第六十七話
本に書き込んでいると美味しそうな匂いがしてきて肉汁が弾ける音が聞こえる。空きっ腹に来る光景であり飯テロといっていい。シンプルにスキレットでグラスディアの肉を焼いており大地魔法で作ったテーブルの上に豪快に切られた肉が置かれる。
見るだけで涎が出そうなビジュアルであり我慢できずに肉を頬張ると凄まじい肉汁が口の中に溢れて赤身の旨味がガツンと来る感じで富裕層や探索者に好まれているのも分かる。ポカポカと体が温まり探索で疲れていた疲労が抜けていくのを感じる。
「母さん達にも食わせてやりたいな」
日々、仕事に追われる両親にご馳走してやりたいと思い、帰ったらクール便で送りつけることにしよう。最近の配達は優秀で良い所に頼めば時空魔法で物の鮮度を保ったまま送られるので値は張るがポータルを使えば出雲までは直ぐだし頼んでおこう。
両親にお腹一杯ご馳走するためにはこれだけでは足りないので命は草原を駆け回り、ケンタウロスやグレイウルフなど目もくれずグラスディアだけを求めてフローガを走らせる。
あまり多くは生息していないようでありもう一体を見つけるのにはかなりの時間が掛かったがグラスディアの肉はそれだけの価値があるものである為、苦労を感じない。
≪召喚モンスターのレベルがアップしました≫
十六夜
鬼神
レベル8→9
「簡単には倒させてくれないか」
マッド・フィールドが間に合わず、もう少しで命にグラスディアの突進が直撃しそうになり肝が冷えた。命を巻き込まないようにピンポイントで放たれたシャインの聖炎のお陰で命を拾った。それが間に合わなければフローガも回避することが出来ずに命に直撃したであろう。
舐めてかかったという訳ではないがグラスディアの突破力を身に染みて思い知らされた。冷や汗だらだらでありグラスディアの危険性を改めて再認識させられたのでもっと、慎重に戦うことにしよう。
肉を解体しバックパックに入れると結構な量になったので自分の消費用も合わせて十分な量が集まったのでグラスディアを狩らなくていいなと判断する。
「ボス戦か」
この階層のボスでありビーストマンモスはフロストジャイアントにも負けない巨体のモンスターであり長期戦が予想される。パーティーも再編して万全な状態で臨まなければならない。
ブラン、フォボス、十六夜を送還してアイン、アヴァリス、バジレウスを召喚する。ビーストマンモスにはバジレウスの力と火力が必要であり大物狩りにはアインとアヴァリスが活躍してくれることだろう。
草原を走ると巨大なシルエットが見えてきてかなり遠くだと言うのにかなりの存在感であり疑うまでもなく七階層のぼすであるビーストマンモスだ。
ビーストマンモス
スキル
超頑強、タフネス、大地属性
「デカいな」
フロストジャイアントよりは小さめではあるがそれでもかなりの大きさであり鑑定したスキルからもタフそうなのが嫌という程、伝わってくる。バジレウスが挨拶代わりにとブレスを吐くとビーストマンモスは脅威を察知して咆哮を上げて地面が隆起する。
無人島ゲームで戦ったビックシータートルのものよりも範囲が広く、命の元にまで影響が来ており手綱でフローガを操って揺れる地面の中、進んでいく。
バジレウスのブレスは堰き止められてお返しだと言わんばかりに地面から石柱がせり上がってきてバジレウスに放たれる。かなりの質量の攻撃であり流石に受けきるのは無理だと判断して空を舞ってそれを回避し近づいていくがそうはさせまいと牽制して来る。
「面倒な!」
ノワールの呪詛は聞いている様であるが図体がデカすぎて効き目が薄いらしい。その巨体に似合った出鱈目振りであり命はアインとアヴァリスを転移させえてビックシータートルの足元へと移動させて二体が攻撃を仕掛ける。
劇毒を纏ったアインの刃とアヴァリスの防御貫通の必殺の拳が直撃しビーストマンモスは初めてダメージを受けた様子であり二体掛かりでも大ダメージには至っていないようでありタフにも程がある。
「フレイム・バーン」
かなりの魔力を注入しそれに加えて魔力を暴走させて更に威力を増した炎の一撃がビーストマンモスの体を焦がす。予想通り防御力は高いようで思った通りのダメージは入らなかったが地道に体力を削っていくのが目的であり大規模な大地属性を行使するビーストマンモスに接近戦は難しいので命もダメージソースとして活躍するしかない。
今も地面は揺れておりビーストマンモスの足元にいるアインとアヴァリスはもろに影響を受けているが二体とも歴戦のモンスターであり最小限の動きで地面の揺れに適応しておりダメージを与え続けている。
「テンペスト・アロー」
これだけ大きな的なので数撃ちゃ当たる戦法も有効である一矢、一矢にかなりの魔力を込めた嵐の矢を大量に形成しビーストマンモスに放つ。大地属性で壁を形成するが大量の矢は壁を抉ってビーストマンモスへと着弾する。
当たった所で込められた魔力が炸裂しまるで爆弾の様になりビーストマンモスにかなりのダメージを与えている。命はフローガを走らせながら指輪から魔力を吸い出して魔力を回復させており戦況を確認する。
ビーストマンモスの防御力は命が思っているよりも高くそれを抜くためにかなりの魔力を消費しており防御貫通のスキルを持つアヴァリスとアインの劇毒が結構なダメージを与えているがその巨体に似合った膨大な体力を有しておりいまいち削り切れていない。
長期戦なるとは覚悟していたが半分も削れていない状況は流石にじれったい。
「テレポート」
命はフローガごと転移してビーストマンモスへと肉薄しその足に触れるとグラビティ・メイル。超重量の鎧をビーストマンモスへと付与する。体から大量の魔力が抜けていくのを感じながら地面へと倒れるビーストマンモスを眺めて巻き込まれないようにと再び転移する。
主人の意図を汲んだバジレウスは命がテレポートを発動する前に溜めを開始しており命が脱出したのを確認すると魔力を総動員させて必殺のユニークスキルを放つ。紅蓮は炎の上位属性である灼熱を上回る程の熱量を誇るユニークスキルでありそれをまともに食らえばいかに体力自慢のビーストマンモスであろうともただでは済まない。
しかし、命の危機に瀕してビーストマンモスはモンスターとしての生存本能に身を任せてカタパルトの様に自分目掛けて石壁を生成し紅蓮の軌道から僅かに自分の体を逸らして半身が焼かれる程度に留める。
「賢いな。だが、それ位するだろうと思ってたぞ」
七階層のボスをしているモンスターが簡単にやられるとは思っておらず地面に倒れるビーストマンモスの首元に刃が突きつけられる。
「カタカタ」
その刃は漆黒に染まりながらバチバチと雷を纏っており仄かに体が赤くなっていくことから身体強化のスキルを使っていることも分かる。振り下ろされた死神の鎌は確実にビーストマンモスの大きな首を跳ね飛ばす。
まるでバターを切るようにスムーズに刃が通り地面に鮮血が流れる。
≪レベルアップ!スキルレベルがアップしました。召喚モンスターのレベルがアップしました≫
柏崎命
レベル18→19
スキル
召喚魔法、炎魔法17→18、人魔一体12→13、統率14→15、鼓舞12→13、魔法強化27→28、魔力回復26→27、魔力制御6→7、無言詠唱15→16、詠唱破棄15→16
アイン
デス・ジェネラル
レベル9→10
スキル
カバーリング
アヴァリス
オーガロード
レベル7→8
フローガ
グラニ
レベル1→3
ノワール
アークデーモン
レベル6→7
シャイン
ケルビム
レベル5→6
バジレウス
ドラゴン
レベル2→3
『巨像の剛皮』ランクA
スキル
超頑強、タフネス、大地属性
「はぁ……随分と掛かったな」
あまりに長期間の戦闘に流石に疲労困憊で魔力も底をついてしまっておりこれ以上の戦闘は出来そうにない。この状態のままでは簡単にやられてしまう恐れがあるので手早くポータルに触れて世田谷ダンジョンのロビーへと戻る。
軽くシャワーを浴びて汗を流して休憩室のソファーに腰を下ろす。七階層の戦いは激戦の連続であり途中で休憩を挟んでよかったと自分の判断を褒める。あれがなければ集中力が切れて悲惨な結果になったであろうことは明白で確かな経験値と高級品であるグラスディアの肉を手に入れられたので満足と言っていいだろう。
命は早速、一番ランクの高い配送で実家にグラスディアの肉を送る。本当ならもっとグラスディアを買って友人達にもご馳走してやりたかったがそれはまたの機会にするとしよう。
「取り敢えず、こんなもんかな?」
配送したところで学校に戻ると新聞部の新聞が掲載されている掲示板に人が群がっているのを見かけて何なのかと見に行こうとすると丁度、宍戸が居た。
「一体何の騒ぎだ?」
「聞いてねぇの?樋口のパーティーが千代田ダンジョンを踏破したんだって。しかも、ボスがユニークモンスターでスゲー品質の魔石が手に入ったんだと」
「それは凄いな」
世田谷ダンジョンを踏破した後に挑もうかと思っているダンジョンであり大量のアンデットが出現する珍しい墳墓型のダンジョンであり神聖魔法を有する樋口は引っ張りだこだろと思っていたがまさか踏破するとは驚きだった。しかも、ボスがユニークモンスターという事は通常よりも難易度が劇的に上がっているという事でありよくクリアできたなと素直に称賛する。
それはセンセーションな出来事であり常に娯楽を求めている生徒達からしたらいい話題だろう。新聞を書いた人物の名前を見るとやはり安城であり自分だけでなく樋口の事も注目していると言っていたし安城が見逃すわけないよなと納得すると命は寮へと戻っていく。
「今日の晩飯はまた、グラスディアの肉にしようかなー」
るんるんと鼻歌を歌いながらご機嫌な様子であり余程、グラスディアの肉が美味しかったらしくバトラーの料理の腕もあるだろうがグラスディアの肉の虜となってしまっている。




