第19話 文化祭2日目で取り返すぞ!
文化祭2日目の来場時間になった。
モルック体験会が予約制になって、その予約がすぐ埋まったことが知れ渡ったのか、昨日より多くの人、とくに参加できなかった生徒の体験希望者が校門からドドドっとグラウンドに集まってきた。
受付に殺到した人に順番に並んでもらって、一人一人の名前を控えて、チームごとに試合コートに誘導して、モルック体験のはじまり、はじまり!
昨日の混乱ぶりを見て生徒会からも何人か手伝いに来てくれたからか、今日は順調にモルック体験会が進む。ただ、あきらかに昨日より人が多くて、あっという間に午前中の予約が埋まってしまった。
昨日、文化祭実行委員会から「モルック体験の様子はSNSに載せないでくださーい」ってアナウンスがされたんだけど、ぜんぜん守られてなくて、体験会の様子がネットに拡散されて、鶴谷城高校でモルック体験をやっていることが、その混乱っぷりとともにネットで広まってしまったらしい。
けっきょく午前中の予約がすぐ埋まってしまい、午後の分は12時から予約を受付けるというアナウンスをして、運動場からは出てもらうことにしたけど、そのままモルック体験会を見学している人も多くて、文化祭というよりは学校でモルック大会をやっている感じだ。
午前中の体験会が終わり、12時からは午後の予約を行いながら、順番に休みをとり、13時からモルック体験会を再開した。昨日のような混乱はないけど、クラスには顔を出せないし、文化祭を楽しむどころじゃない(涙)。
でも、昨日は体験会の様子を見る余裕もなかったけど。今日は、みんながずっと楽しそうにモルックを体験しているのを横目で見られて、急に手伝ってくれることになった人も、参加者がモルック棒を投げたり、スキットルを立てるのを手伝ったり、モルックのルールや投げ方など説明しながら、とても楽しそうにしているのだった。
僕も途中から指導係を代わって、子供たちの前で解説をしながら、ブレイクショットや縦投げ、ふわりなどでピンを倒すテクニックを見せて、喜ばれたり驚かれたりした。
モルックって不思議なスポーツだよなー、なんて思いながら作業をしていると午後の予約分が埋まってしまったので、申し訳ないけど予約を締め切ることにする。
予約終了のアナウンスを行った直後に、学校の先輩だと思われる制服三人組に、「どういうことだよ! こっちはずっと並んで待ってたんだぞ!」
と怒られる。
「すみません、午後の予約数が達してしまって……」
「なんとかしろよ! 少しぐらい増やしてもいいだろ!」
「いまも予約数をこなせるかどうか、ぎりぎりで……。
実行委員会からも『昨日のようなことにならないようい』と言われてて」
「なんだよ!
先輩の言うことより実行委員会の言うこと聞くのかよ!」
とすごまれて、困っていると、
「先輩! お疲れ様です!
あのぉ、そいつ俺たちの仲間なんで、許してやってくれませんか」
という声が!
そこには、同じ一年生の三人組がいた。
「なんだよ山下。
こいつ、お前らの知り合いかよ」
そう、先輩から呼ばれた一年生が答える。
「はい、小学校からいっしょにバレーをやってて。
こいつは、もう辞めちゃったんですけど。
バレー部を辞めた大吾とも、ずっと仲間だったんですよ」
「なんだよ。しょうがねぇなー。
じゃあ、おまえらに免じて許してやるよ」
と先輩だと思われる人が言って、グラウンドでモルックを指導している大吾のほうにちらっと目をやって、
「大吾にも言っておけよ。
バレー部を勝手にやめたこと、許してないからな」
と言って、立ち去って行った。
「瑠衣、ひさしぶり」
「やまちゃん、ひさりぶり」
「あいつら、バレー部の一年上の先輩でさー。
嫌なやつらなんだよ。ごめんな」
「ううん、助けてくれてありがとう」
僕を助けてくれたのは、高校に入ってからはクラスも違って会話することもなくなってた、バレー部の一年生、山下と斉藤と黒田だった。
三人とも、あいかわらず背が高くて僕を見下ろしてくる。
「最近、大吾とモルックやってるんだな。元気そうでよかったよ」
と、てれくさそうに話しかけてくる。
この三人と大吾とは、小学校のジュニアバレーチームから、ずっと一緒にバレーをやっていた。
中学でも同じバレー部に入ったんだけど、僕だけ背が伸びなくて、僕だけずっとレギュラーになれなくて、中学三年の途中で受験勉強を理由にしてバレー部を辞めてしまったので、大吾以外とは、いっしょにいることがなくなってしまっていた。
「モルック体験会、すごく人が集まってるね。
俺たちも体験したかったけど、予約できなかったよ」
と山下。
「瑠衣だけじゃなくて大吾まで、モルックに取られるとはなー。
俺たちの代のバレー部、やばいじゃん」
なんて、斉藤が言ってくる。
大吾はともかく、僕は戦力外だったけど、そう言ってくれるの、うれしいな。
バレー部で挫折して、そのあとハマったボウリングも、プリンスに惨敗して辞めちゃったけど。
モルックだけは、まだまだ続けられそうな気がするんだ、みんな。
予約がいっぱいでモルック体験できなかったそうなので、
「部活が休みの日に同好会に体験しに来てよ! 放課後に練習しているから!」
なんて誘って、三人と別れた。
それで、文化祭2日目もいくつかクレームがあったけど、なんとか最後までやり切ることができた。みんなヘトヘトで、文化祭が終わって片付けが終わったら、そのまま解散することにした。
「大智さん、お疲れさま。
ごめんね、モルック体験会の指導係を任せっぱなしにして」
と大智さんに声をかけると、
「ううん、香坂君こそ。受付が大変だったでしょ。
『けっこう面倒な人がいたけど、香坂君が対応してくれた』って真莉から聞いたよ」
「まあ、僕の背が低いからか、舐められやすいからね(苦笑)」
なんて言ったら、真剣な顔で、
「そんなことないよ!
香坂君は、いつも試合で決めてほしいとき、必ず得点を決めてくれる。
真の強い人だと思うよ」
とうれしいことを言ってくれた。
なんか、文化祭はけっきょくモルック体験会しかやってないけど、いい思い出がたくさんできたなぁ。いい一日だった。
そして、このあと学校でモルック・ブームが起こることになる(笑)。
文化祭が終わった後で、「同好会に入りたい」って問い合わせがいくつも赤城先生や鈴木さんのもとに寄せられた。それも1年生だけでなく、2、3年生からも。
うれしかったけど、僕たちはチーム「ホワイト・ウッド」として、大きな大会で優勝するのが目標だから、気軽に同好会に参加されても困ってしまう。
同好会の会長が1年生っていうのも、2、3年生の人たちからしたら、どうなんだろう?
それに、僕たちもいまさら先輩ができるのはちょっと(苦笑)。
それで、どうするかみんなで話し合ったけど、解決案は鈴木さんからもたらされた。
鈴木さん、最初は「幽霊部員でいいなら」なんて言ってたけど、この前の文化祭では井口君と会場整理で活躍してくれて、最近は井口君と放課後のモルック体験会の常連組とチームを作ってて、「モルックの大会に出てみたい」とまで言ってくれる。
ただ、「ホワイト・ウッド」の4人ほどガチ勢じゃなくて、楽しくモルックができればいいみたいで、同好会に入りたいと言っている人たちも同じ気持ちだと思う。
僕たちも、放課後の練習への参加を強制したり、先輩たちに指導したりするのは嫌だし。
それで、鈴木さんから「同好会に会員登録してくれたら、学校内外でのモルックの活動をサポートすることにしたらどうか」という提案があった。
ただ、登録だけする人が増えても管理しきれないので、「モルックの道具を用意できること」を登録できる条件にして、鈴木さんを中心に、校内での練習場所の登録や大会出場のサポート、体験会の放課後実地などを行う、ということにしたらどうかという提案だった。
「鈴木さん、いいの? 雑用が増えて大変にならない?」
「ううん。どうせみんなや自分の練習のために、場所を借りたり大会のことを調べたりするから、ついでに管理すればいいだけだし。
私、こういう作業をするのが向いてるみたいだし」
という、とてもありがたい申し出で、もちろん全員で作業することにして、その方針で同好会を大きくしていくことになった。
その結果、モルックの道具を購入したチーム数人で同好会に加盟する人たちが何人もいて、放課後に練習まで行かないけど、同好会名義で借りた場所でモルックを楽しむ生徒の姿が、あちこちで見られて、校内でちょっとしたモルック・ブームが生まれたんだ。
最近、学校でモルックを練習しているときはもちろん、それ以外でも校内でちらちらと見られている気がする。
文化祭では僕は受付しかしてなかったけど、放課後にモルックをプレーしている動画が学校内のSNSとかに出回っているようだ。
まあ、ほかの三人が目立つからなー。
文化祭が終わり、同好会への参加希望への対応も片付いたので、12月に行われるモルック・フェスの予選会突破を目指して、練習に集中しよう!




