第16話 モルック・フェスってなんだ?
ある夜、家で勉強をしていると、スマホに何かの更新の通知がきた。
画面を見ると、ミッドナイト4のチャンネルが更新されたお知らせだった。
チャンネルを見てみると、「クラファン大達成! 大大大勝利!」の文字が。
うん? クラファン?
クラファンっていうのは、「クラウドファンディング」の略で、一般の人たちからインターネット経由でお金を集める方法だ。
クラファンのためのサービスがネットにあって、だいたいはネットにお金を集めたい理由を掲載して、何らかの特典などを用意して、目標金額を設定して幅広くお金を募る。
それで、期間内に目標金額が集まれば成功で、手数料を引いた金額を受け取れる。目標金額が集まらないと失敗で、それまでに集めたお金は支援してくれた人に返金される仕組みだ。
ミッドナイト4は、少し前からクラファンをやってて、その目的は「『モルック・フェス』を開催する」というものだった。
最近は、モルック好きな人がモルックの大会を主催することが増えてて、全国各地でモルックの大会が開催されている。
開催するのにお金がかかる気がするけど、それは参加費でまかなえているのかな?
でも今回、ミッドナイト4がやろうとしているのは、モルックの大会や体験会ではなく、「モルック・フェス」だ。モルックがメインのイベント、お祭りのようなものらしい。
その内容は、ミッドナイト4が中心になって、大きな広場を借りて、モルックのトーナメント大会や体験会、出店といったオーソドックスなものから、
・モルックの遠投倒し
・スキットル36ピン倒し
・目隠し投げで何本倒せるか
といった、ミッドナイト4のチャンネルでやっている、変わったモルック倒しのコーナーとか、
・モルックについての有名人トークショー
・モルック好きなアイドルと試合ができる体験会
なんてものまである。
それ以外にも、アイドルやお笑い芸人、バンドのライブなんかもやりたいそうだ。
それで、フェス自体は入場無料で、体験会などが有料になるみたい。
モルック4のグッズ販売や出店、有料コーナーなどがあるけど、大会運営費として数百万円がかかる想定で、それをクラファンとフェスのスポンサーでまかなうという計画だった。
クラファンの特典はいろいろあって、フェスでの体験会のチケットやミッドナイト4のグッズ、チェキ会、記念Tシャツ、ミッドナイト4とのエキシビジョンマッチへの参加券など、いろいろと用意されていた。
僕は「そういえば、この前チャンネルに出演したときにそんな話をしてたかも」ぐらいにしか興味を持ってなかったけど。無事にクラファンを達成できたんだ。
報告動画では、アユムさんを中心にユーマさん、ミィさん、マーちゃんさんが嬉しそうにクラファンの結果を発表している。
「クラウドファンディング、目標金額300万円!
無事に達成できました!
これで、モルック・フェス開催決定です!
応援してくれた皆さん、ありがとうございます!
無謀な挑戦って言われてたけど、これをきっかけに、モルック・シーンをもっと盛り上げます!
チャンネルに出てくれたチームと、賞金争奪トーナメントもやるので、楽しみにしてて!」
そう、フェスの目玉は、モルックのトーナメント大会なんだけど。
予選を行うような通常のモルック大会ではなく、ミッドナイト4が選んだ何チームかと優勝賞金100万円をかけて、トーナメントで戦う!ってやつだ。
戦いはガチだけど、あくまでエンタメにしたいので、参加チームはネットで有名なモルックが好きで、ミッドナイト4のチャンネルとコラボしたことがある有名なチームになるらしい。
「優勝賞金100万円をかけたトーナメント開催決定!
有名大学生モルッカ―!
女子ソフトボールの元オリンピック代表!
モルック好きな有名ユーチュバー!
元モルック・日本チャンピオン!
アイドル、バンド、お笑い芸人!
など参戦! するかも(笑)!」
と、アユムさんが煽ってくる。
「トーナメントには一般枠を一枠設けます!
その一枠をかけて予選を開催します!」
と、どんどん情報を出してくる。
「日本のモルック業界は、みんな真面目すぎ!
スポーツとしてのモルックだけじゃ面白くない!
元・芸人ユーチュバーとして、モルックをエンタメにする!
資金はクラファンとスポンサー、当日の有料コーナーでまかないます!
大きな広場を借りて、一日中ずっと楽しいお祭りにします!
ほとんど無料みたいなもんだから、みんなじゃんじゃん参加してね!」
と勢いよく説明する!
うわー、楽しそう!
開催は、来年の春になるらしい。
開催場所が、関東だと近くていいんだけど。
春休みだったら、参加できるかな。
遠投倒しは自信があるから、コーナーがあるなら出てみたいな!
スポンサーもいるみたいだし、賞品や賞金とかも出るのかな?
なんて思って、開催決定を喜んでいたんだけど。
数日後、ミッドナイト4のスタッフの斉藤さんから、また僕に連絡がかかってきた。
週明けの学校で、放課後の教室に、モルック同好会のみんなに集まってもらう。顧問の赤城先生もいる。
「みんな、ミッドナイト4が『モルック・フェス』を開催するのは連絡したとおりなんだけど」
うなずく、みんな。
「その話には続きがあって……。
僕たち、ホワイト・ウッドにも『トーナメントに出てほしい』ってオファーがありました!」
と昨日連絡が来た件を、少し興奮気味に打ち明ける。
一斉に驚くみんな。
「すごいじゃん!」と大吾。
他のみんなも、興奮気味だ。だけど、
「香坂君は、出場したいの……」
と複雑な表情を浮かべる、大智さん。
「僕は出場はしたいな、正直。
でも、いまの僕たちじゃ、ほかに参加予定のチームとは、とてもじゃないけど釣り合わない気がする。
実力も実績も足りていないし、知名度もないし。
『なんで僕たちなんですか』って聞いてみたら、チャンネルに登場したチームで好評だったからって言ってたけど、僕たちが出た回ってそんなに反響あったっけ?
再生数も、ほかのミッドナイト4の動画より少ないし」
うなずく、みんな。
「僕たちに声をかけた理由は、たぶん『有名人ばっかりの素人大会』だってネットで叩かれてるからだと思う」
そう、クラファン達成とフェス開催決定の発表後、クラファンに応募してくれた人たちを中心に、ミッドナイト4への応援と称賛の声が上がったんだけど。
一方で、「モルックを売名に使うな」「金儲けに利用するな」「もっと真面目に活動しろ」というアンチの声も一部で上がっている。
ミッドナイト4は、僕らのような無名の高校生をトーナメントに入れて、バランスを取りたいんじゃないかな。
一般参加枠があるのも、参加チームは有名なだけ、実力のあるチームが参加していない、といった批判を避けるためな気がする。
「このまま出ても、僕たちも巻き込まれていいことないし。
学校もOKしてくれないんじゃないかな」
と僕が言うと、苦笑いしながらうなずく赤城先生。
「だから断ろうと思うんだけど、どうかな?」
とても喜んでた大吾だったけど、
「残念だけど、断ったほうがいいのかな」
と僕の考えに賛成してくれる。
「私も出てもいいことないと思う」
と谷口さん。
大智さんが「香坂君の言うとおりだと思う。断ろうよ」と言ってくれる。
ほかのみんなもうなずく。
よし、みんなの気持ちは確認できた。
そのうえで。
「それで、相談なんだけど。
モルック・フェスのトーナメント一般枠を決める予選に出たいんだ」
えーっ! と驚くみんな!
「なんで、大会参加のオファーを断って、予選から出るの?」
と谷口さん。
それには僕なりの理由があって、
「実績も実力もない僕たちが、有名モルッカーが参加する大会に出るのは変だと思う。
でも、プリンスとミッドナイト4とは戦ってみたいんだ!
予選会突破っていう結果を出せれば、堂々と参加できると思うんでけど。
どうかな?」
と、トーナメントへの参加のオファーを受けたときから考えていたことを、みんなに聞いてみる。
すると大吾がニヤッと笑って、
「いいんじゃない。
一般参加の予選から結果を出して、モルック・フェスで優勝しようよ」
と賛成してくれる。
大智さんを見ると、大きくうなづいてくれた。
ほかのみんなも、
「やろう!」「いいじゃん!」「正面突破でモルック・フェスに出よう!」
と賛成してくれた。よかったー!
それで、モルック・フェスには、予選会から参加することにすることが決まった。
後日、出場のオファーは断って、一般枠から参加したいことを伝えると、運営スタッフの斉藤さんは驚いたけど、「応援するよ」と言ってくれた。
フェスは来年の春だけど、予選は冬休み中に開催されるようなので、それまでにやれるだけのことをやってレベルアップしないと!
長すぎる夏の終わり、一つ明確な目標ができた1日だった。




