第四十四話
もう少し、潜ってもいいのだが両親に長く留守にするという事を伝えていないことに気付いて仕方なくではあるが帰宅して明日も潜ろうと考えていると学校に支給された端末が震えており相手は獅子王となっている。
「もしもし?」
『良かった。繋がって』
「流石に電波が届かない田舎に住んでいないさ」
軽く雑談をすると早速、本題に入る。
『イギリスの別荘に行くことになって良かったら友達を誘ってみたらって、お母さんが』
「別荘まで持ってるのか……」
『お兄ちゃんのだけどね』
流石は世界一の探索者。獅子王の話では日本のダンジョンを粗方、制覇した獅子王誠は海外遠征で世界中を飛び回っており各地に別荘を保有しているらしい。流石にスケールが違う。
「誘ってくれるのは嬉しいけど……いいのかい?」
『是非来てくれってお母さんやお父さんも』
「そこまで言ってくれるなら喜んで参加させてもらうよ」
『どうせだったら柏崎くんの友人も一緒でいいよ』
「本当かい?なら、何人か誘ってみるよ」
暇そうにしている人間に何人か心当たりがあるので誘ってみることにする。獅子王との通話を切って早速、何人かに連絡を取る。
宍戸、樋口は是非行きたいと言ってくれたが新道寺は姉に連れられて海外に居るらしく残念そうにしており金倉は師匠と修行の旅に出ており連絡が付かず、那須は実家の仕事を手伝わなければならないと断られた。
結局、宍戸と樋口の二人だけが捕まり獅子王から詳しい連絡が付いて東京で待っていると言う話であり一際目を引いたのがイギリスでダンジョンに潜れる許可を兄が取ってくれたという話であり装備も一緒に持ってきてほしいとのことでテンションが上がる。宍戸や樋口は海外に行ってまでダンジョンかよと愚痴っているがダンジョン好きな命からしたら興奮する。
「楽しみが増えたな」
退屈な夏休みになると思っていたが海外のダンジョンに挑むことが出来るとは思ってもみず準備を整えなければならない。まずは装備品の整理からで持っていくべきものとそうでないものを分ける作業から始めなければならない。
丁度、装備品を整理しなくてはならないと思っていた所であり今、持っている装備を並べる。
「こう見てみると圧巻だな」
これでも使わなくなったものは商店に売っており数は減っているのだが全てを持ち歩くには困難な量である。
装備品だけでなく装飾品だけでも結構な量であり召喚モンスターに装備させているものもあるがどれもかなりの品で万が一にも盗まれてはならないものである為、空間魔法、盗難防止の魔法が施されているアタッシュケースに保管している。
かなりの値段で今までの稼ぎの殆どを費やしたがそれだけの価値があるもので装備の殆どがこのアタッシュケースに収まりわざわざ郵送する手間も省けて一石二鳥で明らかに快適になった。
「おっと、そろそろ寝ないとな。明日は早いから」
それから両親に海外に行くことを伝えるとお土産よろしくと快く送り出してくれて命は三度目となる長距離転移で東京へと到着し適当にタクシーを捕まえて羽田空港へと向かう。
東京は夏休み期間に入っているからか人でごった返しており多くの探索者の姿が見える。
「兄ちゃんも探索者かい?」
「そうですよ」
「へぇ!若いってのに大したもんだ!」
陽気な運転手のおじさんはかなり長い間、タクシー運転手を務めているらしく多くの探索者を乗せたことがあるらしい。時には右腕が切断しかかっている探索者を乗せたことがあるらしくかなりの修羅場を経験している様だ。
楽しい話を続けているとあっという間に目的地に到着して頑張りなよと飴をくれた。
「柏崎くん!こっちこっち!」
空港に入るとキャリーケースを抱えた樋口と宍戸の姿があり近づくと宍戸は派手な柄物のアロハシャツを着ており樋口は清楚な白のワンピースで凄い組み合わせだ。獅子王は重要な手続きを先に済ませてくれている様で少しするとやってきた。
「はい。これが皆のチケットね」
「飛行機に乗るとは初めてだぜ!日本じゃポータルがあるからなー」
日本は世界で初めて長距離間転移を可能とした転移魔法のスペシャリストであり国の至る所に長距離転移を可能としているポータルを設置しており今までは飛行機で移動していた距離をポータルで楽々、行けるようになり大国であるアメリカでも日本には一歩及ばないほど技術力が離れている。
「本当ならプライベートジェットで行きたかったんだけど……」
「いやいや!飛行機で十分だって!好意でファーストクラスを用意してくれたんだから!」
小市民な命達にはプライベートジェットなんて想像すらつかないもので飛行機のチケットも出してもらっているのだから文句は言えない。
それから準備を終えて空の彼方へと飛び立つ。初めてのファーストクラスに宍戸は大興奮と言った様子であるが直ぐに眠ってしまい樋口は何やら編み物をやっており隣の席の獅子王はそれを興味深そうに見ている。
命はというとイギリスのダンジョンについて纏めた資料に再び、目を通している。
「イギリスのダンジョンって言ったら【時計塔ダンジョン】だよな」
階層型のダンジョンであり一階層目からAランクのモンスターが現れると言う高難易度ダンジョンである事が知られており強力な魔法を操るモンスターが多くを占めておりモンスターが落とす魔石から作られる素材は魔法使いにとって有用なものであり命の師匠である朝比奈の杖も時計塔ダンジョンのレアドロップから作られたものだと聞いたことがある。
「此処がイギリスかー!異国の匂いがするぜ!」
一人ではしゃいでいる宍戸と他人の振りをしながら空港を出ると獅子王に似た金髪碧眼の男性がこちらに向かってきて人の良さそうな笑みを浮かべている。
「初めまして。琴乃の父の信二って言います。ようこそ、イギリスに」
獅子王信二。剣王 獅子王誠の父親でありダンジョン黎明期に第一線で活躍していた探索者で既に一線を退いていると言うのに纏っている魔力の質は凄まじいものであり差し出された手を握ると巌の様に固く優し気な甘いマスクとはかけ離れた激しい戦闘の経験を感じさせる。
「君たちの事は智和から聞いているよ。優秀な生徒だってね」
「智和って言うと、陣内先生が?」
「あぁ、あいつとは現役時代に一緒にパーティーを組んでたからね。今でも付き合いがあるんだ」
その若々しい見た目とは裏腹に色んな修羅場を潜り抜けているらしい。さぁ、乗ってと見るからに高級車に乗せられてロンドン市内を進んでいき少し、街中から外れた場所に別荘が見えてきて市内から離れているとはいえこれだけの豪邸を別荘として持っていると言うのは驚きであり獅子王の話ではここも世界中にある別荘の1つだと言うのだから凄まじい。
「あらあら、良く来てくれました」
扉を開けると多くの使用人を従えた貴婦人が出迎えてくれる。二児の母とは思えない若々しい美貌で日本人離れした美しい容姿の持ち主で見事なまでも金髪碧眼で探索者とは違ったオーラを持った人物だ。
「本日はお招きいただきありがとうございます」
「そんな固くならないで頂戴。娘の友人とお会いできるのを楽しみにしておりましたのよ?」
一挙手一投足が優雅でまるで貴族の様な人で今まで会ったことのない人物に戸惑うながらもそれを表に出さないだけの処世術を有しており宍戸なんかは別荘のあまりの豪華さと多くの使用人たちに戸惑っている様子であり使い物にならず樋口もこういったことは慣れていないのかあわあわとしており代表として命が対応するしかない。
「ふふ、探索者として上へ上り詰めて行けばパーティーに誘われることも少なくないわ。今のうちに慣れておいた方がよろしいわよ?」
「ご指導ありがとうございます」
「素直なのはいいことよ。さぁ、部屋に案内させるわ」
使用人に客室へと案内される。寮の部屋よりも豪華なものであり流石に落ち着かず装備が入ったアタッシュケースと着替え等が入ったキャリーケースを置くと柔らかそうなソファーに腰掛ける。まるで吸い込まれるような感触でネットでゴールデンシープの毛皮を使ったソファーがあるととんでもない値段で並んでいたのを見た覚えがありそれがこんな見た目だったなと思い出して思わず立ち上がろうと思うが吸い込むような感触のソファーが放してくれない。
「一時期、流行った人をダメにするクッションみたいだな……」
それよりも強烈であり冬場のこたつくらい離れがたい者であったが仮にも人の家で寛ぎすぎるのもどうかと思ったので離れるとノックされて食事の準備が出来ているとわざわざ知らせてくれた。
食堂には美しいシャンデリアが天井にあり並べられている食器も美しい調度品ばかりで宍戸と樋口は案の定、緊張でブルブルと震えてしまっており。
「も、もし落としたりしたら……!」
「お、お母さん……何でマナーとか教えてくれなかったの!」
「はは!そんな緊張しなくても大丈夫さ。気楽に食べておくれ」
緊張する二人を見ておおらかに笑っており獅子王なんかはマイペースに食事を始めており改めてテーブルを見ると贅を凝らしたフレンチ料理が並んでおり一流のシェフが作ったであろうことは明白だった。命もマナーはあまり分からないがナイフとフォークの扱いくらいは分かり食べ始めると衝撃が走る。
「美味しいだろ?うちのシェフは料理のスキルを持った者で構成されているからな」
何という贅沢さだろうか。確かに料理スキルを持つものとそうでないものは天と地と言っていいほどの差があるのだが料理スキルはレアスキル扱いされるほど持っている者が少ないスキルでありそれを何人も抱えているとは流石、獅子王誠の両親だ。
確かに美味しかったが使われている食器があまりにも豪華なもので傷つけないようにと気を遣ってしまい食事を楽しめなかった。食事を終えるとお茶が出される。
「君たちも探索者なのだからわざわざ、イギリスまで来たのだからダンジョンに潜りたいことだろう。使用人に言ってくれればダンジョンまで遅らせるから自由にしてもらって構わない」
そう言うと信二は妻を連れて食堂から出ていく。わざわざ、送ってくれると言うのだからそれに甘えることにしよう。




