第五十三話
英国から帰国して命は地元の出雲ではなく東京に居て、修行の旅から戻ってきた金倉に呼び出されて遠藤が持っていると言う小さな工房に通された。
「いやー、久しぶりだねー」
「随分、肌が焼けたな」
「あ、これ?こないだ海で遊んだ時、日焼け止めを塗るのを忘れちゃってさー」
こんがりと小麦色に焼けており夏休みを満喫している様だ。修行の旅だと言うからかなり絞られているのかと思っていたがそんなことは無いようで伸び伸びと過ごしているらしい。金倉に呼び出されたのは暫く東京にいるから命の装備を作れる時間があるとのことで出雲や英国で手に入れた魔石を広げる。
「これこれー!早く作ってみたかったんだよねー!」
一応、魔石を手に入れたら金倉に画像を送っており早くその魔石で装備を作りたいと大いに不満を漏らしており頬擦りしそうな勢いであり物凄くテンションが高い。既に作業に没頭していて命の事など忘れてしまっており邪魔したら悪いしと命は工房から出て東京を探索することにする。
流石は日本の首都であり多くの人で溢れかえっており気楽に観光というのも難しくどうしたものかと悩んでいると声を掛けられる。
「あら、命じゃない」
「朝比奈さん?」
振り返った先にはゴスロリの様な派手な衣装に見るからに業物だというのが分かる杖を抱えた朝比奈の姿がありギルド見学ぶりとなる久しぶりの再会だ。ギルド見学が終わった際に連絡先を交換して今までも連絡を取り合っていたがあるのはギルド見学ぶりとなる。
「ダンジョン帰りですか?」
「そ、新しい装備の確認の為にね」
魔女というのが的確な格好で服に着せられておらず着こなしており杖も相まって中世の魔女の様な出で立ちで周囲から少なくない注目を集めているが気にしていない。相変わらず我が道を行く人物の様で全く変わっていない。
「アンタは確か夏休み中でしょ?こんな所でウロチョロして何やってんの?」
「専属職人に装備を作ってもらってまして暇を持て余しているんです。ホテルで寝そべってるのも性に合いませんので」
「ふーん、そうなの……」
何か失言をしてしまっただろうか悪そうな顔を浮かべる朝比奈に嫌な予感を感じてこの場から逃れようとするががっしり腕を掴まれて捕らえられる。
「丁度、訓練相手が欲しかったところなのよねー」
「いや、遠慮しときます……」
「そう言わずに!アンタがどれだけ成長したか見ときたいし」
有無を言わせぬ朝比奈の圧に押されてあれよこれよとタクシーに乗せられて一角獣ギルドへと向かい、道中では時計塔ダンジョンでの戦い振りを話し久しぶりに旧交を温めていた。
しかし、いざ手合わせになると正に地獄であり今までの訓練が何だったのかと思うくらい厳しいもので命の放つ魔法全てが堅牢な大地魔法によって封殺されてしたいことを何もさせてもらえない理不尽なもので精神が擦り切れるような戦いだった。
≪スキルレベルがアップしました≫
柏崎命
スキル
大地魔法22→25、炎魔法12→15、暗黒魔法13→16、氷魔法5→10、魔力制御3→5、無言詠唱11→14、詠唱破棄11→14
「まぁ、及第点ってところね」
「はぁ……はぁ……そりゃ、どうも」
息絶え絶えの疲労困憊状態の命とは裏腹に朝比奈は息1つ乱れておらず探索者としての年季の違いを思い知らされる。流石は要塞の朝比奈で命の攻撃を全て無効化してしまうその異名に恥じない堅牢さ。命が成長したことで手加減を止めたようで容赦なく攻撃も加えてきてされるがままであった。
「随分と成長したわね。まぁ、私の足元にも及ばないけれど!」
「ありがとうございます」
少しは近づけたかと思ったがギルド見学の時は随分と手加減してくれていたらしい。それでも師匠と言える朝比奈に成長出来た自分を見せれてよかったと思う。訓練は地獄の様なキツさであるが実りの多いものでり断る理由はないが疲労の度合いは凄まじい。
「ほら、ポーション。全く、軟弱ねー」
「あざます」
差し出されたポーションを飲むと市販品のとても不味いもので思わず顔を顰めてしまう。那須と契約してから飲みやすいポーションに慣れていたから久しぶりの不味さに思わずむせそうになってしまうのを必死に抑える。
「最近は飲みやすいポーションが出来てきたけど、初心に帰って市販品のポーションの味を思い出すのもいいことでしょ?」
悪い笑みを浮かべておりわざと市販品のポーションを渡してきたのが分かる。こういう人が嫌がりそうなことを率先とやってくる人でそんな性格だから相手がどんな行動をするのかを先読みしてそれを潰してきたりとかなり厭らしい。
「東京には何時まで居るの?」
「装備が出来上がるまでですかね。あの様子だとそんなに時間は掛からないと思います」
「そ、詰まんないわね。もう少し絞ってやろうと思ったのに」
修行の旅を終えて金倉の鍛冶スキルも成長しているだろうし明日には完成していることだろう。心底、残念そうな表情を浮かべる朝比奈に早く終わらせてくれと心から願う。
訓練を終えて、命と朝比奈は一角獣ギルドの応接室に行き、これまでの探索を詳しく朝比奈に話して時計塔ダンジョンでアークマジシャンやウェンディゴに遭遇したと話したら良く生きてたわねと心の底から心配される。
それからお茶をご馳走になる。流石は一角獣ギルドで出されるお茶も高級品であり獅子王家の別荘で出されたものと遜色ない物であった。
「そろそろ、お暇させていただきます」
「もう行くのね。もう少しゆっくりしてもよかったのに」
「これ以上、ゆっくりしていては根が張ってしまいますから。また、顔を見せに来ます」
一角獣ギルドの所有するダンジョンを踏破できていないし学校が再開したらダンジョンに入らせて貰おうと考えているから再び会うのに左程、時間は掛からないだろう。
一角獣ギルドからホテルへと帰るとホテルのロビーに見覚えのある人物が立っており今日は色んな人と会うなと思いながら近づく。
「安藤先輩じゃないですか。先輩も同じホテルですか?」
「いえ、父の会社が経営しているホテルでしてね。ここのホテルのディナーは絶品ですから食べに来たんです。一緒にどうですか?」
奢りますよという言葉にまんまとつられて安藤と共に食事を共にする。探索者割引が効いてそこそこのホテルだからと期待していなかった安藤の言う通り出された料理は全てが絶品でどれも丁寧に下拵えされた繊細で食べるものの事を考えた料理で満足のいくものだった。
「英国はどうでした?」
「どうして知っているんですかと聞いても答えてはくれないんでしょう?」
胡散臭い笑みを浮かべるだけであり命が英国に行ったという事を知る者は僅かしかおらず彼の情報網は海外にまで及んでいるという事で相変わらず食えない男で命が今日、此処に宿泊するのも知っていた此処に来たのだろう。
「新聞部が注目しているのは獅子王さん、樋口さん、新道寺くん。そして貴方なんですよ、柏崎くん」
「俺?」
「ふふ、ご自分の実力を分かっていない。獅子王さんに次ぐ、速度で初心ダンジョンを制覇し東京の数々のダンジョンを攻略しつつある。体育祭でも目覚ましい活躍を見せていましたからね」
楽しそうに命の事を称えている。安藤には一角獣ギルドを紹介してもらったりと付き合いも長いがまさか新聞部から注目されているとは思っていなかった。
「時計塔ダンジョンの一階層と二階層を踏破したと言う事実が表に出れば部活の勧誘が止まらないでしょうねー」
「止めてくださいとっても記事にするんでしょ」
「それは当然です。これで飯を食っているようなものですから」
公私混同はしない人物でいくら命と付き合いがあろうが新聞部の部長という立場にありスクープは見逃せない。まぁ、事前に知らせてくれているのだから他のゴシップ好きな新聞部員よりは誠実だと言える。
「どうでしたか?時計塔ダンジョンは」
「下手すれば死んでたかもしれなかったですと」
「ほぅ、柏崎くんの力を持ってしてでもですか」
安藤は思わず目を細める。探索者学校において命の事を高く評価しているのは宍戸や樋口達、友人を除けば篠原と安藤くらいであり他の生徒はサモナーという奇妙な職業である命の事を下に見ている者も多く彼を軽んじている風潮まであるくらいだ。
しかし、安藤は篠原に次いで命の才能を見出しておりいち早く接触した。いずれ彼が大成すると見込んでの事であり彼の情報を集める為に自身が長年築き上げた情報網を駆使して情報を集めてその予想が確信であったことが確かとなり定期的に命に取材を称して交流している。
「それよりもオークションに参加したとの事ですが、掘り出し物は見つかりました?」
「安藤先輩には敵いませんね……」
そういって命は安藤に中指に嵌めている指輪を見せる。安藤の眼鏡が一瞬、光り鑑定のスキルが発動される。
「ランク不明……そこそこの情報は扱っていますが見たことありませんね」
「安藤先輩でも知らないですか……」
安藤は探索者の情報だけでなくダンジョンやアイテムの情報を扱っているもののランク不明のアイテムなど見たことがなく皆目見当が付かない。しかし、命の表情を見るにかなり有用であることは理解できる。
「掘り出し物を得られたようですね」
「えぇ。多分、外すことは無いと思います」
メイン装備の1つとして確定しておりこれのお陰でどれだけ戦力が向上したか分からない。それから安藤の取材に応じで時計塔ダンジョンでの話をして安藤からも色々と情報を提供してもらいお互いに益のある話し合いが出来た。
「それでは良い夜を」
そういって安藤は颯爽と去っていき、命は部屋でバトラーの淹れた珈琲でも飲もうかと食堂を後にして部屋へと戻る。探索者を目的としているため寝室の質はよく別荘や寮の部屋とは比べ物にはならないが一日寝るだけなら十分でありバトラーの珈琲の飲み少し、読書すると眠りにつく。
端末に金倉が完成したよーと送ってきているのに気付かずに眠ってしまう。




