第六十二話
那須の手伝いが一段落付き、命は金倉の工房に向かうと前に来たよりも並んでいる人数が多い気がして嫌な予感がするがそれは的中する。金倉とバトラーは次々とやって来る客の対応に追われており工房の中は客でパンパンだ。
「命くん!いい所に来た!手伝って!」
金倉は命に受付を任せて自分は奥に下がり作り置きしておいた装備を棚に並んでいく。金倉の工房はそんなに広いわけでもないのに人で溢れかえっておりこの武器は自分が取ったんだと取り合いをしている者もおりその仲裁をしなくてはならない。
那須の所とは毛色が違う忙しさであり金倉が武器を補充した先から商品が消えていきまるで正月の福袋セールの様なものであり命は那須の手伝いの経験から全力でやるのではなくある程度、余裕をもってやらないと酷いことになると理解していたので余力を残したまま接客に臨む。
武器を捌き終わり閉店を告げると客はさっていき地獄の様な時間が終わる。
「いやー、こんなに来るとは思わなかったよ」
「見通しが甘かったな」
命は絶対、大勢の人が来るから相応の準備をしておいた方がいいと忠告していたが話半分で聞いていた様でこの有様だ。まぁ、これで金倉も自分の影響力高さを知っただろうから良しとしようと思いながらバトラーを帰還させる。
もしも、バトラーを手伝いに出していなかったら絶対、大勢の客に押しつぶされていただろうと思い考え付いた自分をほめてやりたい。
「時間が出来ちゃったしどうする?出店でも回る?」
「それでもいいけど売り上げの計算はしなくていいのか?」
「あ!それがあった!」
流石に売り上げの計算までは付き合う必要はないので命は一足先に出店を周ることする。多くのクラスや部活が出し物として飲食店をやっており厳しい審査を通って出しているので衛生面は完璧であり安心して食べることが出来る。
命はふと、目に着いた焼き鳥屋でモモを一本頼んでそれを食べながら良さげな所がないかと歩いていく。他所のクラスでは劇やアトラクションなど意外と凝ったものをやっている様だがあまり興味はないので適当に出店で食べ物を買ってベンチに座って食べる。
「この焼き鳥、あたりだな。二人にも教えておこう」
美味しかった店はグループで共有する。宍戸がうちの店にも来てくれよなと出店の写真を送ってくれる。出店の定番である焼きそば屋で肉は高級品と知られる霜降りポークを使用しているらしく少し値はあるがそれに似合った代物だ。
暇していたしどうせならと宍戸の所属している戦士部の出店に行くと結構並んでいたが回転率が高く直ぐに命の番となる。
「お、いらっしゃい!来てくれたんだな!」
「凄い似合ってるな」
頭にタオルを巻いてお揃いのTシャツを着て鉄板で焼きそばを炒めており結構似合っている。友人だからと結構、おまけしてくれて一人では食べきれない量の焼きそばを入れられるが探索者になってから胃袋が広がっておりこれ位はぺろりと食べれてしまう。
ベンチで焼きそばを食べていると小柄な女の子が複数の男に絡まれているのを見てしまう。お祭り気分になった男たちがナンパをしている様だが見るからに困っている様子で周りはそれを遠巻きに見ているだけであり仕方なく仲裁する。
「お兄さんたちその位にしておいたら?」
「はぁ?ガキは黙ってろ!」
命の言葉を無視して女の子に絡んでおり仕方ないなと男たちの肩を掴み、力を入れると男たちはあまりの痛みに地面に膝を付く。こんなこともあろうかと装備しておいた蛮族大王の指輪の効果でありサモナーという魔法職で筋力が低い命でも簡単に制圧できるくらいの筋力を得られる。
男たちはこれ以上、乱暴を続ければ何をされるか分からないので怯えた様子でこの場から去っていく。反省した様子ではあるがまた、問題を起こすかもしれないので男たちの人相を文化祭実行委員に伝えておいて共有しておこう。
「ありがとうございます。助かりました」
「いえいえ、困った時はお互い様ですから」
深々とお辞儀をする女の子に気を遣わせてしまったかなと思いながら女の子を見ると結構、華奢な子で男たちが目を付けたのはこの子なら抵抗できなそうだと考えたからであろうと気づいて絶対に出禁にしてやると心に決める。
「私、財前春香って言います。今日はお母さんの付き添いで此処に」
「そうなんだ。お母さんの所まで送るよ」
「そんな!助けてもらったばかりなのに悪いです!」
「気にしなくていいよ」
ここで出来る男ならば女の子の手を引くのだろうが男に絡まれたばかりで怖い思いをしている彼女にそんなことは出来ず、できるだけ近くで一緒に歩いて校舎を案内しながら母親の元まで送る。待ち合わせ場所は中庭であり一人の女性がこちらに向かってきておりもしかしてと思ったが見覚えのある人だった。
「雅さん?」
「柏崎様ではないですか」
やって来た女性はロンドンで命の世話をしてくれていた使用人である財前雅であり突然の再開に二人とも驚いており春香は何のことなのか分からず困惑している。
「お話ししたでしょう?夏休み中にお坊ちゃまの別荘に遊びにいらしたの」
「あぁ!貴方がそうだったのですね!」
「何だか気恥ずかしいな」
自分の知らないところで話が回っている様でどんな伝え方がされているのか気になるが追及はしないことにして命は手短に春香に起こったことを伝えると見るからに怒った表情を浮かべている。
「私の可愛い春香になんてことを!生きたことを後悔させて差し上げますわ!」
「落ち着いてお母さん!命さんのお陰で何ともなかったから!」
見るからに燃え上がっており制裁を下そうと怒りを露にしており余程、娘を可愛がっている様だ。怒りに燃える母親を何とか鎮めようと春香も必死になっておりロンドンでは冷静沈着な所しか見たことなかったからこんなに感情を露にするのかと驚いている。
「失礼。取り乱してしまいました。娘を助けてくださってありがとうございます」
「偶然通りかっただけですから。それよりも何で雅さんが此処に?」
「それは旦那様と奥様がこちらにいらしているからです」
忙しいだろうにわざわざ文化祭にやって来るとは。そんなに娘の事が気になるのかと思ったが夏休みの時もとても獅子王の事を愛しているのが伝わってくる溺愛振りであり娘の為ならば幾らでも時間を作るだろう。
雅は折角だからと春香も一緒に連れてくることを許されて今は自分達の世話は良いから娘との時間を大切にしなさいと言う信二に気遣いで文化祭を一緒に回っていたのだがあまりの人にはぐれてしまったと言う事らしい。
「春香は来年、此処に入学することになりますから校舎をよく見ておくようにと言っていた途端にはぐれてしまって……」
「はは……ごめんなさい」
「来年、入学するんだ」
いくら獅子王に仕えている使用人と言えど探索者学校に入るためには純粋な実力が評価され宇ので入るのは大変だと思うが既に入学は決定している様でこんな華奢な子なのに入学できるだけの実力は有しているという事であり人は見た目に寄らないらしい。
「それじゃ、後輩ってことになるね。入学したら是非、校内を案内させてくれ」
「はい!よろしくお願いします!先輩!」
可愛い後輩が出来たものだと思いながら命は財前親子と別れる。一通り校内は回ったのでどこに行こうかなと考え、どうせだからと自分のクラスの魔石展示会の様子でも見に行こうかと移動すると思ったよりも盛況な様子だった。
多くの人が魔石を眺めている姿はシュールだったが小林は満足そうな表情を浮かべており目論見は成功したらしい。観客が見ているのはやはり獅子王が展示しているグランドトリケラトプスの魔石であり盗難防止のため結構な仕掛けが設置されており触ろうとした男が装置によって吹き飛ばされている。
「クラスの魔法職がノリノリで設置してたからな」
準備期間に魔石を盗もうとする者が居るんじゃないのかという話が上がってクラス中の魔法職が展示された魔石を盗難から守る為に幾つもの魔法を施しており獅子王の魔石は特に気合が入っておりやり過ぎたという声も上がったが担任の陣内の好きにしていいと言う言葉があったので容赦なく設置している。
「見事な展示だね。柏崎くん」
「獅子王さん。ご無沙汰しております」
「そう、固くならなくていいさ」
高そうなスーツを身に纏った信二が話しかけてきて命は思わず姿勢を正してしまった。信二はそういうが万が一にも失礼な態度を取るわけにはいかないのでそこそこに気を付けることにする。
「魔石を展示とはよく考えたものだ。だが、君の実力であの魔石は不釣り合いなんじゃないのかい?」
「あれは自分の探索者人生で最初に命の危機を感じたモンスターの物でして以外に思い入れがあるんです」
「そうか……それは失礼なことを言った」
命が展示したのはインペリアルタイガーの魔石。あのモンスターはとても強く、多くのモンスターと戦ってきたがあの時の事は忘れたことがないほど衝撃でありそれだけあのモンスターは強かった。
あの戦いがあったからこそ今の自分があるのだとそう、思っており他にも展示できるAランク魔石はあったが展示すると聞いた時、一番初めに思い浮かんだのがあの魔石だった。
「人に歴史ありだな。僕も随分と長い間、探索者をやってきたが初めて命の危機にさらされたモンスターは覚えているよ」
「獅子王さんもですか?」
「それはそうさ」
信二にもそう言った経験があるようで何処かしんみりとしてしまう。信二は良い物を見せてもらったと颯爽と去っていき相変わらず一挙手一投足が絵になる人だなと思いながら教室を出て行こうとすると背筋に冷たいものが走り思わず振り向いてしまうと見るからに普通の人ではないオーラを纏ったフードの男が居り男は獅子王の展示品を見ていた。
「強くなったじゃないか」
僅かに聞こえたのはその一言であり男は直ぐに教室から出ていく。一体誰だったのだろう。
今まで探索者として多くのモンスターと戦ってきたがあんな感覚を覚えたのは初めて出会った。




