第三十話
時間はあっという間に過ぎて夏季演習の日となり一年生の全員が講堂に集められる。床には複雑な魔法陣が刻まれた絨毯が敷かれており天職に儀式の時にあった物と似たような感じでどんな魔法が込められているかは複雑過ぎて分からない。
「よっ。遂に夏季演習だな」
宍戸が声を掛けてくれた。会うのは随分と久しぶりでアインとの手合わせに負けた宍戸は今度は負けないとパーティーメンバーの尻を叩いてダンジョンに潜っていてかなりの日数をダンジョンで過ごし学校に来ている様子はなかった。
「にしても酷いよなー。武器は良いけど防具の使用は禁止だってよ」
生徒は体操服以外着ないようにとの通達で無人島でモンスターとの区別をつけるためという理由であるが重戦士の宍戸からしたらかなりの痛手だろう。命も装備が使えないのは痛いが召喚モンスターがいるのでましな方ではある。
「お、校長だぜ」
壇上に校長の車田が立ち、軽く挨拶をして本題に入る。
「夏季演習に参加するという事は相応の覚悟を持って臨んでいることだろう。最低限命だけは保証するがそれ以外は君たちの手で生き抜かなければならない」
厳しい言葉だがその覚悟がなければ生き抜けないほど過酷な環境でクラスの中でも恐れて辞退したものも少なくない。この場にいるものはその覚悟を持ったものたちという事でその表情には闘志が宿っている。
「君たちの検討に期待する。では、夏季演習の開始を宣言する」
生徒達の乗る絨毯の魔法陣が輝き始めて一人、一人と姿が消えていく。高位の魔法使いの中でも限られて者しか使えないと言う転移魔法で生徒の姿が消えていくのを見守っていたら浮遊感を感じて視界が輝き、目を開いて現れた光景は木々が生い茂った自然の中で無人島に転移させられたのだと分かる。
「召喚」
アイン達を召喚して周囲を警戒する。ここは敵地であり安心できる場所ではなく周囲にモンスターの気配が多く存在しておりフォボスも警戒している。
オーガ
スキル
剛力、魔法耐性
よりにもよって魔法耐性を持つオーガであり新道寺が相手したと言うハイオーガでないだけ有難いが十分厄介な相手と言える。オーガの厄介さはアヴァリスで十分分かっておりその剛力を思う存分に振るわれたら溜まったものではない。
「カタカタ」
先陣を切ったのは閃光のスキルを使ってオーガ達の前に瞬間移動したアインで雷を纏った剣閃がオーガの胴体を真っ二つにしてもう一体のオーガにも一撃食らわせて劇毒をお見舞いする。アインに続いてブランとフォボスが追いついてオーガの眼球や喉元に噛みつきあっという間にオーガを制圧する。
「レベルアップはしないか……まぁ、格下のモンスターだしな」
厄介なモンスターではあるもののアイン達からしたら格上であの程度の数なら余裕で対処できるがあれ以上の数で来られると面倒でオーガは魔法耐性があるので命の魔法も効きにくい。まずは七日間生活するための生活拠点が必要で周囲を散策することにする。
まず必要なのは水の確保で命が水魔法で作ってもいいのだがいつモンスターが襲ってくるか分からないので魔力は温存するべきで川を探すべきでフォボスに探してもらう。フォボスは周囲を嗅ぎまわり命を案内してくれる。
「あった。お手柄だな」
「ヴァン!」
フォボスを撫でてやるとご機嫌な様子で一応、川の水が飲めるか確認したが問題ないようでこの川の近くに拠点を作るとしよう。命は大地魔法で周囲の土を固めて簡単な小屋を作り出す。寝れればいいのでそんなに拘らず最低限なもので拠点の安全を確保する為にフラウに結界を貼ってもらう。
「さて、周囲を散策するか」
このまま小屋に籠って七日間過ごすと言うのはあまりに勿体ないと言うもので森の中を進んでいく。一角獣ギルドのダンジョンで感じたような草木にも魔力が宿っておりこんな無人島を良く見つけたなと考えると矢が飛来してきてアインがそれを防いでくれる。
ケンタウロス
スキル
弓術、疾走、風属性
半人半馬のモンスターがこちらに矢を番えている。風属性が付与された矢は脅威でそれが四方から飛来してくる。木々が生い茂る森の中を縦横無尽に駆け回りこちらに矢を放ってくるのでアインは命に付きっ切りでフォボスとブランが森の中をスイスイと進んでいきケンタウロスに迫っていく。
フラウが雷魔法でエンチャントを施しておりフォボス達の動きは高速そのものでケンタウロスに思いっきり噛みつき肉を抉る。ブランはバットステータスを与えて前後不覚となっている所に容赦なく顔面に爪を振るい視界を封じる。こんな入り組んだ地形ではアヴァリスの巨体は生かしきれず命はアヴァリスを送還してノワールを召喚する。
「フリィー!」
「ヤ!」
フラウの雷魔法とノワールの闇魔法がケンタウロスに放たれて地形を上手く利用されて防がれる。地の利はあちらにあり思うように戦わせてもらえない。ならば無理矢理にでも近接戦に持ち込むしかない。
ノワールがアインの肩に触り光が二人の体を包み閃光のスキルが発動されてケンタウロスの目の前に躍り出る。思った通り接触していれば複数人でも使用できるアインの刃とノワールの杖が容赦なくケンタウロスを襲い距離を取ろうとするケンタウロスをフォボス達が封じる。
「マッド・フィールド+アース・ランス」
広範囲を沼地へと変えてケンタウロスを動きを封じて地面から槍が生えてきてケンタウロスに突き刺さる。かなりの魔力が消費するもののこれ以上、ケンタウロスを好き放題させられない。
《スキルレベルがアップしました。召喚モンスターのレベルがアップしました》
柏崎命
スキル
鑑定11→12、人魔一体4→5、統率4→5
ブラン
ハンターオウル
レベル9→10
スキル
石化New!
フラウ
ハイピクシー
レベル9→10
闇魔法→暗黒魔法New!
フォボス
フロストウルフ
レベル9→10
風属性→雷属性New!
ノワール
レッサーデーモン
レベル10→11
ケンタウロスの一例からこの環境に適応したモンスターが出現するようで奴らのフィールドで戦わなくてはならずこちらも相応のパーティーを組まなければならない。フラウからシャインに変更して高速戦闘を可能とするパーティーを組む。
「森を抜けたな」
進んでいくと森から出て雄大な草原が広がっている。この無人島はかなりの広さがあるようで狩りをしている生徒の姿が見える。草原には狼や兎と言った普通のモンスターに加えて先程のケンタウロスや威圧感を発している虎など様々な種類のモンスターが生息している様だ。
「今日分の食糧を手に入れないと」
探索者は長くダンジョンに潜ると当然、食糧にも限りがありその場合どうするのかというと魔物を食らう。意外と手間が掛かるが魔石を残して消えてしまうモンスターの死体を残す方法というものがあり学校でも必修として教えられている。その死体を使って装備を作ればいいのではないかと考える者も居るが魔石で作られたものよりも格段に下であり魔石産の装備を使うものが主流とされている。
「丁度いいのがいるな。今日は兎肉だ」
バトラーならちゃんと料理してくれるだろう。警戒心の薄い兎の体を大地魔法で貫き力なく倒れる。命はすぐさま側に行き兎の体の中を探って魔石を取り出してそれを砕くと本来霧散するはずの兎の体がそのまま残る。探索者にとって魔石は稼ぎであり装備に使うものであり魔石を砕くなんて考えられないことだが背に腹は代えられない。
「世の中、ドラゴンステーキなんてもんもあるんだからな」
ドラゴンの魔石を砕いてその肉を食用にとするような世の中でありモンスター食は珍しいものではなくテイマー職の探索者が食用にとモンスターを育てている位でありモンスターのランクが高いほど味は良く学校の食堂に並んでいるのも良く見る。
それからある程度の兎を狩って死体を解体してから拠点に帰ってバトラーに調理してしまう。シンプルな塩焼きであるが料理スキルを持つバトラーが作ったものは高級店の様な仕上がりでフォボスやブランも食いたがるので少し分けて食べさせてやる。
「よし、行くか」
草原の様子も確認しておきたいし腹ごなしも出来たので出発する。草原まであっという間でケンタウロスに襲われることはなかった。しかし、妙でありあれだけ念を押されて過酷な環境だと言われていたと言うのに少し、苦労する位の強さでありどうも可笑しい。別のからくりでもあるのだろうか。
ウルフリーダー
スキル
雄たけび、統率、連携
やってきたのは狼の群れで世田谷ダンジョンで戦った個体よりも上位のモンスターでこちらに目掛けて襲い掛かってくる。スキルで強化されているのか結構な速さでありリーダーである命に狙いを定めてやってくるがそれを許す、アインではない。
挑発で狼のヘイトを一心に背負いアインに向かってくる狼たちにノワールとシャインがそれぞれ魔法を放つ。アインにばかり注目している狼たちにそれを防ぐことは出来ずまともに魔法を受けてしまうノワールとシャインはそれぞれの翼をはためかせて高速で移動する。
「エンチャント・フレイム・ウォーター・アース・ダークネス」
四重エンチャントをノワールとシャインに掛けて二匹は相反するモンスターであるのだが息の合った連携で命の人魔一体の効果がモンスター同士にも反映されているのだと思う。そうでなければ可笑しい動きをしており華麗に戦うシャインと荒々しく戦うノワールはそれぞれの隙を補い合い狼を倒していく。
《召喚モンスターのレベルがアップしました》
ノワール
レッサーデーモン
レベル11→12
シャイン
アークエンジェル
レベル10→11
「ノワールとシャインを召喚したのは正解だったな」
高速で移動できて抜群の連携を見せるノワールとシャインの存在は大きな戦力であり危なげなく戦闘を終えることが出来た。それにフォボスやブランも縦横無尽に活躍してくれて命の護衛として側を離れないアインも挑発で狼のヘイトを買ってくれてかなり心強かった。
少し、休憩しているとこちらにモンスターが近づいてくるのをフォボスが察知する。
インペリアルタイガー
獅子吼、爪撃、雷属性
「こんなのも出るのか……」
現れたのは王者の如き気迫を持ったライオンでその威容は普通のモンスターとは隔絶しておりもしかしたらユニークモンスターなのかもしれない。そう、思わせるほどの覇気であり一歩一歩確実に近づいてくる。
「ゴァ!」




