第六十八話
「グラスディアの肉!本当に貰っていいの!?」
「は、初めて見た」
「どうぞ、あんまり量は無いけどね」
金倉にドロップした魔石を渡す時に色々と世話になっているのでお礼にとグラスディアの肉を持ってきた。那須も居るだろうからと多めに持ってきておいて良かった。宍戸にやったら持ってる分を全て食い尽くすだろうから内緒だ。
「それと七階層で生えてた薬草」
「こ、これで今あるポーションの品質があげられる!」
那須にもお土産として七階層で生えていた薬草を手渡す。休憩中に自生している所を見つけて採取したもので七階層に生えていたものだからたっぷりと魔力が籠っているだろうから性能の良いポーションが出来る事だろう。
金倉は貰ったグラスディアの肉をどうやって食べようかと考えておりアイテムボックスに仕舞ったのでとれたて新鮮のままでありモンスターの食材には雑菌や寄生虫は存在しないから安全に食べられる。
「そういえばホットプレートがあった!」
「何で工房にそんなものが……」
「休憩中にホットケーキでも作ろうかなって買ったの!」
ごそごそと音を立てながらホットプレートを取り出してテーブルの上に置くと早速、スイッチを入れて温める。命は十分、グラスディアの肉を味わったのでアイテムボックスに仕舞っていたバトラーが淹れてくれた珈琲を飲みながら眺めている。
アイテムボックスは中の物の時間を止めると言う凄まじい効果があり朝淹れてもらった珈琲が淹れたてあつあつの状態でありサイズも手提げかばん程度なので持ち運びにも便利だ。
「うーん!美味しー!」
「こ、こんなに美味しいお肉初めて……」
簡単にホットプレートで焼いただけだと言うのにその美味しさに二人とも感動しており送ったグラスディアの肉を食べた両親がわざわざ連絡してきたのを思い出して微笑ましい気持ちになる。それだけグラスディアの肉が美味しいという事であり定期的に七階層に赴いてグラスディアを狩りに行こうと思った。
そんなに量がなかったが二人とも大満足と言った表情でありグラスディアの疲労回復の効果は生産職である二人にとってもいい働きをするだろう。
「ご馳走!すっごい美味しかった!」
「あ、ありがとう」
「お粗末様。気に入ってくれて嬉しいよ。余裕があったらまた、狩ってくるよ」
「本当に!?」
嬉しそうに飛び跳ねておりよっぽど気に入ったらしい。誰にとっても美味しい食べ物は心の潤いとなりこれだけ美味しいものを食べられるのは探索者の特権だなと思いながら命は金倉の工房を後にすると安城と会う約束があるので何時もの喫茶店に向かう。
相変わらず豪華な喫茶店であり毎回、個室を用意してくれるのだから安城の手が及んでいるという事でありどれだけの影響力を持っているのか気になる所だが、秘密主義である安城は簡単には明かしてくれないだろう。
「七階層突破おめでとうございます。これで残すところ三階層だけとなりましたね」
「どうも」
世田谷ダンジョンは全部で十階層のダンジョンであり安城の言う通り後、残すところ三階層だけであり十階層のボスはとてつもない強さであるという話であり普通の階層とは違い最初からボスと戦うことになるようで道中のモンスターは存在せず階層そのものがボス部屋となっているらしい。
まだ、先の話であるが安城は命が十階層に辿り着くと確信している様であり話題に出したのもそういうことで何時もの様に取材を始める。命に興味があるものなんているのかと聞いたことがあるが安城曰く、命の事を掲載した新聞は販売数が目に見えて上がっているらしく一定数の需要はあるらしい。
娯楽を求めてやまない探索者学校の生徒にとって新聞部の新聞は娯楽の1つであり新聞が掲載された時は多くの生徒が張り出された新聞を見に行っており中には定期購読しているものも居り新聞部の規模がデカいのは需要があるからである。
「まだ、先の話とはなりますが世田谷ダンジョンを踏破した後は何処を探索する予定で?」
「一応、渋谷ダンジョンか千代田ダンジョンですかね」
渋谷ダンジョンは階層型のダンジョンであるが世田谷ダンジョンほど階層はなく五階層だけでありさくっと攻略して千代田ダンジョンに挑むつもりだ。千代田ダンジョンは命が挑んだことない墳墓型のダンジョンでモンスターと戦うのは良いが罠が多くあるという話だから面倒そうなダンジョンだ。
「その2つを踏破したらやはり遠征ですか?」
「そうなりますね」
3つのダンジョンをクリアしたら命のレベルに合うダンジョンはないので遠征しなくてはならない。獅子王なんかは既に遠征しており山梨の富士ダンジョンに挑んでいると言う話であり日本三大ダンジョンに挑んでいると言う獅子王の出鱈目ぶりは凄まじいがその後を追う気にはなれず身の丈に合ったダンジョンに挑むつもりだ。
「となると候補は横浜か兵庫あたりですかな?」
「流石ですね」
「情報と言う分野で負けるわけにはいきませんので」
横浜の赤レンガダンジョンに兵庫の姫路ダンジョン。どちらも命が行こうと思っていたダンジョンでありどちらも階層型のダンジョンであり元は赤レンガ倉庫だった場所と姫路城がそのままダンジョンになってしまった場所でありどちらもかなりの歯ごたえがありそうで共に十階層とかなりの規模のダンジョンである。
命が情報室で調べていたのを知っていたのだろう。この学校で安城が知らないことは無いと思わせるほどの情報力でありそう言った情報系のユニークスキルでも持っているんじゃないかと思わせる情報力である。
「聞きましたか?小林くんのパーティーがもう、五階層を突破したらしいですよ」
「噂には聞いてましたけどそんなに早く……」
夏休みを終えてから小林のパーティーは夏休み前から世田谷ダンジョンに挑んでいたのだがその攻略速度は遅く、かなり焦れていると言う話であったが夏休みを終えてから今までのが何だったのかと思うレベルで世田谷ダンジョンを攻略しており生まれ変わった小林が陣頭に立ってパーティーを先導している様でこの様子なら直ぐに追い越されてしまう。
別に競っている訳ではないがパーティーとしての強みをはっきりと生かしている様でその攻略速度を支えるのがパーティーメンバーが持つ、真新しい装備であり今でもパーティーメンバーに武器や防具を買い与えている様で小林の資金力が火を噴いている。
今までの小林とはまるで違う堅実な戦い方で攻略を進めていると言う話で夏休み前の小林ならば激怒してパーティーメンバーに当たっているだろうに本当に生まれ変わったとしか思えない変わりようだ。
「柏崎くんに小林くん、宍戸くんに樋口さんと今年の一年生は粒ぞろいですね」
「筆頭は獅子王ですよ」
「それは勿論、存じておりますとも。後一年、時間があればもっと面白いものが見れたでしょうに……」
胡散臭い笑みを深めながら何処か寂しそうにしている。安城にとって命や獅子王達はいくつものネタを提供してくれる大事な顧客でありもう一年、在籍していればもっと彼らの活躍ぶりを特等席で見られただろうにという気持ちがあり贅沢を言えば彼らと同じ年代に生まれたかったと言う気持ちがある。
しかし、それを表に出さない理性の強さがあり安城は何時もの様に胡散臭い笑みを浮かべながら取材を続ける。既に次代の新聞部部長には情報網のノウハウを教えており既に半引退状態であり自分がしたいことだけをやっており安城は楽しそうに情報集めをやっている。
「しかし、どの部活にも入らないおつもりで?」
「まぁ、何処かに入ればスカウト合戦が終わるとは思ってるんでけど今更、拘束されるのは……」
命が思っている以上に探索者学校での命の知名度は高く是非、命を我が部にと求める声が大きくスカウトがかなりしつこく、安城もそれを心配して何処かに入らないかと提案しているのだが、自由にダンジョン探索が出来る今の状態を手放したくはない。
しかし、命ほどの人間を見逃すほど馬鹿ではなく日に日にスカウトがエスカレートしており一々、対応するのも面倒になって来たのでそろそろ、対抗策を考えなければならない。
「やはり、何処かに籍だけ置いておくと言うのがいいのでは?」
「それが一番なんですけど何処がいいのか分からなくて……」
凄い数の部活が存在しており拘束がそんなにない部活はどれかなんて探そうとしたらそれだけで一年が過ぎていきそうであり見かねた安城が一枚の紙をテーブルの上に置く。
「そういうかと思いまして比較的、拘束時間の少ない部活をリスト化しておきました」
「安城先輩……ありがとうございます!」
「いえいえ、こちらとしても柏崎くんが自由でいられる方が都合がいいですから」
お礼を言いながらリストの部活に目を通しておくと新道寺が所属している情報部に目が行く。
「情報部はそんなに暇なんですか?」
「えぇ、週に一度だけ集まって集められた情報をパソコンに打ち込むだけだと聞いています」
それが本当ならば命が求める条件に一致するが本当かどうかは分からないので情報部に所属している新道寺に実情を聞くことにしよう。そういえば新道寺も暇そうにしていたので案外、安城の言う通り拘束時間が短い部活なのかもしれない。




