第二十三話
「よくぞ生き残ったわね!まぁ、私が教えてるんだからこの程度のダンジョンはクリアしてもらわないとね!」
ダンジョンから脱出した命を迎えたのはゴスロリ衣装を身に纏った朝比奈の姿であり相変わらず自信満々と言った感じで胸を張っている。待っていたという割にはかなり気合の入った格好で命が知っている限りはこの衣装は彼女がダンジョンに赴く時の衣装だと記憶しておりなんやかんや心配していてくれたのだと分かりほっこりする。
「何よ。その生暖かい目は!」
「ご心配をおかけしたようで」
「生意気ね!また、痛めつけてあげましょうか?」
「それは勘弁です」
執拗に追いかけてくる朝比奈を振り切って食堂に行くとボロボロの新道寺が食事を摂っていた。
「ここにいるって事はダンジョンをクリアしたんだね」
「まだ、1階層だけだけど」
「それでも凄いよ。僕は撤退したから……」
話によれば新道寺が潜ったダンジョンは強力な魔法耐性を持つハイオーガが生息するダンジョンだったらしく魔法を得意とする新道寺の魔法が通用せず命からがら逃げ延びたという話だ。ただでさえ強いオーガの上位種であるハイオーガのダンジョンとは命でも遠慮しておきたいレベルであり魔法職である新道寺が逃げ切れたのも凄まじい。
「良く逃げれたな」
「やられそうになった所で桐生さんに助けられたからね。情けないけど……」
「命あっての物種だろ?そう、自分を責めることないさ」
「柏崎くん……」
やはり命と同じでもしも、何かあった時の為に指導役がダンジョンの前で待機していたようでそれで新道寺も助かったのだろう。それから新道寺と食事をしていると疲れた様子の樋口もやってきて一緒に食事を摂る。
「もう、へとへと!魔力が尽きるまでこき使われたんだから!」
樋口は神官職という特殊な職業から命達よりも上位のダンジョンに挑まされていたようで単独で潜った訳ではなく護衛としてパーティーを組んでおり体力を気にせず戦うパーティーメンバーを必死に回復してかなり苦労させられたようだ。命達よりも上位のダンジョンということは出てくるモンスターも格段に強いモンスターの筈で同行しているパーティーが一流の探索者ばかりだとは言えプレッシャーは半端ないものでかなりのストレスだったのかガツガツと大食いをしている。
「この後はダンジョンについて勉強何ですって。伊織教官が教えてくれたわ」
「ダンジョンに潜ったのに勉強?変だな」
「まぁ、天下の一角獣ギルドなんだから意味があるんだろう」
普通ならば十分にダンジョンについて勉強してからダンジョンに挑むものだが実際は出現するモンスターの大まかな情報が書かれた書類を渡されただけで今更、勉強というのも可笑しな話だが一角獣ギルドともあろうものが無駄なことをするとは思えない。
そして再び、会議室に案内されてそれぞれの指導役と副ギルド長の愛染まで同席している。意外と大事になっている。
「かけたまえ」
促されて椅子に座る。大きなディスプレイには命達、それぞれのダンジョンでの様子が映し出されておりダンジョンのあちこちに監視カメラでもあったのかかなり鮮明に映し出されており彼らに見せれるレベルとは思えず少しだけ気恥ずかしさを感じる。
「新道寺くんは残念だったが即座に撤退を判断し行動したのは評価に値する」
「ありがとうございます」
ディスプレイにはハイオーガと戦う新道寺の姿があり召喚モンスターの居ない命では生き残れそうにない戦場でこの状況下で逃げ延びた新道寺はやはり凄い。新道寺桜の弟というだけでは片づけられない才能であり命では魔法使いの天敵の様なハイオーガとあそこまで渡り合えない。
「樋口くんも素晴らしい働きだった。一角獣ギルドに所属している神官でも君の様な活躍は出来なかっただろう」
それだけ樋口の神官としての腕前は学生離れしているという事で命から教わったエンチャントも十分に活躍しているようで教えた本人としても鼻が高い。神官の奥の手と言われている蘇生魔法を行使できる樋口は今すぐ一角獣ギルドにスカウトしろと伊織が声高々に行っているらしいが命達は知る由もない。
「最後に柏崎くん。探索者になったばかりだというのにAランクのモンスターを倒したとは驚かされた。サモナーという希少な職業の可能性を見せられた気分だ」
本来ならば新道寺と同様、ランクの高いダンジョンに挑ませてダンジョンの現実を教えるつもりだったのだが命は見事に1階層を踏破しており並の探索者では歯が立たないAランクのボスを倒しており体育祭で見た時よりも遥かに成長しているのを感じる。
愛染が驚かされたのは命が使役しているモンスターの強さであり低く見積もってもAランクの実力を持ったモンスターを五体も使役しておりそれらを意のままに操るのはS級探索者の篠原渚を彷彿とさせられ最初は彼女に師事しているのではないかと疑ったものだ。
「皆、素晴らしい成果を見せてくれた。この調子で励んでほしい」
そう言って愛染は会議室から去っていきそれぞれの指導役が近づいてきてダンジョンでの反省点を説明してくれる。
「私が教えただけあって大地魔法はそこそこだけど何よ!あのぺっぽこな火魔法と闇魔法は!?」
「いやぁ、鍛えている途中でして……」
「言い訳無用!ダンジョンから出たんだからビシバシ指導するんだからね!」
朝比奈からしたら大地魔法以外は落第点らしくまた、あの地獄の様な訓練があるのかと億劫になるがこれも強くなるためだと自分を奮い立たせる。それから朝比奈は命の此処が駄目だったと細かくダメ押しをし普通ならば己の不備を指摘されて嫌な気分になるものだが命は朝比奈が自分の事を思って言ってくれていることを理解しており嫌な気分にはならない。
「折角、ご両親譲りの高い魔力があるんだからあの程度のモンスター位、ささっとやれるようにならないとー」
「あの、ハイオーガは強い魔法耐性があって……」
「そうだっけ?多重魔法でも使えばなんとかなると思うけど?」
「多重魔法を使うには時間が掛かるので前衛がいないとなんとも……」
新道寺はかなり詰められている様で助け舟を出してやりたいが朝比奈がそれを許すとは思えず心の中で頑張れと応援するに留める。
「君の治癒スキルは既に一級の領域にある。これからは状況に応じて治癒を掛けていくことを覚えなくてはな」
「はい!頑張ります!」
詰められている新道寺とは裏腹に樋口はとても評価されており気難しそうな伊織も樋口の前では形無しで表情も柔らかい。相変わらず距離を詰めるのが得意だなと思い誰にでもこうやって接するから学校で大きなファンクラブができるんだと感心してしまう。
新道寺や樋口の事ばかりを気にしている場合ではなく朝比奈の指摘に耳を傾ける。朝比奈の指摘は長年探索者を続けている彼女だからできる的確なものでどれもが命では思いつかないものばかりで聞く価値のあるものばかりで命が成長していくのに必要なものばかりだ。
「にしてもあのハイピクシーはかなり良いわね!魔法の使い方をちゃんと分かってるしちゃんと状況が見れてる。それにとっても可愛い!」
朝比奈はフラウが気に入ったようで意外と可愛いもの好きな一面があるのかフラウの容姿が随分とどストライクであったようで着せ替えさせたいとはしゃいでいる。魔法使いとしてレアな神聖魔法と上位属性である雷魔法を操るフラウはかなりの希少なモンスターで更に闇魔法も使えるようになったのだから戦略の幅も広がっており元々、支援役としてパーティーを支援していたフラウは俯瞰して状況を見ることが得意でダメージを出すようになってもそれは変わっておらず絶妙なタイミングで魔法を行使している。
「でも、一番はあのスケルトンよね。よくもまぁあれだけのモンスターを使役出てるわね」
「自慢の相棒ですから」
アヴァリスが特別目立っているが朝比奈から見てもアインは命が使役しているモンスターの中でも頭1つ抜けている。Aランクモンスターの攻撃を受けながら碌なダメージを受けることなく攻撃面でも機械の如く性格で戦士職の憧れともいえる剣閃を取得しているタンク役と高い水準で能力が纏まっておりあの様子だと魔法耐性もあるだろうから朝比奈は絶対相手したくないと心から思った。
「あれだけのモンスターを使役しても体育祭優勝出来ないんだから獅子王琴乃は凄まじいわね。流石は獅子王誠の妹だわ」
命の強さは下手なA級探索者よりも優れておりそんな彼をもってしても体育祭優勝は果たすことが出来ず今年の優勝を搔っ攫った獅子王の強さがどれだけ可笑しいかが分かる。朝比奈も優勝は命だろうと思ってみていたら獅子王がダンジョン探索で全てをひっくり返し優勝を手にした。剣閃の熟練度も凄まじくまるで学生時代の獅子王誠を見ているようで朝比奈は同じ学年ではなかったが学生時代の獅子王誠をよく知っているため琴乃の太刀筋に獅子王誠が重なって見えた。
「そんな事より!早く訓練するわよ!」
「ダンジョンから帰ったばかりですよ?」
「うるさい!やるったらやるの!」
ダンジョンに潜ったばかりだというのに朝比奈は命の裾を掴んで無理矢理引っ張る。それから本格的な魔法指導が行われてかなりハードな訓練で嫌でも魔法が鍛えられ、朝比奈は必死に魔法を繰り出す命の事を面白そうに笑っており次々とえげつない魔法を放ってきて命は対応するので精一杯で対応してくる命を面白がって難易度を上げてくる。
《スキルレベルがアップしました》
柏崎命
スキル
闇魔法→暗黒魔法、火魔法11→15、魔法強化20→22、魔力回復18→20、魔力操作22→24、付与術15→17
「ダンジョン終わりなんですから手加減してくださいよ……」
「私の辞書に手加減なんてないわ!」
胸を張っていう事ではない。しかし、過酷な訓練に見合う成果で闇魔法の上位属性である暗黒魔法を手に入れることもできたし火魔法の練度もかなり上がっており朝比奈の性格は兎も角、指導の腕は本物で流石は一角獣ギルドの中でも上位に位置する魔法使いでギルド見学に来てからかなり成長していると思っているのだが背中すら見えないほど実力はかけ離れており手加減はしないと言っているが本気で掛かってこられたら命など一瞬で制圧されるだろう。
訓練が終わり命は新道寺の事など気にする余裕もなく余りの疲労感に泥のように眠った。




