第二十話
今日はギルド見学の日であり生徒はそれぞれ招待されたギルドに行っているようで命は渋谷の一等地に居を構える一角獣ギルドに足を運んでいた。建物はとても大きい高層ビルで一角獣ギルドの力の大きさを感じさせられる。
「柏崎くんもここに招待されたんだ」
「奇遇だね」
「樋口、新道寺も」
見覚えのある面子で彼女達も招待されたらしい。一角獣ギルドは世界最強の魔導士である新道寺桜がギルドマスターを務めておりギルドメンバーも魔法職が多いという話を聞いており一年生の中でもかなりの実力を誇る新道寺と稀有な神聖魔法の使い手である樋口が招待されるのは納得だ。
「皆様、ようこそおいでくださいました。ギルドのご案内をさせていただく的場と申します」
ギルドの中に入ると命達を待っていたのかぴっしりとスーツを身に纏ったいぶし銀な男性が立っており学生に過ぎない命達に恭しくお辞儀する。立ち振る舞いを見るだけでも命よりも格上の探索者であることが分かりこんな実力者を案内人を任せるとは一角獣ギルドの底の深さを感じさせられる。
「では、ご案内します」
そう言って的場に案内される。新築同然の様な綺麗な内装で掃除が行き届いている証拠でありギルドの人から視線を感じ注目されている。案内された先は会議室でありそこには名の知れた探索者が座っている。一角獣ギルドの副ギルド長として知られる炎雷の異名で知られる愛染克己。
「ようこそ、一角獣ギルドへ。ギルド長に変わり君たちを歓迎しよう」
風格のある人物でただそこに座っているだけで他者を威圧するオーラの様なものを発しており只者でないのが分かる。流石はA級探索者で海外のダンジョンに遠征しているギルド長に変わりギルド本部を任されているだけはある。
「我々、一角獣ギルドは探索者の最先端を歩くものとして才能あるもののサポートは惜しみなくするつもりだ。ギルドに入らなくてもそれは関係のないことだ」
一角獣ギルドがここまで大きくなったのは今回の様に才能のある探索者の卵を見出し彼らを導き一人前の探索者とすることで大きな影響力を持つようになった。才あるものを見抜くしっかりとした目を持っており一角獣ギルドに支援されたものは必ず大成するとまで言われるくらい彼らの観察眼は素晴らしい。
「一流の講師を用意した。彼らに学んで是非とも力を付けてくれ。私からは以上だ」
そう言い残して愛染は去っていき的場が命達をギルドに併設された訓練場へと案内してくれる。
訓練場に居たのはこれまた大物ばかりで要塞の異名で知られる朝比奈瑠璃に数少ない神聖魔法の使い手でありアンデットの天敵と呼ばれる伊織信也。そして新道寺桜の弟子として有名を馳せる流星の名で知られる桐生千早。皆、現役のA級探索者で副ギルド長である愛染にも負けない実力者ばかりで学生に過ぎない命達の指導役にするには大物過ぎるものばかりだ。
「副ギルド長のお願いだから仕方なく来たけど冴えない連中ねー」
「口を慎め、朝比奈。一角獣ギルドの品位が下がる」
「あら、貴方もそう思ってるはずよ。伊織」
何やら険悪なムードで今にも殴り合いそうな雰囲気であり睨みあう彼らを他所に桐生が命達に近づいてくる。
「ごめんね。あの二人はとっても仲が悪くて顔を合わせたら何時もあんな感じなんだ」
あの二人の仲の悪さは業界では有名であり何時も殺しあいそうなくらい険悪な関係であるが一度、手を取り合えばとてつもない活躍を見せておりそんな彼女らを纏められるのが副ギルド長である愛染であり彼の命令でもなければ彼女たちほどの探索者が指導役など引き受けないかったろう。
「若もお久しぶりです。随分と成長されたみたいで」
「若はやめてくださいよ。学校の生徒としてやってきたんですから」
新道寺と気安く話しており聞くところによると昔から世話になっていたようで新道寺も探索者になる前から一角獣ギルドで鍛えられていたようでギルドメンバーである彼らとは面識があるようだ。
「二人ともつまらない言い争いしてないで指導を始めるわよ」
「覚えてなさいよ!」
「こちらのセリフだ」
桐生の言葉には従うようで二人よりも桐生の方が格上でありこれほどの魔法職は早々居らず新道寺桜の弟子というのも納得である。それからそれぞれ担当の指導役と別れて命は見るからに面倒くさそうにしている朝比奈に師事することになっている。爪を弄ったりと明らかにやる気がなく実力があるからと少し、傲慢な人物で命自身あまりいい気はしないが教えを乞う立場なので我慢する。
「体育祭の映像、見せてもらったけど魔力コントロールは大したものね。あの様子だと魔力操作のスキルも持ってるみたいだけどでも、それ以外が全然なってないわ」
指を鳴らし詠唱もしていないのに岩の槍が一斉に命に襲い掛かり反応する事すら出来ず首元で槍が止まる。一瞬の出来事で朝比奈は不敵に笑い命の事を指さす。
「魔法職はいかに早く魔法を繰り出すか。魔力コントロールが良くても魔法が繰り出せないんじゃダンジョンにではお荷物よ」
高等技術の中でも更に困難だと言われている詠唱破棄。威力が減衰する代わりに詠唱を無視して魔法を行使するというものだが先程の魔法は威力が減衰されたとは到底思えないものでありA級探索者となれば減衰してもこの威力なのか何かからくりがありそうだ。
「魔法はイメージだとか言う奴もいるけど魔法職に必要なのは魔力!それがなければどんな工夫をした所で結局無駄なのよ」
思わず息を飲む。魔法職とはイメージだとかの工夫や知識で戦うものではなく魔力が重要だと語る。魔力は一時的に増やすことは出来てもその最大量を増やすことはクラスチェンジをするしかなくそれもかなりの運であり魔力は生まれ持った才能だというものもいる。
幸いにも命の魔力はかなりのものであり天上とまではいかないがそれでも魔法職として優れている部類であり魔力回復というレアスキルも持っていることから早々、魔力が尽きることはない。
「アンタにはこの短い期間で詠唱破棄と無言詠唱を覚えてもらうつもりだからそのつもりでいなさいよ」
「無言詠唱もですか!?」
「当り前じゃない。それを持って初めて上で戦えるのよ」
無言詠唱は詠唱破棄に並んで高難易度だと言われている技術で詠唱を消し魔法名も隠蔽することができ無言詠唱は詠唱破棄と合わせて使うことで真価を発揮するスキルであり無言詠唱のデメリットである長い詠唱を詠唱破棄でそのデメリットを打ち消すという離れ業でA級探索者はただでさえ難しいスキルを同時に使いこなすというのだから驚きであり朝比奈はそれを命にやれという。
「やりましょう。今すぐ」
「へ?」
朝比奈自身、やれるとは思っておらず無謀な挑戦をさせられて無理ですと泣き出すものだと思っていたが命は毅然とした態度で朝比奈の事を見つめており本気なのだと伝わってくる。そのやる気がいつまで続くか見物だ。
「ふぅ。こんなものか」
《スキルレベルがアップしました。》
柏崎命
魔力操作12→18、無言詠唱New!、詠唱破棄New!
サモナーという特殊な職業である命の本領は成長する召喚モンスター達であり命本人の実力は召喚モンスターに比べて劣るものだと誰もが思う。しかし、朝比奈は目の前の光景が信じられずにいた。
詠唱破棄も無言詠唱も簡単に取得できるものではなく朝比奈自身も数か月もの長い時を掛けてやっと手に入れたものであり命もそれくらいは掛かるだろうと思っていたが命はたった数時間であっさりと取得してしまい高難易度である詠唱破棄と無言詠唱の併用にも成功している。
まさに才能の暴力。朝比奈も天才魔法使いとして探索者として脚光を浴び数々のダンジョンを踏破してきて自分は無敵だと思っていた時期があった。そんな中出会ったのが新道寺桜で今までの価値観が壊れるほどの衝撃を受けてあまりの才能の差に愕然としたものだ。
「アンタ。一体何者よ」
体育祭ではあの新道寺桜の弟である和人を破り魔法競技で優勝しており只者ではないとは思っていたがこれほどまでの才能を秘めているとは思わなかった。
もしや高名な探索者の息子なのかと調べてみたが柏崎なんて名前の探索者など居らず新道寺桜の様に一般の家庭から生まれた突然変異だとでもいうのか。
「サモナーですよ。モンスターの影でこそこそする臆病者です」
「悪い冗談ね」
事実、命は召喚モンスターがいなければダンジョンを踏破するどころか探索すら出来ないと自負しており朝比奈はあんな出鱈目の才能を持ちながら本領はモンスターを従えることだと聞いてまるで悪夢のような気持ちだ。しかも彼はまだまだ伸びしろがあるように感じて愛染がわざわざ自分を指名した理由が分かった。舐めていたら食われるのはこちらの方であり全力で臨まなければならない。
「私の異名は【要塞】!何故か分かる!?」
「ダメージを一切通さない強力な大地魔法が由来と聞きました」
「そう!つまり私は大地魔法のスペシャリストっていう訳。取得したばかりのあんたのへなちょこな大地魔法とは比べ物にならないんだから!」
命が新たに手に入れた大地魔法は強力であるがそれを十全に使いこなせているかと言われたら疑問が残る。命の魔法は授業を受けているとはいえ殆ど独学で朝比奈からしたら雛から孵ったばかりの赤子の様なものである。いかに才能に恵まれたとしても魔法というのは経験がものをいう。
「アナタに叩き込んであげるわ。大地魔法の真髄をね」
それからはまるで地獄の様な時間だった。魔力を消費することに大した抵抗力を持っていなかった命であったが朝比奈は命の魔力が尽きるギリギリを見定めて魔力を回復させて再び、魔力を限界まで絞り出させるという鬼畜の所業でこればかりは流石の命も根を上げそうになったが成長に繋がるのだからと必死の思いで耐え抜いた。
《スキルレベルがアップしました》
柏崎命
スキル
大地魔法3→10、魔法強化14→18、魔力操作18→20、魔力回復11→15、詠唱破棄1→3、無言詠唱1→3
「これでちょっとはマシになったわね!」
偉い成長ぶりで地獄の様な特訓を耐え抜いた甲斐があった。二度とやりたくないと思わせるほど過酷なもので朝比奈が地獄の極卒の様に見えたくらいでありとうの本人はふんすと満足げな様子。




