第十九話
「よう!久しぶりだな!」
「久しぶりって。三日ほど来てなかっただけだよ?」
「それでも久しぶりなのには変わりないって!」
学校に登校すると宍戸が暑苦しく迎えてくれる。教室を見渡すと獅子王の姿はなく命の様にダンジョン探索を行っているようで欠席している。宍戸と他愛のない話をしていると情報通な宍戸が命が不在な間、学校で何が起こっていたのかを教えてくれる。
小林のパーティーが四階層を踏破して五階層に挑戦していることや樋口のパーティーも四階層を踏破したとのことで着々と初心ダンジョンクリアに向けて動き始めておりその他には那須が通常よりも効能の高いポーションの開発に成功しておりそのレシピを売り出すことで莫大な資産を手に入れたのだという。
「へぇ、那須が」
優秀な薬師だとは思っていたが新たなレシピを開発するまでとは思っても居らず宍戸の話では学校外の者も那須のレシピを求めて殺到しているらしくそういえば金倉が最近大変なんだよと連絡してくれたのを思い出しこれが原因かと思い至る。金倉も那須も学生の域を超えている腕前を持った生産者で近くない将来、必ず名を上げることになると思っていたから別に驚いてはいない。
「そういやお前、那須さんと知り合いだって言ってたよな?紹介してくれよー」
「あまり人付き合いが得意な人ではないから」
「そんなー」
人付き合いを嫌っている人物なのでレシピの購入の際にもどうせ金倉が間に入っているのだろう。短い付き合いではあるが那須の性格は理解しておりコミュ障の彼女が外部の人間とまともにコミュニケーションが取れるとは思わない。一応、顔を出しておくかなと思っていると陣内が入ってきて皆席に着く。
「えー、来週はギルド見学があるからそれについて話すぞー」
ギルド見学は一年生の中でも体育祭に並ぶ、行事で体育祭での活躍でギルド側から招待が送られることもあれば自分の希望するギルドに見学に行くかの二種類で学校は多くのギルドと繋がりがあり多くの選択肢を用意してくれている。
命は誘いがあった一角獣ギルドに行くつもりであり一応、招待に応じる旨を安城を通して伝えてもらっている。
「招待来てない奴は見学希望の用紙を出しとけよー」
そう言って陣内は教室から出ていき宍戸が机の上に座って来る。彼も招待を貰っているらしくかなりの大手だと自慢していた。
「柏崎はどこ行くんだー」
「内緒」
「俺とお前の仲だろー、隠し事とかすんなよー」
ダルがらみしてくる宍戸。正直に一角獣ギルドから招待が来たと言ってしまったら大騒ぎになるのは目に見えており適当に招待を貰ったと誤魔化す。一応は魔法職に競技を一位で通過しているので招待が来ても可笑しくなく確認してみたら一角獣ギルドの他にも名の知れたギルドから招待が来ており宍戸に招待を送ったという蒼獣ギルドからも招待が来ていたが言わない方がいいだろう。
「昼飯行こうぜ!」
「まぁ、いいけど。俺、弁当だよ」
「何!お前にそんな家事スキルがあったのか!」
久しぶりに授業を受けて宍戸から昼飯に誘われる。弁当を羨ましがる宍戸だが実際はバトラーに作らせたものであり彼女とかそういう浮ついた話は一切ない。宍戸は購買で適当に菓子パンを買って風通しのいい屋上で昼食を取ることにする。
「何だよ……その重箱」
「いや、普通の弁当箱でも良かったんだけど安かったから」
ずしんと重量感のある重箱でバトラーに飯を作ってもらおうとダンジョンの帰り道に店によって弁当箱を探していると探索者割引が適応されていた重箱に目が行き思ったよりも安くて買ってしまった。重箱には所狭しと料理が並べられていてどれも手間暇かけられたものであり一流の料理人の料理とも遜色ないできであり宍戸も思わず生唾を飲む。
「なぁ、俺にも少しくれないか?」
「勿論。構わないよ」
そう言って二人で弁当を食べる。あまりの美味しさに宍戸も舌鼓を打っておりこんなのを体験したら菓子パンには戻れないと嘆いている。料理のスキルを持つものなんて限られており一流の料理人でも料理のスキルを持っていないという事でありバトラーの料理はそれだけ価値が高いという訳であり召喚して良かった。
「ふぅ。ごっそさん。スゲー、旨かったぜ」
「それは良かったよ」
かなりの量だったが二人で食べればあっという間で食べ終わって宍戸は満腹で床に倒れこむ。余程、美味しかったのか弁当の殆どを宍戸が食べており全く食い意地が張っている。昼食を終えてゆっくりしていると昼休みを終える鐘の音が響き急いで教室に戻る。
それから授業を終えて放課後となり命は久しぶりに金倉の所に顔を出そうと工房に向かうと何時もよりも多くの人が集まっており生産職らしかなぬ格好の者やスーツを着た大人まで居る。金倉の工房の前に廊下を埋め尽くすほどの人が居り何事かと思ったら那須のポーションのレシピを求めている人なのだと分かる。
「命くん!こっち、こっち!」
行列の先で金倉が手招きしており命は行列の間に入ってなんとか金倉の工房に入ると案の定、那須の姿もあり酷い隈を作っておりフラフラで今にも倒れそうな状態だ。
「随分と大変な目に合ってるみたいだな」
「大変なんてもんじゃないよ!連日この有様で休む暇すらないんだから!」
「こ、こんなことなら作らなきゃ良かった」
かなり参っている様子で話を聞くと那須が開発した改良したポーションは高品質の素材に薬師である那須でもない位、作れない困難なものでレシピを売ってもそれを作れるものは限られておりそういうこともあり現物を作れる那須に国中から人が集まっており大手のギルドの人間も足繫く通っており連日ポーションを作る作業に限界寸前な状態なのである。
何とかしてやりたいがただの一年生である命に出来ることなど限られておりどうしたものかと考えると名案が浮かぶ。要はあまりにも押し寄せる人が多くてパンクしているという事でありならばこの大勢の人に対応できる対応係がいればいいのだ。
「安城先輩。少しいいですか?」
電話したのは新聞部の部長である安城で外部と幅広いコネを持っている安城に任せればこの状況を改善することが出来て安城は快く引き受けてくれて早速、行動に移して工房前にいた大勢の人間がきれいさっぱりいなくなっている。
「一体、どんな手品を使ったの?」
「持つべきものは友人という事だよ」
まぁ、その代わりに独占取材を受けて欲しいとのことだったがこの状況を解決するためらならば致し方無い。多くの人が集まって緊張していた那須は緊張の糸が切れて眠ってしまっており連日この調子であまり眠れていなかったのだろう。
「寝かせといてあげようか」
「だな」
金倉は那須をソファーの上に運んで眠らせる。泊まり込みの作業が多いからと設置したもので意外と寝心地がいいらしい。命は手に入れた魔石を金倉に渡して工房を後にする。
寮に帰るには早い時間でありダンジョンに潜るには中途半端な時間でどうしたものかと考えている。学校に入学してからダンジョンに潜ってばかりで他に暇を潰す方法が見当たらず装備でも見に行こうとも考えたがそれも何か違う気がして久しぶりのオフに何をすればいいのか分からずにいる。
「柏崎くん?何してるの?」
「樋口じゃん」
私服姿の樋口の姿があり取り巻きがいないことを考えるとダンジョンに行っていた訳ではないようだ。結構ラフな格好であり流行の服を着ており意外と服装は気にするようだ。
「何してるの?」
「何も。ただ、ぶらついてるだけだよ」
「そうなんだ」
そう言って樋口は命の隣のベンチに座る。意外と距離が近くドキドキするような状況だがそんな気がないことは分かっておりそんな気にはならない。樋口は男子と距離が近いことで有名でそのことで勘違いした男子が樋口に告白して玉砕するのは学校の語り草であり樋口の無防備さは健全な男子には毒だが命は全く興味ない。
「五階層踏破おめでとう!流石だね!」
「ありがとう。樋口も直ぐに踏破出来るよ」
フラウとは比べ物にならないならない練度の神聖魔法を有する樋口のパーティーは他のパーティーとは比べ物にならないタフネスを持っており四階層を踏破できたのも彼女の力によるものが大きい。命や小林のパーティーにはない大きな武器であり彼女が成長すればそれだけでパーティーが大きく成長する。
「でも、五階層のトロールに苦労させられてて」
無理もない。トロールはオークを上回る筋力に強力な再生力を有しており樋口の神聖魔法とはあまり相性がいい相手とは言えない。樋口のパーティーメンバーの中にもかなりの実力の戦士職もいるとのことだがトロール相手ではまだ、劣っているようで随分と苦労していることだろう。
「エンチャントはどうかな?割と戦力増強に繋がるよ」
「エンチャントって付与術の?そんなの難しすぎて使えないよ!」
「コツさえ掴めば簡単さ」
そう言って命は転がっている小石にエンチャントを施し、樋口の手の上に乗せる。エンチャントの極意は魔力コントロールにあり繊細な魔力コントロールによって成功するか否かが変わり手っ取り早いのはエンチャントを成功させるための魔力コントロールを覚える事。
「よく見てろよ」
樋口の掌の上に小石を乗せてゆっくりと魔力を巡らせる。繊細な魔力コントロールに加えて対象に適した魔力を加えることも重要であり属性によって様々で筋力を強化する火属性のエンチャントが一番、魔力を消耗する。
「凄い……」
こんな小さな小石が魔石に見えるほど魔力が注入されて魔力が巡っておりまるで精巧なレース作りを見ているような気分であり樋口はそれを瞬きもせず熱心に観察している。自分がエンチャントを使えるようになったら命の言う通り大きな戦力アップになり高等技術とはいえここまで丁寧に教えてくれているのだから出来なくては命に申し訳ない。
そうして樋口は命からエンチャントについて詳しく教わり日が沈もうとするくらい長い時間、特訓を続けてやっとエンチャントを成功させる。
「やった!柏崎くんのお陰だよ!」
「樋口が頑張ったからさ」
お世辞ではなくこんな短時間でエンチャントを習得するとは命も思わなかった。エンチャントは魔法職の中でも高等技術に分類し使えない者は一切使えないことで有名で命は魔力コントロールを得意としていたから何とか習得できたが魔力コントロールも分からなかった神官職の樋口が習得できたのは才能というしかない。
「でも、こんな凄い技術教えてもらってよかったの?」
「クラスメイトが困ってるんだから力になってやりたいだろ?」
「柏崎くん!本当にありがとう!」
感激して抱き着いてくる。避けることもできたが流石に失礼かと思って抱き留めもしも、この光景を他の人、特に樋口のファンクラブに見られたらと思うと戦々恐々する。樋口は我に返ったのか顔を赤くしながら離れて気まずい雰囲気が流れる。
「そろそろ、寮に帰った方がいいな。送るよ」
「そんな、気にしなくてもいいのに」
「こんな暗い時間に女子一人歩くのは危険だよ。学校内とはいえね」
樋口の手を取って女子寮の入り口まで彼女を送り届ける。バイバイと控えめに手を振る樋口を見送って自分も寮へと戻る。




