家の事情で結婚した私。満足のいかぬ生活を過ごしていたら幼馴染にもらわれました。
私の幼馴染は美しい人だった。
笑顔がまぶしくて、緑髪の長身の彼。
私の幼馴染ではもったいないくらいの人だった。
私はそんな彼を恋愛対象として見ていた。でも、彼は私なんかとは付き合わないと思っていた。
だから私は彼を友達として見ていた。
そう、胸に宿るどきどきを抑えながら。
それから7年の月日がたち、私は結婚した。
私の結婚相手、グリス伯爵。
彼とははんば、家の事情で結婚したようなものだ。
何しろ、男爵家の私たちの家からしたらかの家からの求婚は喜ばしい事だった。
どうやら私に一目ぼれしたらしいグリス子爵は私を欲したらしい。
それからあれよあれよと話が進んでいって、私はあっという間にグリスさんと婚約することとなった。
「ここが俺の家だ」
そう言われ、家に案内される。その家は荘厳としか言いようのない感じだ。
庭もちゃんと整備されていて、術得tが私にはもったいないばかりの家だ。
私はその庭をグリス様の後ろを歩く。
グリス伯爵。彼の背中は大きい。
正直恋愛対象かどうかは悩ましい事だが、一生をここに置く。それで構わないとさえ思える。
それはお金の問題ではない。
女はいかにいい家に嫁ぐかが大事なのだ。
中に入ると、素晴らしき家の様相だった。
特に着目すべきはシャングリラだ。
あの輝き、恐らくはよほどの高価な宝石で彩られているのだろう。
これから私はここで暮らす。そう思うとわくわくと同時に不安が生じる。
幼馴染のアインとはもう4年会っていない。
でも、私の脳裏には彼の姿が思い浮かぶのだ。
そしてまだ正式な婚約は結んでいない。
私はまだ断ることもできる。
だが、それをするには家から多大な失望と共に、勘当される可能性もあるけど。
だから、私はそれをうけることにした。
そして住み始めてから一月が経った。
グリス様は相変わらず常に働きに出ているようだった。
忙しそうだ。
だから一緒にいる時間はそこまでない。
しかし、共に過ごす時間は素晴らしきものだ。
これが百点の生活だとは思わない。不満が無い訳ではないが、私は思うのだ。
これこそが、女としての幸せなのだと。
ある日、私はふと遊びに行った。
家を飛び出し、召使の人達に挨拶をかわし、町へと飛び出した。
勿論、家にずっといなければならないわけではない。
街へと行くのは久方ぶりだ。
私の家は元々そこまで裕福ではなかった。
だから、召使などもほとんどいない。
所謂没落期族だ。
だけどそんな中、私はグリス様に嫁ぎ、そして多大なお金を手にした。
本当はこんなもの使用人に行かせたらいいのだ。
だけど、私は買い物に出る時間がいつも大好きだった。
メイドをやとう財力はあるみたいだけど、私はそれを断った。
その生活は楽だけど、少し嫌だった。
理由を聞かれたらなんとなくとしか言えない。
けれど、家事も仕事もしないでぐうたらなんて言うのが嫌だったのだ。
それをしたら人間として終わってしまうと思ったのだ。
街は素晴らしい。
別に家が嫌いなわけではない。
だけど、私には少し豪税すぎるのだ。
豪勢な家が悪い訳ではない。
だけど、一人でいるのには少し広すぎるのだ。
そのようなことを考えていると、市場に着いた。
ここでいろいろと食材を調達したり、買い食いをしたりする。
フランクフルトやポテトを買い食いするのは地味ながら楽しいのだ。
だけど、私が街に行きたい理由はそれだけではない。
もっと大きな理由がある。
私の場合は町に来て、ケーキを食べるのが毎度の楽しみだ。
このために町に来ていると言っても過言ではない。
私は早速ケーキ屋さんへとやってきた。
そして、ケーキと紅茶を頼み席に座る。
この時間が人生で一番至福な時間かもしれない、と思う。
「あれ」
ある男性が私の前に立った。
え、なに?
いったい何の用事?
「君は、ルナだよね」
その言葉に私は無言で首を傾げた。
「僕のこと覚えてる? レイだよ」
「レイ?」
レイ、私の幼馴染の名前だ。
同名なだけ?
でも、彼を見ると、幼き頃の彼に似ている。
「もしかしてレイ?」
「だからレイって言ってるだろ。ルナ」
呆れたように言う彼。
「レイ、レイだ!!」
私は、彼の手を取る。
「まさかここで会えるとは思っていなかった」
「どうしてここに?」
「野暮用で立ち寄ったんだ。そのついでにルナに会えたらいいなと思っていたが、本当にいるとはな」
「うん。私も思っていなかった」
まさか例がいるなんて。
いつも通りのつまらない日々が光り輝く気配がする。
レイは河原に用に見えて色々と変わっている。
その面影は残っているけど、でもかっこよくなっている。
私はその顔を見て、思わずふふと笑った。
その姿が凛々しすぎて。
「それで、ここに座っていい?」
「いいよ」
私はそう頷く。むしろ座って欲しかった。
積もる話をしたいのだし。
「そう言えば髪の毛は染めたの?」
緑髪だったはずだ。だけど、今は金色になっている。
「染めてないよ。勝手にこうなったんだ」
そう言って、頭をポリポリとかくレイ。
懐かしい気持ちでいっぱいだ。
「それでルナは、最近どうなんだ?」
「実は私結婚したの」
その言葉に、彼は驚いた顔を見せた。
「いつ?」
「つい数週間前」
「……」
彼は黙ってしまった。
言葉を必死に探している、という表情だ。
「ならここにいない方がいい?」
静かに彼は言った。
「不倫になるから」
不倫、それは確かに。
女性の不倫に関しては後ろ指をさされることが多々ある。
女性は一人の人としか同時期に子をなしえない。
男性の不倫は仕方ないとされるが、女性の場合は不誠実と言われるのだ。
「大丈夫。ばれなきゃいいから」
「ばれなきゃって」
「それにこれは、再会した幼馴染の親睦会だから」
「それならいいんだけど」
周りをきょろきょろとする。しかし、そこに私たちを見ている人の姿はなかった。
「それで今幸せなのか?」
その言葉に、私は一瞬目を丸くした。
今が幸せか。私はその言葉に幸せとは言えなかった。
お金はある。生活に不自由していない。
相手の方も悪い人ではない。
しかし、人生このままでいいはずがないとも思っている。
「頷けないのか」
「幸せなはずなのだけどね」
私の要望は大体通るし、今つけているネックレスも高価なものだ。
お金をふんだんに使われている。それだけ愛されているのだ。
少しだけ嫌な部分もあるけど、それらのマイナスポイントを除いても十分に良条件だろう。
出も満足などできるはずがない。
人生の残り全てを費やすには少し足りない。
「私はただ、レイがいなくなって寂しかっただけなの」
その言葉にレイは顔を赤くした。
「だから今日来てくれてありがたかった」
会いたかった。
でも、その時に少し思った。
きっと、私はこれからちょっとショックを受けるだろう。
理想とのギャップに。
いな、もう既にショックを受けているのだ。
グリス様は別に嫌な人ではないはずなのに。
だから――
「もっと早く来てくれたら良かったのに」
そしたら婚約する前に、彼と結婚できたかもしれないのに。
でも、それはただのタラレバだ。
昔から、彼は私の事が好きだという言葉を一度も聞いてはいなかったのだから。
私はその場でそっとため息をつく。
「今はどこに住んでるの?」
「ああ、今度仕事の関係でこの近くに住むことになったんだ」
「へー」
「だから毎日会えるぞ」
そう、にっこりと笑う彼の表情に少し、見とれてしまった。
「今からでも、婚約破棄ってできない物かしら」
彼が現れなくても、なんとなく上手く行っていなかったというのは自明だった。
その状態で、上手く行かない事をアピールするとか。
「難しい顔をしてるな」
「ええ、それは当然です」
今、必死に方法を考えているんだから。
「それなら、いい方法がある」
「いい方法?」
私は首を傾げた。
そして私は家に戻ったあと、夫の帰りを待った。
この時間もまた緊張する。
何しろ、今は自然にいられるが、夫が戻ってくると、そうも言っていられなくなる。
彼は何も悪くないとは思うのだけど。
でも、気が休まらないのだ。
「ただいま」
彼が帰ってきた。
私は笑顔で「おかえりなさい。ご飯は出来てるわよ」と言った。
そして二人の夕食が始まる。
しかし、私は切り出さなくてはならない。
「ごめんなさい。こんなことを言うのは卑怯かもしれないけど」
私は息を吸った。
「婚約を破棄してください」
震えながら言った。
その言葉に夫は目を丸くした。
「それはどうして……?」
「ごめんなさい。幼馴染が来て」
そう、幼馴染が来たのだ。
彼は実のところお金を稼いでいたのだ。
あの日に、彼は提案してくれた。
『君が良ければ俺が貰ってあげる』と。
元々、この街に戻ってきた理由は、お金儲けの商売が嫌になったかららしい。
仕事の関係とは言っていたが、その実態は嫌になったらしいのだ。
だから、知り合いの多いこの街に戻ってきた、という事だ。
そして、身を固めたいと思っていたらしい。
彼は冗談で言ったのかもしれないし、本気で言ったのかもしれない。
本気で言ったとするならば、あまりにもお粗末なプロポーズだ。
しかし、私はその言葉にときめいてしまった。
今の人生から、脱却したい、彼と一緒にいたい。
そう思ったから。
それに彼はこうも言っていた。
『君が結婚したと聞いて、少しショックだった。君と生活したいと思ってこの街に来たから』と。
「ごめんなさい」
私はもう一度頭を下げる。
そう、卑怯な行動を起こしてでも。
「婚約破棄してもらえないでしょうか」
私は強くそう言って、
静かにまた頭を下げる。
女性から婚約破棄などというのは基本的に不可能な行為だ。
だから、婚約破棄してもらうしかない。
「俺との生活が嫌だったのか?」
そう、彼はおずおずと訊く。その顔を見ると、少し申し訳なく思う。
だって彼は別に何も悪いことをしてないのだから。
「分かった」
だが、案外あっさりと彼は言った。
「俺も分かってたんだ。君の心をつなげられてないってことは。俺なりに君を笑顔にさせようと思っていたけど、それは無理だったみたいだ」
その顔は少し泣きそうなものに見えた。
それを見ると、本当に申し訳ないと思う。
「君は幸せになるがいい。でも、たまに俺にも会いに来てくれたら嬉しい」
その言葉は、静かにそして私に罪悪感を植え付けるには十分足るものだ。
私は、本当にこの方法しかなかったのだろうか。
もっとクズで傲慢な人だったら私は何の罪悪心もなく提案できたのだろうなと思った。
私は……。
「そんな暗い顔をしないで欲しい。俺はお前を縛るつもりはない。お前は自由に過ごしてくれればいいんだ」
「分かりました」
そうにっこりと笑って言ったが、私の心は晴れなかった。
私は好きでもない人から離れられ、好きな人と結ばれる。
これだけ聞いたら幸せに聞こえるのに。
私はクズに慣れない。だから、苦しんでいるんだ。
クズにさえなれたら。
……そんな事を考えても意味がない。
そう、私は自分をだませばいい。
夫の許可が貰えた。いい事じゃない。
そしてその数日後。
私と夫の離婚が正式に、公的に受理された。結局理由は、おっとのマンネリによる婚約破棄となった、
夫は最後まで私をかばってくれたらしい。
私には何の非も無いようにしてくれたらしい。
実際には私にしか非がないはずなのに。
「新たな生活の始まりだな」幼馴染の彼は笑ってそう言った。
「うん」私は頷く。
彼が、元夫が許してくれたから、この生活が出来る、その事実は忘れない様にしよう。
そう、私は思った。
★★★★★
俺は、彼女の事が好きだった。
だから俺は彼女を解放した。
ああ、分かっている。これは、俺にとってそんな選択。
そして、俺が損な正確なことを。だけど、仕方がないじゃないか。
俺にとって彼女は高嶺の花過ぎたのだ。
彼女は俺からいつか離れる運命だったのだ。
彼女の美しさは、俺からいつか離れる運命だったのだ。
そう、最初から。
俺はまた一人になってしまった。
でも、いいさ。俺は一人で。
彼女が幸せなら。
★★★★★
彼は、レイはお金を持っていたらしい。しかし、家は質素なものだった。
「私、これからレイと一緒に過ごせるのね」
そう笑顔で言った。
レイとずっと一緒に過ごしたかった。
ちなみにまだ結婚という形はとっていない。
ただ、振られた私をレイが家に呼んでくれた。と言った設定になっている。
「そう言えばレイは、何でああいってくれたの?」
「ああ、とは?」
「私を解放するための言葉、っていう事は分かってるわ。でも、それが実際に、レイがどう思ってたのかなって」
「……俺は本気だったよ」
「本当に?」
そう言って私はレイに抱き着いた。
「ああ、本当だ」
その言葉を聞いて、私もまた「好きだよ、レイ」と言った。
すると、彼の口から、「ああ、俺も好きだ。ずっとルナが好きだった」と帰ってきた。
「私ね、子どものころずっとレイの事が好きだったの」
「奇遇だな。それは俺もだ」
「ふふ、私達似た者同士だね」
「ああ、そうだな」
そして私たちは再びのハグを交わした。