス!
先頭の①②のスキットルの間に狙いを定めて、膝を落として慎重に腕を振り、ここだ! というタイミングで、ボウリングの球を投げる感じでモルック棒を青空に解き放つ!
よし! イメージ通りに投げれた!
やった! 12本全部倒れた! パーフェクト!
12点をゲット!!!
「すごーい! 香坂君」「うまーい! 上手だねー」
と香坂さんと谷口さん。
「さすが、ボウリング170オーバーの男! やるじゃん!」
と大吾。
「まぐれ、まぐれ(笑)」
と笑って、照れ隠しをする僕。
次は大吾の番。こっちもガチャねらいで1投目を投げる。
僕と違って高身長で腕も長い大吾は、腕をぶん回して力強く棒を放り投げる。
モルックはすごい速さで転がっていき、スキットルの束に「カン!」と強く当たって飛び散ったけど、倒せたピンは8本だった。これで12対8。
うまく転がしたけど、やや棒が浮き気味で、狙った位置とずれたような気がする。大吾はもっと膝を使って重心を下げて、コントロールを意識したほうがいいのかも。
次は僕のターンだ。
まだ、スキットルの束が固まってて、ピンが飛び散ってもいいから、大吾と同じように強く早く、だけど地面すれすれでガシャを狙って、モルック棒を放り投げる。
よし!
またいいところに投げれた。
うーん、でも倒れたのは10本か!
全部、倒したかったな。
次は、大吾の番だ。
僕の投てきでスキットルがだいぶ散らばったので、ここからは高得点のスキットルを倒していく。
大吾は「俺は⑫を狙う」と宣言。
散らばって⑫のピンは少し遠くなっているし、手前に他のピンも並んでいる。
大きく弧を描く「ふわり」という高くゆるやかな投げ方をして⑫のピンを狙ったけど、少し後ろに落ちて⑫ではなく⑨のピンを倒した。
これで、22対19!
大吾も初心者とは思えない。少し焦ってきた。
僕も⑫のピンを狙う。
大吾と同じく、「ふわり」で真上から落ちるように狙うか?
いやっ、ここは「縦投げ」を試したい。
モルックは普通は棒を水平にもって投げるスポーツだ。横に投げたほうがスキットルに当たる確率が上がるからだろうか。
だけど、倒しにくい場所に固まっているピンのポイントが必要な場合、棒を縦にもって1本倒しを狙う。
モルック初心者がいきなり縦投げとかしたら、みんなに引かれるかな?
でも、ここは縦投げを試してみたい。
モルック棒を縦に握って、⑫のピンを見つめて、膝だけでなく、体全体をかがめて、下から⑫のピンの真上から落ちるイメージで、モルック棒を投げ放った!
縦に落下した棒は綺麗に⑫のピンに当たって、倒れる!
12点をゲット! これで34点!
「「すごーい!」」
「瑠衣、マジでうまいな!」
「まぐれ、まぐれ!
番組で縦に投げるのを見てたから、やってみたくなってさ」
やばい、楽しい!
投げて、棒を倒して、得点を重ねるだけのゲームなはずのに。
こんなにモルックをやるのが楽しいなんて思わなかった!
1人でやるより対戦相手がいたり観てる人がいるだけで、こんなに違うんだ!
大吾は⑫のピンが遠くなったので、⑪のピンを狙ったんだが当たらなくて。近くの③のピンが倒れて、合計22点になる。
僕は合計34点なので、残り16点で合計50点になる。仮に次で12点を取れれば、次回4点で勝利になる計算だ。
大吾はあと28点が必要だから、仮に12点を2回続けて取ってもまだ4点が必要だ。
だけど⑫のピンはだいぶ遠くなったので、取りやすい場所にある⑧ピンを2回倒してゴールする戦略を取る。
⑧ピンに向かって慎重に投げる。よし倒れた!8点ゲット!
大吾も⑫ピンは諦めて⑪ピンを再度狙って……今度は11点ゲット!
これで、42対33になった。
まだ点差があるから無理をしなくていいんだけど、ここはみんなにいいところを見せたい。
大吾、悪いな! この試合は僕がいただいた!
高ぶる気持ちを内に秘めて、慎重に正確に投げることを心がけて、少し遠くなった⑧ピンへの導線を頭に思い浮かべ、その線をなぞるかのようじ、モルック棒を空に解き放った。
モルック棒はイメージ通りの弧を描き、⑧ピンだけを吹き飛ばした!
やった! 初勝利!
3人が、僕を褒めまくってくれる。
「さすが『ボウリングの柱』!」
と大吾が余計なことを言う。
「ボウリングの柱ってなに?」
と、谷口さんが大吾に聞く。
「こいつ、中学のとき、仲間内で圧倒的にボウリングがうまくて、そう呼ばれてたんだ」と答える大吾。
「へー、ボウリングがうまいと、モルックも上手なのかな?」と谷口さん。
「投げ方にセンスがある感じ」と大智さん。
本当は隠れて特訓してたから、ちょっと後ろめたいんだけど。
ひとまずそういうことにしておこう。
照れ隠しに、
「僕なんてたいしたことないよ。
中学のころはボウリング場によく行ってたけど、そこで常連の人と対戦してフルボッコにされてから行かなくなっちゃたし」
と言うと、
「そうなんだ……」
となぜか沈んだ表情になる香坂さん。
あれ、僕っていま同情されてる?
「あれは、仕方ないだろ。
俺も覚えているけど、ボウリング場にいつもいる人で。
マイボール・マイシューズのガチ勢で、あの人、若そうだったけど、プロかプロ志望の人だったんじゃない?」
とフォローしてくれる大吾。ありがと。
あれは、いまでも苦い思い出なんだ。




