第12話 再会
モルック同好会の結成から数日後。
高校一年生の長い夏の終わりに、同好会結成後の初の大会出場として、これまでで一番大きな、東京で開催されるモルック大会に出場することにした。
今回は、東京の郊外のグラウンドで、百チーム以上が参加する大会で、リーグ戦から決勝トーナメント戦への勝ち上がりをかけて戦うことになる。
休みの日に朝早くから、ふだんはフットサルなどに利用されている試合会場に集合した。今日はあくまでチーム「ホワイト・ウッド」としての活動なので、いつもの4人で現地に集合だ。
開始時間前に集まったのはいいものの、第一試合まで時間があったので、「トイレに行くついでにいろいろ見てくるよ」とみんなに言って、リーグ戦の試合会場を離れた。
少し歩いた先にあったトイレを利用して、今日はいろいろな出店もあったので、「みんなに何か買って帰ろうかな」と思って、うろうろしていると。
少し向こうに立っている、どこかで見たことのある、長身でガタイがよく、妙に姿勢のいい、自信に満ち溢れた男性が目に入ってくる。
あ、あれっ! どこかで見たことある人のような……。
あれって、プリンスさんだよな!?
レッドのド派手なユニフォームに、髪に金メッシュ、デカいサングラス。
中学時代に、僕がボウリングで惨敗した人で、現・ボウリング系ユーチュバーのプリンスさんだ。間違いない。
なんで、プリンスさんがこんなところにいるんだ?
あ、ボウリングだけじゃなくてモルックもやってるから、プリンスさんもこの大会に出場するのかな?
なんて考えながらプリンスさんをチラチラと見ていたら、バチっと目があってしまった。
そうしたら、プリンスさんがこっちに向かって笑顔で一直線に走ってくる!
えっ、なんで!
「やあ、少年! ひさしぶりだな! 会いたかったよ!
「プ、プリンスさん、おひさしぶりです!」
「アグネスちゃんさんじゃないんだから、プリンスでいいよ! 水くさいな!」
僕、この人のことがちょっと苦手かも。
「僕のこと、覚えてくれていたんですね。プ、プリンス」
「当り前じゃないか! 最後に会ったのは去年の秋ごろかな?
急にボウリング場に来なくなって、僕も大学進学で春に地元を離れたので、会えなくて残念に思ってたんだよ」
「プリンスも、この大会に出るんですか?」
「ああ。大会主催者から招待されて、シード扱いで決勝の二回戦から登場するんだ」
「ゲストなんですか! すごいですね!
あの、プリンスのユーチューブチャンネル、登録して見てます」
「知っててくれたんだ。ありがとう!
僕も、君の動画を見たよ!
ユハさんといっしょに映ってるやつ!」
「あ、そうなんですね。ありがとうございます」
「お互い、モルックをはじめてるなんて奇遇だね!
ボウリングは続けているのかな?」
「いえ、最近はあまり……」
「そうか、残念だな。
今高校一年生だっけ? またはじめてみたらどうだい?
僕も地元のボウリング場には最近行けていないけど、またいっしょにプレイしたいな」
プリンス、まさか自分に負けたから、僕がボウリングを辞めたとは夢にも思っていないだろうな。
「あの、配信を見たんですけど。プリンスってプロボウラーを目指しているんですよね?」
「ああ。大学でボウリング・サークルに所属して、学生ボウリング大会に出場したり、ボウリング場でアルバイトしたりしているよ。配信も、プロボウラーを目指すための活動の一つなんだ」
「それなら、なんでモルックの動画もアップしているんですか?」
と前から気になっていたことを聞いてみると。
プリンスがちょっと考えている様子から、
「……まだ時間は大丈夫かい? 向こうで座って話さないか」
と別の場所で話すことを誘ってくる。
一試合目までまだ時間があったので「ちょっとだけなら」と、いっしょにグラウンドのすみっこ、自動販売機と長椅子のあるところまで移動する。
プリンスが飲み物をおごってくれて、長椅子に座って話を聞くことになった。
「僕は子供のころからスポーツが得意だったんだけど、特にボウリングにハマってね。
最初は家族4人でボウリング場に通ってて、そのうち近所の仲間と通い出したんだけど。中学、高校になってもボウリング場に通い続けたのは僕だけだった。
それで、プロボウラーを目指そうと思ったんだけど……」
そう話して、少し遠くを見るような目をしてから、僕にこう問いかけてきた。
「少年は、ボウリングの競技人口って知っているかい?
わからないよね。
一説では1400万人、日本の人口の一割以上って言われている。そして、プロボウラーが男性で700人以上、女性がその半分ぐらいらしい。
プロボウラーは、プロになるための試験も条件も、とても厳しいもので、狭き門だ。
それなのに、プロとして賞金だけで稼げている人は少ない。
人数が少ない女性プロボウラーのほうが人気があって、女性のほうが大会が多くて、女性プロボウラーの番組も放送されている。
男性が大会の賞金だけで活動をするのは難しくて、プロとして活動するためにスポンサーが必要だったり、ボウリング場の社員になったり、ボウリング教室の先生をしている人が多くて、簡単に目指せるものじゃないんだ」
そうなんだ。
ボウリングは好きだったけど、僕はとてもプロボウラーを目指そうなんて思えるレベルじゃなかったから、そういうのは全然知らなかったな。
「ただ最近は、配信でボウリングを解説するプロボウラーが増えていて成功している。僕もそっちで稼いでプロボウラーとして活躍できないかと思って、配信を始めたんだ。
だけど、まだプロじゃないから、なかなか登録者数や再生数が伸びなくてね。
それで試しにいろいろな動画を撮って上げていたら、モルックのプレー動画が評判が良くてね。それで、『今はモルックだ!』と閃いて」
とゴクっとスポドリを飲む、プリンス。
「さっき言ったように、ボウリングは競技人口が多い、国民的スポーツだ。
でも日本でボウリングがブームになったのは大昔の話で、僕たちが生まれる前のことなんだ。
野球やサッカーのように、プロスポーツとしてたくさんの人に見てもらうのは、いまはなかなか難しい。まあ、これはほかのスポーツも同じで、ボウリングだけじゃないけどね」
プリンス、いろいろと詳しいなー。それに、話に熱がどんどん入ってくる。
「モルックは競技人口もまだ少ないし、プロと呼べる人もまだ少ない。でも、僕の配信への反応はボウリングの配信よりずっとよくて、これからどんどん伸びていくスポーツなんだと思う。
だったら、物を投げて得点を稼ぐスポーツの『二刀流』で稼げる男になろうと思ってさ!
ボウリングやモルックの大会で勝てる実力をつける、ってことはもちろん必要だけど、それだけじゃプロとしてはやっていけないんだ。
スポーツの強さとエンタテイメントとしての面白さ、その二つを兼ね備えたスタイルで、ボウリングとモルックをもっともっと盛り上げたいんだ!」
と僕を見つめながら、内に秘めた想いを赤裸々に語ってくれた。
プリンスさん、そんなことを考えて行動してるなんて、本当にすごいなー。
なんかちょっと変な人だと思っていたけど。
高校に入ったばかりで、将来とかなにも考えていない僕とは大違いで、大人なんだだなー。
なんて僕が感動してると、「そ・こ・で・だ」と言って。
正面から僕の左右の肩を両腕でガシっと掴んだプリンスさんが、
「少年、僕の仲間になってくれないか!」
と真剣な顔で言ってきた!
はい?
「ボウリング場で見かけたときから、君には高いポテンシャルを感じていた!
まだ開花していない才能と独特のスター性、オーラ、それを君は持っている!
僕の仲間になってほしい!」
なんだって!! 何言ってんだこの人!!!
だいたい仲間って何をするの?
チームのメンバー? あるいはユーチュバー?
「き、急にそう言われても……。僕まだ高一だし」
と、急展開すぎる話にうろたえるしかない僕。
「実は僕、最近モルック同好会を作ったばかりで。
今日もその同好会のメンバーと大会に参加していて。
モルックをたくさん練習して、大きな大会で優勝したいって活動を始めたばかりで……」
と、合っていない間に、僕に起こった変化を手短に説明する。
そうしたら、プリンスは、
「オーケー。僕が少し急ぎすぎたようだ。
もちろん、まだ先の話として考えてみてほしい。
まずは、今日の大会を楽しもう!」
とさわやかな笑顔で、肩を掴んでいた腕を離して、僕を解放してくれた。
「わ、わかりました……。
考えておきます」
こんな、あまりに急すぎる事態に動揺しながらも、そのままプリンスと話をしていると。
「プリンス、こんなところで何してるの?」
と、声をかけてくる人がいた。
高身長でド派手な格好をしたイケメンで、オーラを放っていたその人は、えー! ユーチュバー「ミッドナイト4」のアユムじゃないか! 本物だ!




