第六十六話
文化祭が終わりいつも通りの日常が帰って来た。命は当然、ダンジョンに潜ることに決めており世田谷ダンジョンの七階層に潜っている。どこまでも広がる草原であり二階層とは違い、森はなく草原が広がっているだけである。
今回のパーティーはブラン、フォボス、フローガ、ノワール、シャイン、十六夜でありフローガはクラスチェンジしたことで体格が増しており金倉に馬具を仕立て直してもらった。
「さぁ、行こうか」
七階層に出てくるグレイウルフやケンタウロスはどちらも高機動なモンスターでありそれに対応しようと思ったらフローガに乗るのが一番、効率が良くクラスチェンジしたことだしフローガの戦い振りも見て見たかった。
軽く走らすだけでもクラスチェンジ前とは偉い違いであり風を切るのが伝わってきて人魔一体のお陰で乗りこなせているが普通の人間だったら振り落とされないくらい揺れておりこれにスキルの強化が入ったら更に速度が増すという事で今のうちに速さに慣れて悪寒くてはならない。
ケンタウロス
スキル
上級弓術、疾走、蹂躙
命達に並走するように人馬のモンスターが現れてこちらに矢を構えている。フローガはパーティーとの連携を考えて速度を下げており戦闘に突入する。
放たれた矢は命を的確に狙っておりフローガジグザグに移動して上手く矢から逃れておりそれでもやって来る矢は命が魔法で撃ち落としている。薄く魔力障壁を展開しており数本くらいなら弾くことが出来る。
「マス・パラライズ」
矢を放ちながらも速度が下がっていないのを見て広範囲に麻痺呪文を放ち、ケンタウロスの動きを止めると続けざまにフォボスが氷河魔法で拘束し一気に攻撃する。
ケンタウロスは矢を放って近づけまいとするがそれを華麗に回避しながらノワールとシャインが強烈な一撃を与え、十六夜は向かってくる矢を神通力で制止させて刀を振るいケンタウロスを一刀両断する。
今までならば腕を切り落とすのが精々だったのだが頭から腰に掛けて一刀両断する。クラスチェンジしたこで筋力が上がっているから出来たことだろう。
グレイウルフ
スキル
噛みつき、疾走、風属性
「新手か」
一通り一掃できたかと思ったら今度は灰色の狼が血の匂いを嗅ぎつけてやって来た。単純な機動力だけならばケンタウロスよりも上であり麻痺呪文が簡単に当たりそうになく違う方法を取らなければならない。
ノワールの呪詛も避けており捕らえるのは難しそうであるがグレイウルフの武器はその鋭い牙であり機動力に任せてこちらに向かってくる。
「フン」
向かってきたグレイウルフを十六夜が迎え撃って両断とまではいかないが切り傷を作る事には成功し鮮血が舞う。それによって動きが悪くなったグレイウルフに空中からブランが降下しその鋭い爪がグレイウルフの目を奪う。
それだけで済まず、足を止めたグレイウルフにバットステータスを与えて動けなくしており隙のない動きでグレイウルフを牽制しておりブランによって制止させられたグレイウルフをフォボスが噛み砕く。
「フレイム・アロー」
数撃てば当たると大量の炎の矢を形成し一斉に発射する。矢の雨に流石に逃れ続けることは出来ずグレイウルフの体が燃え上がる。矢自体に込めた魔力はかなりのものであり当たりさえすれば仕留める事だ出来て力技が過ぎる。
しかし、その効果は絶大であり草原にも燃え移っているが魔力で作った火なのでコントロールができ燃え上がった火でグレイウルフの逃げ道を塞ぎ、シャインの聖炎が広範囲に放たれて残ったグレイウルフが纏めて焼き尽くされる。
≪スキルレベルがアップしました召喚モンスターのレベルがアップしました≫
柏崎命
スキル
暗黒魔法16→17、炎魔法16→17
十六夜
鬼神
レベル5→6
「来たばかりだと言うのに随分な出迎えだな」
そう呟きながらドロップした魔石を回収する。血の匂いを嗅ぎつけてモンスターが寄ってくるかもしれないから手早く回収してフローガに騎乗し移動する。それからグレイウルフの群れと遭遇したりケンタウロスの一団と激戦を繰り広げる。
≪召喚モンスターのレベルがアップしました≫
十六夜
鬼神
レベル6→7
「あの量を殺しきるのは流石に苦労したな……」
上空でケンタウロスに攻撃し続けたノワールとシャインの消耗はかなりのもので魔力供給をしながら回復させる。シャインが周囲に結界を張ってモンスターが寄り付けないようにすると命はフローガから降りて草原に寝転がる。
ふわふわとした感触ではないが意外と居心地がよく、此処がダンジョンでなければひと眠りした所であるがそういう訳にもいかないので召喚モンスター達を回復させる。
命自身もグレイウルフの群れを倒した後に続けざまにやって来たケンタウロスを倒すのに結構な神経を削らされており新道寺の助言を受けてバットスメルのスキルを使ってケンタウロスの動きを鈍らせんければ更に戦闘は長く続いたことだろう。
「六階層とは違った手強さだな」
六階層の雪原とは違い、厳しい環境という訳ではないが遮蔽物の一切ないだだっ広い草原は高い機動力を有するケンタウロスやグレイウルフには有利な環境でありこれが森とかならばもっと上手く戦えただろうが遮蔽物のない草原はケンタウロスの矢が一方的に届く。
魔力障壁も万能ではないので全ての矢を受けきることは出来ず、矢を防ごうと思ったらかなりの魔力を消費しなくてはならず戦闘中ずっととなるとかなりの消耗であり魔力タンクを有する命でもケンタウロスの魔力を帯びた矢を防ぎ続けるのは楽ではなかった。
「ダンジョンの中だと指輪の魔力がスムーズなのが救いだな」
普段は地上で魔力を補充しているが魔素の濃いダンジョン内では周囲の魔力を吸い上げて最小限の魔力で指輪の魔力を補充することができ、七階層という所謂、深層に位置するここならば魔力の回復も早い。
周囲の魔素を吸い上げて自分の魔力にするのはかなりの難易度であり命でも結構、苦労するもので吸い上げたとしても大した魔力にはならないのだが、それを体内に入れるのではなく指輪に供給するのであれば効率が段違いになりダンジョン探索中にも関わらず指輪に魔力を補充できると知った時は驚いたものだ。
「よし、休憩終り!」
十分に休息は取れたので結界を解除して探索を再開する。休憩中に有効そうな作戦を幾つか考えていたのでどこからでもかかってこいと思いながら進んでいると見慣れぬモンスターを見つける。
グラスディア
スキル
狂騒、突進、風属性
「グラスディア?あの高級品の?」
一度は名前を聞いたことがある高級モンスター食材である。一般家庭出身である命は食べたことは無いがその名だけは知っており富裕層や上位の探索者が好んで食べていると言う食材で滋養強壮、疲労回復と探索者には持って来いな代物であるがグラスディアが広く流通していないのには理由がある。
それはグラスディアがあまりにも狂暴で並の探索者では相手にならない強さを持っているからでグラスディアを専門に狩る探索者が居るくらい希少なモンスターである。
「マッド・フィールド!」
グレイウルフ対策に考えていたフィールド呪文でありグラスディアの大きな武器である立派な角を使った突進を防ぐために足場を悪くする。思った通り足を取られておりフォボスは嵐属性を器用に使って地面のぬかるみを弾いており普段通りに疾走しグラスディアに噛みつく。
グラスディアは悲鳴を上げており何とかフォボスを払おうと暴れているがフォボスは大きく肉を食い千切って離れて血を流すグラスディアをノワールとシャインが追撃する。聖炎を放つがグラスディアはそれを脅威と思って身を捩って回避し続くノワールの杖撃もその角で受け止める。
重傷を負いながらもこれだけ動けるとは凄まじい生命力であり一筋縄ではいかなさそうだ。ならばと命は十六夜を転移させてグラスディアへと相対させる。
「フン!」
グラスディアは突如として現れた十六夜に警戒心をむき出しにし突進してくるが十六夜は足場の悪い場所でするりとその突進をマタドールの様に回避しすれ違いざまに一刀を浴びせる。
抜群の距離把握で戦闘センスだけならばパーティーの中でも上位に食い込むであろう。純戦士職としての実力を思う存分に発揮しており突進して距離が離れたグラスディアに向けて弓で追撃すると言う隙のないもので召喚されて日が浅いとは思えない活躍ぶりだ。
「グラビティ・プリズン」
足が止まった所に重力呪文を放ち、漆黒の牢獄にグラスディアは捕らえられる。とてつもない重力を押し付けられてグラスディアは地面に叩きつけられておりその頭部を神通力によって加速した矢が貫き、力なく倒れる。
≪召喚モンスターのレベルがアップしました≫
ブラン
フォレストオウル
レベル4→5
フォボス
マナガルム
レベル5→6
ノワール
アークデーモン
レベル4→5
シャイン
ケルビム
レベル4→5
十六夜
鬼神
レベル7→8
結構な経験値だったようで十六夜だけでなく他の召喚モンスターのレベルもアップした。魔石になる前に手早くグラスディアを解体し高級品と言われている肉を確保すると魔石となりそれを回収する。
昼食に丁度いい時間であり早速、バトラーに調理してもらう。命は大地魔法で簡単に椅子を作り出してそれに座ってバトラーを召喚してグラスディアの肉を手渡す。バトラーはマジックバックから調理器具や調味料を取り出して早速料理を始める。
料理を待っている間、命はバックから本を取り出して七階層の詳しい情報を書き込む。探索者になってから始めていることで探索したダンジョンの情報を細かく書き込んで後に自分で楽しむためのもので料理を待っている時間が暇だったので本に書き込む。
「結構な量になったな」
最初はこんな分厚い本が埋まるのだろうかと考えていたが書いてみれば半分くらいは埋まってしまっており将来の話にはなるだろうが自分の子供に自分はこんな探索をしてきたんだと話す日が来るんだろうかと思うそうしながらペンを走らせる。




